「私をガンダムを待っていただと……。」
「だから他のモビルスーツは私に掛かって来ないのか?」
流石に格闘/白兵戦に特化した機体ギャンの発展系だけの事はある。
ディアナの手にするビームサーベルでは、押し負けしつつあった。
「……パワー負けしてるッ!」
「くっ!」
「ふぁ……ファンネルッ!!」
ニコルはファンネル攻撃を思い浮かべた。
ディアナのショルダープロテクター後部に装備された6基のファンネルが、左右から3基づつ上方へ射出された。
今はまだ、頭に思い浮かべてから、コンマ0.2秒もの遅れが生じていた。
ニュータイプであるマルシェの娘ウシャスには、悟られてしまう。
「レベルの低いニュータイプね。」
「お前の"感応波"には、タイムラグが目立つわね。」
「ほらほら、ファンネルに感応波を使いすぎて、パワー負けしてるんじゃなくて?」
ディアナの右手首関節部から複数の白い煙が、昇りはじめた。
ニコルの眉間にシワが寄り、左目を閉じ、奥歯を噛み締める表情に変わって行った。
「ぐぐぐぐぐっ。」
「負ける訳には行かないッ!!」
「乱れ撃ちだぁぁぁぁぁーーーッ!!」
ニコルのファンネルによる捨て身の攻撃に、目を丸くするウシャスは、軽く退いた。
「鬱陶し、ファンネルども!」
「墜ちろッ!!」
ウシャスもまた、フィン・ファンネルを射出した。
ウシャスの操るギャン・クリーガーは特別仕様に造られている。
これはただ単にマルシェの娘でモビルスーツ隊総隊長だからではない。
ウシャスがニュータイプだからである。
バックパック両脇に平仮名の「くの字」に大小2基づつ、大きいフィン・ファンネルが下に小さいフィン・ファンネルが上に計4基、装着されたフィンタイプのファンネルが、親衛隊機の一般機と外見上の違いがある。
そんな中、残った改サラミス級がムサイ級との砲撃戦に敗れ、宇宙(そら)のデブリと化した。
「キャンベラ(改サラミス級)轟沈!!」
レーダー/通信オペレーターの報告にユーウは、ディアナを後退させた。
「ニコル機へ。現在、交戦中のクリーガーを引き離し、ホルスの護衛に入れ。」
「……了解!」
「了解はしたものの、簡単に行かないわよ!」と、心の中で叫んだ。
相手はニュータイプ、フィン・ファンネルを巧みに操り、間合いを詰めてはビームランスで攻めてくる。
ニコルはニコルでガードするも、飛ばしたファンネルの制御が愚(おろそ)かになる。
「くっ!」
「これ以上、ファンネルを操れない!」
「ダイジョウブ。」
突然、何処からか聴こえる声。
「えっ!?」
「ニコル!今だ!後退しろッ!!」
それは突然の出来事だった。
ディアナ開発主任カトウの搭乗するコロニー警備艇ヴォルホッグがニコルのディアナとウシャスのクリーガー間に割って入って来たのだ。
「こんな俺でも、小型宇宙艇くらいは飛ばせるんだよ!!」
ニコルは驚きながらも、カトウの助け船により、後退する事に成功するが、火に油を注ぐ事に成った。
「……何なんだ!?」
「五月蝿いんだよ!!墜ちろッ!!」ウシャスはシールド内に固定武装されたビームガンを撃ち放つ。
連射された輝かし光弾の嵐がカトウ機を襲った。
「……カトウ…さん。」後退するディアナのメインモニタには、螺旋を描(えが)き黒煙を撒きながら、宇宙(そら)の彼方へ消えてゆく光景だけだった・・・
ホルスの放つ弾幕が厚く張られた。
ユーウは、ディアナの緊急着艦とジオン強襲部隊、引き離しを試みた。
「カタパルトハッチ、オープン!」
「ガンダム・ディアナの着艦を急げ!」
「着艦後、機関最大へ!!」
辛うじてジオン強襲部隊との距離を引き離す事に成功するが、ホルス艦内は深い哀しみに包まれていた。
◆
哀しんでばかりはいられない。
艦長であるユーウは連邦本部に連絡を入れた。
ランデブーポイントにて、合流した友軍艦艇、旗艦プリンス・オブ・ウェールズ及び改サラミス級2隻を失った事を報告した。
本部から言い渡された言葉に自身の耳を疑った。
それは、代わりに自分たちが強襲部隊を振り切り、ベルファスト基地へ届けると云う内容であった。
「……」
暫く、ユーウは沈黙、ブリッジ内は機械音だけが、何時もと何ら変わりなくBGMのように流れていた。
「……艦長。ユーウ艦長。」
ニコルが一番先に口を開いた。
我を取り戻したユーウ。
そのユーウは一度、ブリッジ内を見渡した。
ブリッジに居るクルーは任務をこなしながら視線はユーウ、艦長ユーウに向けられていた。
「ビワ通信オペレーター。」
「全艦放送を行う。」
「了解。」ビワ少尉は「カタカタ」とキーボードを叩き、艦長放送の準備を整えた。
「全艦に通達。」
「艦長のユーウだ。」
「クルー全員に伝える。」モニタには何時もより、下向き加減のユーウが胸から上が映し出された。
「本艦ホルスは現時点を持って、作戦変更により、地球ベルファスト基地へ赴く。以上だ。」
カタパルトデッキ、格納庫、機関区、医療区、ほか移住区に居合わせた者はみんな、設置されたモニタに耳を傾け、中には作業を中断し、見入る者まで居た。
艦長ユーウの放送が終るとザワザワと騒がしいくらいにクルーたちの私語や噂話が、まるで風邪が蔓延するかのように広まった。
そんな中、アナハイム・エレクトロニクス、ディアナ開発責任者である、アマノは側でザワザワと騒がしく話す者たちに「今、憶測で騒いでも仕方ない。今は艦長に従い、生き抜く事を考え、行動する。」と云い、「それが嫌なら、艦長に下艦を申し出ろ。」と告げた。
この言葉で騒ぎは収まった。
「仮に強襲部隊が追って来ても、ムサイ本体は、大気圏突入は出来ない。」
「コムサイだけだ。」
「4機のモビルスーツも戦闘を仕掛けられない。だが、このホルスは艦(ふね)ごと大気圏突入が可能だ。」
「それに連邦の制空権内だ。今よりは、ずっと安全だ。」
こうして、予定は全て狂わされたが、クルーは生き残る事を選択した。
◆
ホルスに振り切られる形と成ったウシャスはもう一度、強襲を仕掛ける事にした。
「あのガンダムのパイロットを引きずり下ろすわ。」
「御意。」
「必ず引きずり下ろし、わたくしの股の下を這いつくばわせてあげるわ。」キャプテンシートに仁王立ちに成りながら「ニヤリ。」と笑みを浮かべウシャスは、そう心に思い描(えが)いた。
第七話へ
つづく。
この物語りは「機動戦士ガンダム」の外伝です。
登場する人物、企業等は全て架空です。
実在する人物、企業等は関係ありません。
使用している挿し絵的画像はイメージです。