
「それにしても、随分とレベルの低い制御システムの詰め合わせの艦(ふね)が、最新鋭とは、お笑いね。」
「唯一、波動エネルギー制御システムだけは、誉めれるレベルね。」機関区を調べるヴァルキリア・コマンダーは、まやかしのホタルが駆除されている事に気がつかずにいた。
隈無く地球人類の情報を探るべく、"夢遊病者"状態のクルーに片っ端から接触、情報を聞き出していた。
「そろそろ、定時報告ね。」と、何処か無線を飛ばせる場所をと探した。
そこへ古代、美晴、制御システムサポート・アンドロイドが幻覚、幻影等を取り除き、ホタルの駆除をしながら距離を詰めて来る。
ヴァルキリアに焦りはない。
上手くやり過ごせるはずだった。
だが・・・
「コダイ二等宙佐、アソコニ正常値ニ戻ったクルーがイマス。」
「おっ!そうか。」
「アンドロイドA-7(エー・セブン)はホタルの駆除と、制御システムのチェックを。」
「美晴君は自分に付いて来てくれ。」
「了解。」
「カシコマリマシタ。」
「君。」
「そこの君。」
古代は機関区に忍び込んだヴァルキリア・コマンダーに声を掛けた。
ヴァルキリアに声は届いていたが、夢遊病を装う芝居をした。
「ん!?」
「わたしですか?」
「そう。君だ。」
「正気に戻れたようだね。」
「えっ!?」
「あっ。はい。」ヴァルキリアは両目をぱちくりさせ、ホタルが駆除され、正常に戻りつつあるのか・・・と思い、芝居を止めた。
「君。名前は?」
「あっ。わたしは……」ヴァルキリアはとっさに名前を云う前に、入手した身分証を差し出してしまう。
「橋本 理恵。おっ。衛生科所属か。」
「昔の雪を思い出すな。」
「おっと。失礼。余計な事だったな。」
「ところで、まだ、完全に戻っていないのかい?」
「あっ。いえ、少しボーとするくらいで、大丈夫です。」
「そうか。衛生区まで送ろう。」
「チッ。しつこいな。」と思うヴァルキリアは相手は二人、楽勝だなと、古代を突き飛ばした。
「……お、おい?」
「待て!」古代はよろけながら右手を伸ばした。
よろける古代を美晴が支えた。
「ちょっとアンタ!」
美晴の制止を無視し、ヴァルキリアは走り出した。
「古代教官!」
「この身分証を見て下さい!」美晴は慌てた様子を見せながら、興奮した口調で云った。
「どうした?」
「そんなに興奮して?」
「これ、よく見て下さい!」
「あの下士官の橋本 理恵さん、太陽系外周パトロール艦浅間(あさま)所属です!」
「浅間は2ヶ月前に何らかの事故で消息不明に成った艦(ふね)です!」
「座学中に飛び込んで来た臨時ニュースで知り、今でもよく覚えています!」
「その時、発表されたクルーに橋本 理恵さんの名前と顔写真が今でもハッキリ覚えています!」
古代は目を丸くし、ヴァルキリアの後ろ姿を追った・・・
◆
「ワルキューレ!聴こえるか?」
「此方、ヴァルキリア!」
「人間にバレた!始末するか?」
「ネルソネアだ!ヴァルキリア、少し事情が変わった!制御システムにハッキングを仕掛け、その二人を振り切れ、間違っても殺すなよ!転送回収する!」
「ラジャー!」
ヴァルキリアは走りながら電脳による制御システムにハッキングを試みた。
「波動砲制御システム!?これは面白いものをハッキング出来そうだな。」
自身のネットワーク回線をブルーノア基幹コンピュータにアクセス。
セキュリティーは先にバラ巻いた宇宙バクテリアによって既に解除されたまま、まだ復旧されていなかった事も重なり、楽にアクセスが可能だった。
「これでよし。と。」ヴァルキリアがハッキングに成功させた。
ブルーノアは波動砲発射体制に入ってしまう。
同時にメインブリッジ内では、突然の出来事に慌ただしく、混乱していた。
「……なっ!何が一体?」
「艦長!C.I.Cシステムが勝手に動きはじめています!」
「はっ!波動砲制御が解除、発射体制に入っています!」
「艦首回頭をはじめました!」
「何っ!?」
「……バクテリアの仕業か!」
「砲雷長!回線は切れないのか?」
「サポート・アンドロイドに制御出来んのか?」
「現在、サポート・アンドロイドにコンタクトを開始、制御を全力で行わせています!」
◆
「古代二等宙佐。ブルーノアは波動砲発射体制ニ入りマシタ。」
「なっ!何だって!」
「波動砲発射体制に入っただと!?」
「くっ。」
「さっきから感じていた艦(ふね)が動いている感覚は、これだったのか!」
「A-7!それで艦首は、波動砲の標的は?」
「ハイ。目標ハ、アクエリアスの涙デス。」
「佐々木。彼女、橋本を追え。」
「逮捕へ向かえ。これは逮捕時の威嚇又は抑止力に使え。」
「俺はブリッジに戻り、波動砲発射を阻止する。」
「了解。」
◆

「ネルソネア元老院!地球戦艦に動きが現れました!」
「艦の向きを変えました!」
「うむ。」
「コマンダーが動かしたのかも知れん。」
「オペレーター!コマンダーの位置を特定、転送回収せよ!」
「ネルソネア元老院!地球戦艦の機関及び艦首に熱量が高まりつつあります!」
「急激に高まっています!」
「……!」
「オペレーター!回収を急げ!」
「航海士!緊急ワープの準備だ!」
「元老院!ディンギルの宇宙艇は放っておくのですか?」
「放っておけ!我らの存在を隠すのが先決だ!」
「ヴァルキリア・コマンダーの回収を確認!」
「うむ。」
「航海士!緊急ワープだ!」
ブルーノアに潜入したヴァルキリア・コマンダーの回収が終わり、ワルキューレは緊急ワープで、当該宙域から姿を消した。
また、異変に気がついたディンギル残党のラルゴールム級もまた、当該宙域から離脱した。
そうこうしている内にブルーノアの波動砲発射体制は完了、波動砲はアクエリアスの涙に向け、発射されてしまう。
◆
「超火焔直撃砲!発射よーい!」
「続いて、瞬間物質転送波送射開始!」
「座標入力完了!」
「超火焔直撃砲発射準備完了!」
「砲撃士。撃て!」サーベラーの号令によって三連射された超火焔直撃砲。

「有り難く、お借りしておくわ。」
「この借りは高くつきそうだけど、必ずお返しするわ。デスラー。」
「当てにせず待つとするよ。サーベラー総参謀長…いや、国家元首閣下。」
元白色彗星帝国ガトランティスのNo.2サーベラー総参謀長は、確かに当時の大帝ズォーダーの逆鱗に触れ、崩壊する都市帝国に置き去りにされ、誰しもが死亡したと思っていた。
だが、サーベラーは表向き泣き叫びながら、密かに自身直轄の部下に撤退命令を出していたのだ。
全部下の脱出は無理だとしても、自身の手足と成る優秀な側近が残れば、帝国再建は叶うと考えていたからだ。
幸い、数多くの部下の脱出はサーベラーにとって、帝国再建の良き弾みと成った。
サーベラー自身は崩壊がはじまる中、以前、自身が直接、戦略指揮を取り、配下に納める植民地惑星を得る時の為には、「どうしても必要だと。」大帝に頼み、与えられた戦闘艦:メダルーザ級改良型に座乗し、崩壊する瓦礫に紛れ、脱出していたのだ。
ズォーダー本人にとっては、強気に出てはいたものの背水の陣に近かった為、脱出艦艇の存在等を確認するその余裕はなく、地球人類とヤマトを含む地球軍を殲滅する事しか頭には無かった。
こうして、サーベラーは直轄の艦艇数隻と脱出に成功したのである。
その後、数ヶ月、宇宙を放浪中、ガミラス残党艦隊と遭遇、サーベラー座乗戦艦ヒュードラは拿捕され、捕虜と成ったサーベラーは奴隷並みに扱われていたが、尋問に訪れたデスラー総統に救われ提案を受け入れた。
「ヴァニ親衛士官。将には将としての扱いがあると云わなかったかな?」と奴隷並みに扱かわられるサーベラーの目の前で射殺し、両手と首を固定具で固定され、鎖で吊し上げられたサーベラーを下ろすよう侍女に命じた。
「サーベラー。済まなかったな。」デスラーは自身のマントを脱ぎ、サーベラーの肩の上から羽織った。
デスラーはサーベラーのプライドを傷つける事なく配慮し、互いに不可侵条約を結び、ガミラスはガトランティスの技術をそしてガトランティス(サーベラー残党)は、デスラー砲(波動砲)技術を提供された。
「……それ故にかも知れんな。」
◆
「超火焔直撃砲!着弾を確認!」
「地球戦艦の撃ち放った波動砲拡散着弾点にて、これを退け粉砕!」
「うむ。」
「流石はガミラスの波動エネルギーシステム。超ロングレンジ攻撃も可能に成った。」そう思うサーベラーは命令を下した。
「いくら太陽を背にしての行動とは云え、バレる前に撤退する。」
「航海士。ワープにて当宙域を離脱せよ!」
「御意。」
サーベラー座乗艦メダルーザ級ヒュードラは地球圏から消えた・・・
◆
奇跡のようにブルーノアの発射した拡散波動砲は、拡散地点着弾位置到達と同時にサーベラー座乗戦艦ヒュードラから発射された超火焔直撃砲着弾によって弾かれ、全く違う方向へ散弾、アクエリアスの涙には微塵の被害も出なかった。

「……。」
「何が……。何かが起ころとしているのか……。」古代の心にそんな思いが浮かんだ。
直ぐに艦長からの報告を受けた防衛軍司令部は、即座に戒厳令を敷き、ブルーノアのクルー及び古代らには「他言無用」とされた。
記念式典観覧の政府関係者や一般市民には、サプライズのデモンストレーションだと説明された。

記念式典の〆にはブルーノア航空隊アクロバットチームによる華麗なアクロバット飛行が用意されていた。
今回、佐々木も、このアクロバット飛行にさせて貰う事と成り、腕前を存分に発揮、披露した。
-完-

【新生ガトランティス:サーベラー座乗戦艦メダルーザ級改良型ヒュードラ】(残党旗艦)
デスラー(ガミラス)から供与された波動エネルギーシステムが新たに搭載された改良型。
波動エネルギーシステムが搭載された事により、「ハイパーデスラー砲」並みの火焔直撃砲を発射可能にした。
全長:700m
武装
艦首超火焔直撃砲×1門
物質転送波送射基×2基
五連装大型主砲×1基
八連装速射砲×多数
他、不明。
◆
~あとがき~
この物語りは【宇宙戦艦ヤマト復活編】のスピンオフ二次創作です。
スピンオフ小説【アクエリアス・アルゴリズム】は、おそらく公式設定に成るのでは!?と思いもあり、完結編~アクエリアス・アルゴリズムまでの隙間のスピンオフは書けそうだな。と思い書きました。
※メダルーザ級改良型及び、コスモパルサーの設定の一部は私的設定が混ざってます。