
アシッド・ジャズは主にファンクをベースに成り立っていたが、時代とともにその指向は多方面へ分岐する。
あるものはヒップホップへの接近をし(もともとジャズとヒップホップは親和性が高い)、
またあるものはテクノやハウス・ミュージックに新たな表現を求めた。
テクノを取り入れること自体は、既に70年代にHerbie Hancock をはじめとするジャズ・ミュージシャンによって
成されてきたことだったが、アシッド・ジャズ・ムーブメントと同期してその手法は多く試みられ、半ば一般化した。
90年代に入り、ハウス・ミュージックのうちの1ジャンルとして「Jazzy Vibes」なる言葉が発生する。
それはジャズっぽいテイスト、すなわちピアノやウッドベースやトランペットのフレーズを織り込んだハウスのジャンルのうちのひとつを指す言葉であったが、あまり定着しなかった。
それはそうだろう。
それらはジャズ「っぽい」だけであって、「ジャズという音楽」では無かった。
ジャズの持つ表面的な外観やテクスチャーをなぞっているに過ぎない。
ここで紹介するのは、似非でなく、ハウスのフォーマットに固執することもなく、
ただ自分たちの好きな音楽・ジャズに根ざした音楽を、好きな連中を集めてやってみたといった趣向の
企画アルバムである。
NUYORICAN SOUL なる集団の核は、Masters At Work(MAW)のふたり、'Little' Louie Vega と Kenny 'Dope' Gonzalez。
MAW は、ハウス・ミュージックでは有名なプロデューサー / リミキサーのコンビだ。
カリスマと言ってもいいだろう。
ジャズやカリビアンへの傾倒は、NUYORICAN SOUL 以前から見られた。
彼らのルーツに依るものなのだろうと推測する。
MAW 名義で、INCOGNITO や JAMIROQUAI のリミックスを手がけているが、いずれもハウス特有の気持ちの良い疾走感溢れるビートに、
生楽器をフィーチャーしたソロフレーズ、ときにはカリビアンテイストも織り交ぜ、原曲から全く違った味わいを引き出している。
本作は、そんな彼らが親交の篤い、または敬愛するミュージシャンを揃えて生演奏主体に臨んだ、
いわば「MAW 流のアシッド・ジャズ」とも言える作品だ。
まずは参加ミュージシャン。
Jocelyn Brown:
INCOGNITO の初代ボーカリストだ。ほかにハウス方面で INNER LIFE というユニットに参加している。
India:
ラテン、サルサでは知られた実力派シンガー。本作ではとくにIndiaがフィーチャーされている。
Tito Puente:
ラテン・ミュージックの大御所パーカッション奏者。
Roy Ayers:
今さら記述することもないが、70年代のジャズ・ファンク / レア・グルーヴを代表するヴィブラフォン奏者。
そして意外にも、George Benson(!):
ジャズ・ギタリストであり60年代から Jack McDuff などのオルガン・バンドに参加し、
70年代にはフュージョンのはしりとして活躍した。
『Breezin'』はフュージョンギタリストならほぼみんな持っていたアルバムだったし、サンプリングの元ネタとしても有名な作品だ。
本作にはリミックス盤がある。
↑がそれなのだが、オリジナル楽曲の、彼ら自身(MAW)によるリミックスのほか、
インストゥルメンタルの楽曲が数曲入っている。単なる曲数稼ぎでは決して無い、実にカッコイイ曲。
上記に収録されている数曲(全曲ではない)と、オリジナル盤とをコンパイルした2CD盤が「Talkin'Loud Classics」シリースとして出ている。
本作を未入手でこれから入手を検討しているならば、ぜひ↑の2CD盤を手に入れることを勧めたい。
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