
ピアノ/キーボード奏者 Robert Glasper 率いるヒップホップユニット、ROBERT GLASPER EXPERIMENT。
現役ジャズ・ミュージシャンが出すこのテの作品は、もはや目新しくはない。
BUCKSHOT LeFONKE や RH FACTOR など、似たようなコンセプトのアルバムはすぐにいくつも思い浮かべられる。
「ジャズ × ヒップ・ホップ」という “試み” は Miles Davis の『Doo-Bop』以降、じつに30年以上(!)続いていることになる。
普通に考えれば、もうそろそろ “試み” の域を脱出してそれなりの “落ち着きどころ” を定めていようものだ。
しかし、70年台のクロスオーバー・ジャズが「フュージョン」と名を変えて一ジャンルとして確立したのに比べ、
この「ジャズ × ヒップ・ホップ」なるモノの収まりは、どうにも悪い。
このブログのテーマでもある “アシッド・ジャズ” という呼称が、中身はさして変わらないのに
“クラブ・ジャズ” → “Jazzy-Vibe” → “Nu-Jazz” ...などと名前を変え続けるのは、
この「ヒップ・ホップとの付き合い方」が定まらないのが原因ではないかと思ったりする。
さて、本作は初めに『Black Radio』がリリースされた後、約1年後には『Black Radio 2』がリリースされた。
コンセプトは同じなのだが、数回聴くうちにこの2作は単なる続編ではなく方向性を変えて作られたと思うようになった。
第一弾の『Black Radio』。
叙情的なアコースティック・ピアノの旋律、クールなエレピのバッキング……
ピアニストである Glasper のサウンドは、Herbie Hancock を想起せずにはいられない。
なんといっても Erykah Badu の歌うスタンダード#2 Afro Blue が秀逸だ。
既存の価値観を(良い意味で)壊した! などともてはやされているが、そういう印象は受けなかった。
そもそも、若い世代にとっては# Afro Blue がスタンダードであったことすら知らない可能性がある。
この曲が Erykah Badu の新曲だという受け止め方をされたかも知れない。
実際にそうであっても違和感はない。
それだけ Erykah Badu という歌い手が、ジャズの普遍的な魅力を身に付けているという証左にほかならない。
本作は他にも#3 Cherish The Day、#12 Smells Like Teen Spirit などカヴァー曲が目立つ。
#3 Cherish The Day は SADE の楽曲。ここでも Herbie Hancock を思い出す。
Hancock は'96年のアルバム『New Standard』で、同じく SADE の# Stronger Than Pride をカヴァーしていたのだ。
SADE のジャズ傾向を証明する材料でもある。
#12 Smells Like Teen Spirit は言わずもがな、オルタナティブロックの雄:NIRVANA の代表曲である。
新世代ジャズミュージシャンは、こうしたロックの楽曲も自分のレパートリーに加えていることが多い。
8弦ギターの Charlie Hunter は ROXY MUSIC、ピアノの Brad Mehldau は RADIO HEAD の楽曲をそれぞれカヴァーしている。
その流れで捉えればこの選曲はなんら驚くことはない。
ほかの客演は Lalah Hathaway、Bilal、Me'shell N'degeochello など、いずれもこのテの音楽にはお馴染みの豪華な顔ぶれだ。
これをリリースした時点で次作の構想はあったのだろう。
続く『Black Radio 2』は、全12曲中11曲が Glasper のオリジナル楽曲だ。
意図的なのか、同じようなコード展開が形を変えて曲中あるいは曲間に散りばめられていて、たびたび顔をのぞかせる。
これにより、アルバム全体がひとつの楽曲のようにまとまっている。
多彩なゲストは前作同様だ。
Jill Scott 、Norah Jones あたりは順当だが、意外なところでは Faith Evans、Snoop Dogg、Brandy など。
自身の作品ではあまりジャズ要素を感じさせないミュージシャンたちだ。
聴いていると、ジャズやHIPHOPに限らずR&B、ソウル、ファンクなどバラエティに富んでいる印象がある。
これこそが、『Black Radio』の所以なのだろう。
ラジオから流れてくる、黒人コミュニティのあらゆる音楽……そういうものを、表現したいと思っているのではなかろうかと思った。
そういう意味では、映画『ブルース・ブラザーズ』に通じるものがある。
『Black Radio 2』にはデラックス・エディションがある。
ボーナストラックが4曲追加となっている。うち3曲がオリジナル!
しかも通常盤に参加していないゲスト(Macy Grayなど!)の参加楽曲である。
さらに、Bill Withers の# Lovely Day をカヴァーしている。
これから購入するなら、このデラックス・エディションがぜったいお得だ。
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