かなり手を入れたので、改訂版として再アップします。(^◇^;)>
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【桜草の街】
・・・・・・いっとう最初は、3粒の種でした。
ある街に、恥ずかしがり屋の女の子がいました。
幼稚園でも、公園でも、みんなは楽しそうに遊んでいるのに、どうしても、その輪の中に入ることが出来ません。大きな声で「私も入れて!」って、言えないのです。だから女の子は、いつも一人ぼっちでした。
女の子には、一緒に暮らしているおばあさんがいました。女の子は、大好きなおばあさんと家の中で遊んでいる時だけは、元気な女の子になれるのでした。
おばあさんは、ある日、女の子に、花の種をくれました。
「この種を蒔きなさい。花を育てなさい。花を育てると、優しい気持ちになれるの。心が元気になるの。そうしたら、きっと、みんなとも仲良くなれるはずですよ」
コクリと女の子は頷くと、家の前の花壇にその3粒の種を蒔き、水をあげました。
種を蒔いてから、ちょうど一週間目。暖かな風が吹いた日に、3本の芽が出ました。それから15枚の葉っぱが出て、30個のつぼみが付きました。つぼみは、濃いピンクと薄いピンクと白色でした。
女の子がある朝、特別に早く起きると、花はもう咲いていて、サラサラと揺れていました。桜草でした。女の子は嬉しくなって、手でそっと撫でました。
すると、隣の家の人が出てきて、
「まぁ、綺麗!私にも分けて欲しいわ」
と声をかけてきました。女の子は恥ずかしくなって、うつむきながら黙って頷きました。
そんな訳で次の年には、女の子の家の花壇と、隣の庭に、桜草が咲きました。
すると今度は、隣の隣のパン屋さんが、
「まぁ、綺麗!私にも分けて欲しいわ」
と声をかけてきました。女の子は恥ずかしかったけれど、今度はうつむかずに頷きました。
そんな訳で次の年には、パン屋さんの店の前にも、桜草が咲きました。
すると今度は、お向かいさんが、
「まぁ、綺麗!私にも分けて欲しいわ」
と、声をかけてきました。女の子はお向かいさんの目を見て、しっかりと頷きました。
そんな訳で次の年には、お向かいさん家の玄関にも、桜草が咲きました。
その次の年も、次の次の年も、桜草を欲しいと思う人が、女の子の家にやってきました。
そうやって少しずつ、桜草は隣の隣へ、そのまた隣へと、分けられていきました。
春になると、女の子の家を中心に、桜草がサラサラと咲きました。
その次の年も、次の次の年も、桜草を欲しいと思う人は、まだまだ、女の子の家にやってきました。女の子は、いつしか【桜草の女の子】と呼ばれるようになりました。
女の子は、もう、恥ずかしがり屋なんかじゃありません。元気良く「はい、どうぞ!」と、花を手渡します。
その次の年も、次の次の年も、桜草を欲しいと思う人は、女の子の家にやってきました。
女の子はすっかり大きくなって、笑顔が素敵な女の人になっていました。そうして【桜草の女の人】と呼ばれるようになりました。
女の人は、恋をして、背の高い男の人と結婚しました。2人の可愛い子供が産まれると、【桜草のお母さん】と呼ばれるようになり、その頃には、街中が桜草で溢れ、春になるとどの家にも、濃いピンクと薄いピンクと白色の花が揺れました。
長い長い年月が流れ、いつしか、恥ずかしがり屋の女の子は、穏やかな【桜草のおばあさん】になっていました。
とある春の日。おばあさんは、子供と孫達に囲まれ、静かに天国へと旅立ちました。
お葬式には、街中の人が集まりました。みんな手に手に、桜草を3本持ち、おばあさんが眠る棺に、桜草を入れてあげました。棺はすぐに、濃いピンクと薄いピンクと白色の花で、一杯になりました。その中でおばあさんは、ニッコリと微笑んでいました。
おばあさんは、もう、一人ぼっちではなかったのです。
柔らかい日差しが降り注ぐ、暖かい日でした。一筋の風が街中を通り抜けると、桜草がいっせいに、サラサラと揺れました。
街は一瞬、ピンク色にけぶったように見えました。
2010年3月28日

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【桜草の街】

・・・・・・いっとう最初は、3粒の種でした。
ある街に、恥ずかしがり屋の女の子がいました。
幼稚園でも、公園でも、みんなは楽しそうに遊んでいるのに、どうしても、その輪の中に入ることが出来ません。大きな声で「私も入れて!」って、言えないのです。だから女の子は、いつも一人ぼっちでした。
女の子には、一緒に暮らしているおばあさんがいました。女の子は、大好きなおばあさんと家の中で遊んでいる時だけは、元気な女の子になれるのでした。
おばあさんは、ある日、女の子に、花の種をくれました。
「この種を蒔きなさい。花を育てなさい。花を育てると、優しい気持ちになれるの。心が元気になるの。そうしたら、きっと、みんなとも仲良くなれるはずですよ」
コクリと女の子は頷くと、家の前の花壇にその3粒の種を蒔き、水をあげました。
種を蒔いてから、ちょうど一週間目。暖かな風が吹いた日に、3本の芽が出ました。それから15枚の葉っぱが出て、30個のつぼみが付きました。つぼみは、濃いピンクと薄いピンクと白色でした。
女の子がある朝、特別に早く起きると、花はもう咲いていて、サラサラと揺れていました。桜草でした。女の子は嬉しくなって、手でそっと撫でました。
すると、隣の家の人が出てきて、
「まぁ、綺麗!私にも分けて欲しいわ」
と声をかけてきました。女の子は恥ずかしくなって、うつむきながら黙って頷きました。
そんな訳で次の年には、女の子の家の花壇と、隣の庭に、桜草が咲きました。
すると今度は、隣の隣のパン屋さんが、
「まぁ、綺麗!私にも分けて欲しいわ」
と声をかけてきました。女の子は恥ずかしかったけれど、今度はうつむかずに頷きました。
そんな訳で次の年には、パン屋さんの店の前にも、桜草が咲きました。
すると今度は、お向かいさんが、
「まぁ、綺麗!私にも分けて欲しいわ」
と、声をかけてきました。女の子はお向かいさんの目を見て、しっかりと頷きました。
そんな訳で次の年には、お向かいさん家の玄関にも、桜草が咲きました。
その次の年も、次の次の年も、桜草を欲しいと思う人が、女の子の家にやってきました。
そうやって少しずつ、桜草は隣の隣へ、そのまた隣へと、分けられていきました。
春になると、女の子の家を中心に、桜草がサラサラと咲きました。
その次の年も、次の次の年も、桜草を欲しいと思う人は、まだまだ、女の子の家にやってきました。女の子は、いつしか【桜草の女の子】と呼ばれるようになりました。
女の子は、もう、恥ずかしがり屋なんかじゃありません。元気良く「はい、どうぞ!」と、花を手渡します。
その次の年も、次の次の年も、桜草を欲しいと思う人は、女の子の家にやってきました。
女の子はすっかり大きくなって、笑顔が素敵な女の人になっていました。そうして【桜草の女の人】と呼ばれるようになりました。
女の人は、恋をして、背の高い男の人と結婚しました。2人の可愛い子供が産まれると、【桜草のお母さん】と呼ばれるようになり、その頃には、街中が桜草で溢れ、春になるとどの家にも、濃いピンクと薄いピンクと白色の花が揺れました。
長い長い年月が流れ、いつしか、恥ずかしがり屋の女の子は、穏やかな【桜草のおばあさん】になっていました。
とある春の日。おばあさんは、子供と孫達に囲まれ、静かに天国へと旅立ちました。
お葬式には、街中の人が集まりました。みんな手に手に、桜草を3本持ち、おばあさんが眠る棺に、桜草を入れてあげました。棺はすぐに、濃いピンクと薄いピンクと白色の花で、一杯になりました。その中でおばあさんは、ニッコリと微笑んでいました。
おばあさんは、もう、一人ぼっちではなかったのです。
柔らかい日差しが降り注ぐ、暖かい日でした。一筋の風が街中を通り抜けると、桜草がいっせいに、サラサラと揺れました。
街は一瞬、ピンク色にけぶったように見えました。
2010年3月28日
