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京都でも「トルコ至宝」にうっとり_国立近代美術館 7/28まで

2019年06月18日 | 美術館・展覧会

東京・国立新美術館で4月に観た「トルコ至宝展」は、イスラミック・ブルーが美しいオスマン宮廷文化の上質なデザインをたっぷりと味わうことができました。そんな素晴らしい展覧会が京都に巡回、早速行ってきました。

  • 京都展でもトプカプ宮殿を模した空間ディスプレイはばっちり、異文化体験を3Dで楽しめる
  • ラーレ(トルコ語で)チューリップをあしらったデザインも見事、青色と並んで赤色の使い方が絶品
  • 皇帝の肖像画にも注目、仏像のような柔和な表情が印象的
  • 明治の知られざる日本とトルコの友情の証が展示、トルコが親日的な理由に納得


観終わった後はミュージアムショップでラーレをあしらった雑貨をきっと買いたくなります。私もコースターを買ってしまいました。ユニセックスな趣です。誰でも使えます。


記念写真撮影コーナー、疎水の新緑が映える

岡崎の京都国立近代美術館は琵琶湖疎水に面しており、初夏の今は1Fのロビーから輝くばかりの新緑が楽しめます。近年の美術展ではすっかりおなじみになった記念撮影コーナーは、いつも1Fのロビーに設置されます。季節を通じて写真映えが良くなるのが京近美の魅力の一つです。

その1Fロビーから、純白の大階段を上がって3F展示室へと進みます。東京・西洋美術館・本館の常設展示室への入口・19世紀ホールとよく似た趣です。どんな展示が始まるのか、とてもワクワクしてきます。


純白の大階段

展示会場の始まりには、東京展でも強く印象に残ったフランス製の「スルタン・マフムート2世の玉座」がきちんと京都にも姿を見せてくれています。マフムート2世はナポレオン戦争時代の皇帝で、1808年の皇帝即位時にフランスとの同盟を破棄しています。

にもかかわらずマフムート2世の花押が施されていることから、この玉座はフランス側の強い政治的な意図をもって制作された可能性が推定されます。ベルベットと黄金が見事なデザインは、ナポレオンが座っていたとしても全く違和感はありません。まさに激動の時代の証です。


トプカプ宮殿の室内デザインには思わず見とれる

風呂敷/布団/敷物といった布製の調度品のデザインはまさにシルクロードの情緒がたっぷりです。トプカプ宮殿と正倉院の宝物のルーツが同じであることがよくわかります。布製品には、ラーレを中心に花紋様がとても目立ちます。色調は赤が基本です。建築デザインの青との対比を意識しているのでしょうか。

タイルの展示からもオスマン文化の魅力をたっぷりと味わえます。青を基調にラーレのデザインがより多く目立ちます。正方形のタイル一枚だけを見て、綺麗と感じます。通常は壁や床に敷き詰められた状態で全体像を味わいますが、”ピン”でも勝負できるところがまさに”すごい”のです。

ミュージアムショップでも、コースターやマグネット、マスキングテープなど記念に買いやすいグッズがたくさん揃っています。

【展覧会公式サイト】 展覧会オリジナルグッズ

ドイツのマイセン磁器のコーヒーセットもオスマン文化の奥深さを象徴する展示です。一見”なぜ”と思われがちですが、コーヒーはオスマン帝国を通じてヨーロッパに広がった飲み物なのです。

てっきりスペインかポルトガル人がアフリカや南米からもたらしたと思っていた私も、以前イスタンブールを訪れた際にこの事実を初めて知りました。エチオピア原産のコーヒーを広めたのはアラブの商人たちです。オスマン帝国がアラブ社会全体を支配した後、バルカン半島に勢力を伸ばしてハプスブルグ帝国と国境を接するようになり、ウィーンを基点に全ヨーロッパに広まりました。

キリマンジャロと並んで日本で一般的なコーヒー豆のブランド「モカ」は、イエメンの都市の名前です。エチオピアから近い紅海の入口にあり、コーヒーの貿易港として永らく繁栄していました。17cに欧州で絶大な人気を博した磁器・有田焼が、積出港である伊万里をブランド名として知られるようになったのと同じ原理です。


アヤソフィア博物館のキリスト教のモザイク画

イスラムと言うと、近年の原理主義テロ勢力のイメージがあまりに強烈で、日本や欧米社会ではかなりゆがんだ見方をされるようになったことはとても残念です。しかしこの展覧会を見ると、大航海時代の後に欧州が世界の覇権を握るようになる前は、イスラムが文化的にはより進んでおり、オスマン帝国がそうした栄光を見事に受け継いでいたことがわかります。

18c初頭に文化が繁栄した「チューリップ時代」を実現したアフメト3世の他、皇帝の肖像画がいくつか展示されていますが、日本や中国・欧州の政治権力者の肖像とはずいぶん頃なる印象を受けます。威厳がまったく強調されず、仏像のように包容力のある表情が共通しています。

オスマン帝国は「ミレット制」と呼ばれる異教徒に自治を認める支配体制を採用していました。イスラム教は一神教ですが、伝統的に異教徒には寛大です。オスマン帝国もトルコ人以外に他民族を広大な領域に抱えており、異教徒・異民族を威圧するような表現を避ける空気が支配していたと考えられます。

イスタンブールのアヤソフィア博物館は、オスマン帝国がコンスタンチノープルを陥落させるまでは、ギリシア正教の大聖堂でした。キリストの偶像のモザイク画を破壊せずにイスラム教のモスクとしてそのまま使用していたため、世界遺産として今にかけがえのない東ローマ帝国の趣をのこしています。

イスラム教は、本当は「寛容」を重んじているのだと感じます。


イスタンブール新空港に移転する前のアタテュルク空港

京近美での展示は、第3章が4Fの常設展示スペースの一部を割いて行われています。日本との友情の証から、不思議な縁で結ばれたトルコとの絆を感じ取ることができます。

1890(明治23)年、明治天皇の皇族がオスマン皇帝を表敬訪問したことに応えて、オスマン皇帝が派遣した軍艦・エルトゥール号が、帰路に紀伊半島の最南端・串本で座礁・沈没します。地元住民の懸命の救助で乗組員の一部は助かり、日本は軍艦で生存者をトルコまで移送すると共に多額の義援金も集めます。

群馬県の沼田藩士に生まれ、茶道の家元に養子に出されていた山田寅次郎は、民間レベルで集めた義援金をトルコまで持参し、熱烈な歓迎を受けます。展示会場にある甲冑や合戦図は、寅次郎の実家の伝来品を皇帝に献上したものです。寅次郎はトルコに留まり、貿易会社を設立して日本とトルコの懸け橋になります。明治の巨大な七宝の花瓶も多く展示されています。明治の交流を通じてトプカプ宮殿に収蔵されたものでしょう。

1985年のイラン・イラク戦争の際、イラン在住の日本人が、当時の法律で自衛隊の海外派遣が認められなかったため取り残されます。トルコ政府は自国民救援のために派遣したトルコ航空機に日本人を同乗させ救出します。「エルトゥール号の恩返し」とトルコ政府はさりげなく説明します。

山田寅次郎の孫娘は東京・ワタリウム美術館を経営する一族に嫁ぎ、現在も祖父によるトルコとの交流を発信し続けています。コンテンポラリー・アートの斬新な表現で知られるワタリウム美術館で、古き良き明治のエピソードが伝えられているのはとても感慨深いと感じます。

トルコ。まずは京都の展覧会におでかけになり、機会を見つけてぜひ現地までお出かけください。海外旅行の中でも特に記憶に残る旅になることと思います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



イスタンブールにまた行きたくなった
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<京都市左京区>
京都国立近代美術館
トルコ文化年2019
トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:京都国立近代美術館、トルコ共和国大使館、日本経済新聞社、BS-TBS、京都新聞
会場:3F/4F展示室
会期:2019年6月14日(金)~7月28日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(6月の金土曜~19:30、7月の金土曜~20:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年5月まで東京・国立新美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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