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続き:上野 西洋美術館「松方コレクション展」_松方の夢が実現

2019年07月02日 | 美術館・展覧会

上野・西洋美術館の「松方コレクション」展、レポート後半をお届けします。松方の抱いていた美術館構想を実現したが如く、素晴らしい名品が世界中から集まっています。西美”本気”の美術展です。格別の内容は後半にも続きます。

  • 西美館蔵品はもちろん、散逸した松方幸次郎の蒐集品を世界中から集めた画期的な展覧会
  • ゴッホ「アルルの寝室」、ゴーガン「扇のある静物」など超一級作品もオルセーから里帰り
  • 展示は蒐集の時系列で構成、松方の審美眼の変遷とコレクションの運命がとてもよくわかる
  • 最近発見されたモネ「睡蓮、柳の反映」が修復後初公開、西美の新たな目玉作品に


後半は、コレクションを重ねることで松方の審美眼の脂が乗り切った頃に入手した作品が登場します。現在の西美の基幹を成す作品も多く含まれています。西美の名作の由来もしっかりと学ぶことができます。


展覧会を見る前に紹介映像で予習できる


第5章 パリ1921-1922

1921(大正10)~1922年のパリ滞在時は、美術館開設のために最も本格的に作品を蒐集していた時期です。松方の信用と審美眼も脂にのっていたのでしょう、著名な作品が多く含まれています。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第5章 パリ1921-1922

シャルル・エミール=オーギュスト・カロリュス=デュラン「母と子(フェドー夫人と子供たち)」国立西洋美術館蔵は、西美の常設展でいつも輝きを放っている肖像画の名品です。別バージョンの作品もあり、オルセー美術館が所蔵しています。母と子の衣装の上質感が際立っており、赤と白の花びらが絵の構成を見事に引き締めています。

フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルの寝室」オルセー美術館蔵は、今回の展覧会の目玉作品です。松方コレクション返還時にフランス政府が寄贈返還に応じなかった超一級品です。日本で言う「国宝級の作品が国外流出することを恐れた」のだと考えられます。ゴッホらしい黄色の色彩と構図のバランスは完璧です。長辺が74cmの小品ですが、遠くから見ても輝きを放っているように感じます。

ポール・ゴーガン「扇のある静物」オルセー美術館蔵も、フランス政府が寄贈返還に応じなかった超一級品です。こちらも長辺が61cmの小品ですが、「アルルの寝室」と並んで輝きを放っています。ゴーガンらしい大胆な色使いと、扇形のジャポネスク表現がとても上品に調和しています。



前庭のロダン「地獄の門」


第6章 ハンセン・コレクションの獲得

1922(大正11)年にコペンハーゲンの実業家ハンセンから入手した作品が第6章です。ほとんどが日本へ送られたため売却され、現在世界中に散逸しているものを展覧会でかき集めています。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第6章 ハンセン・コレクションの獲得

エドガー・ドガ「マネとマネ夫人像」北九州市立美術館蔵は、マネが夫人の顔の表現を気に入らず、キャンバスを切断したといういわく付の作品です。不思議なことにこの作品、女性が部屋から出る一瞬を構図にしたようにも見え、全く違和感がないのです。みなさんもよ~く見てみてください。いろんな想像が働いてくる神がかり的な作品です。

エドゥアール・マネ「自画像」アーティゾン美術館蔵は、マネが生涯2点しか描かなかった自画像の一つです。黄色のジャケット姿が、パリの小粋な文化人のファッションを伝えてくれます。

クロード・モネ「積みわら」大原美術館蔵は、明るさが際立つ名品です。モネの光のマジックで積み藁のある田園風景を描くと、驚くほど明るく愉快に見えます。

カミーユ・ピサロ「収穫」国立西洋美術館蔵(松方家より寄贈)は、松方が売却しなかった思い入れの深い作品です。パリ郊外のポントワーズの麦畑を描いた作品ですが、麦藁や働く人々の描写がどこか日本の田んぼの風景を思わせます。松方はどのように感じ、この作品を手放さなかったのでしょうか。


第7章 北方への旅

松方が1921(大正10)年にドイツや北欧で収集した作品が第7章です。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第7章 北方への旅

ピーテル・ブリューゲル(子)「鳥罠のある冬景色」国立西洋美術館蔵は、松方コレクションでは数少ない北方ルネサンス期の名品で、ブリュッセルの王立美術館が所蔵するブリューゲル(父)の作品の模写と考えられています。フランドルの冬の休日でしょう、スケートなどの氷遊びを楽しむ人々の姿がとても生き生きと描かれています。

エドヴァルド・ムンク「雪の中の労働者たち」個人蔵(西美寄託)は、松方の好みを踏まえるとやや異質な作品です。前衛的な世紀末アートが松方コレクションには少ない中で、当時名声が確立していたムンクの作品を見て松方はどのように感じたのでしょうか。


モネ「睡蓮、柳の反映」推定復元をB2F入口ロビーでデジタル展示


第8章 第二次世界大戦と松方コレクション

第8章は蒐集の順番には寄らず、第二次大戦の数奇な運命に翻弄された作品が紹介されています。松方コレクションの流転を物語るとても見応えのある章です。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第8章 第二次世界大戦と松方コレクション

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル「男の頭部(《ホメロス礼讃》のための習作)」ポーラ美術館蔵は、松方コレクションとして確認されているフランス新古典主義の唯一の作品です。なぜ新古典主義作品が少ないかはよくわかっていませんが、この作品はアングル独特のリアリズム表現を感じさせる肖像画としても観ることができる名品です。フランス政府による接収後に売立てに出されました。

アンリ・マティス「長椅子に坐る女」バーゼル美術館蔵は、第二次大戦中にフランスにのこされたコレクションの管理を託されていた日置釘三郎(ひおきこうさぶろう)により、松方の許可を経て管理費捻出のために売却された作品です。マティスがフォービズムに目覚める前、穏やかなニーズの陽光をナチュラルに描いていた頃の名品です。

藤田嗣治「自画像」国立西洋美術館蔵も、まさに時代に翻弄された作品です。1926(大正15)年、エコール・ド・パリの画家として絶頂期を迎えていた頃の作品で、藤田も自信に満ちたような瞳の表現の一方で茶目っ気たっぷりの猫の瞳が印象的です。

松方が購入すると見込んで日置が入手したものの、松方はそれどころではない状況に陥ったため、日置の所有権が一旦は認められます。戦後に日本政府が日置に補償金を支払うことで、松方コレクションの一部と認定されたという、数奇な運命をたどります。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」国立西洋美術館蔵は、常設展でおなじみの作品ですが、日本にあるのはかなり奇跡的です。ゴッホ「アルルの寝室」と同じくフランス政府が国内にとどめておくことを希望しましたが、日本側の交渉役だった美術史家・矢代幸雄(やしろゆきお)の粘り強い説得で日本に寄贈返還されることになったものです。

矢代は1920年代の松方の蒐集に同行し、専門家としてアドバイスしています。矢代はまた原三溪とも懇意で、戦後に三溪コレクションの主要作品を大和文華館が入手する道筋を付けており、昭和の日本の美術界にとってはかけがえのない人物です。


エピローグ

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 エピローグ

展覧会の大取(オオトリ)を務めるのは、クロード・モネ「睡蓮、柳の反映」国立西洋美術館蔵(松方家より寄贈)です。2016年にルーブル美術館で発見され、修復を経た後の初公開となります。松方コレクションの流転の運命を示すかのように上半分がほぼ失われて痛々しいですが、青と緑で描写された睡蓮の池の存在感はさすがのモネ作品です。

この展覧会の最初と最後はモネの睡蓮です。天国から見ている松方もきっと感無量でしょう。少しだけですが、自らの美術館構想が華やかに実現したわけですから。



この展覧会の期間中、新館では松方コレクションの常設展示がなくなるため、「モダン・ウーマン―フィンランド美術を彩った女性芸術家たち」が開催されています。ムーミンの故郷の国の100年前の女流画家たちの作品には、北国らしい生命感があふれています。松方コレクション以外の作品が展示されると、いつもの新館の雰囲気も随分変わるものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



松方・矢代・日置が登場する西洋美術館誕生のストーリー
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<東京都台東区>
国立西洋美術館
開館60周年記念
松方コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立西洋美術館、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:B2F企画展示室
会期:2019年6月11日(火)~2019年9月23日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金土曜~20:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています(本展会期中は本館展示室のみ)。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
東京駅→JR山手/京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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