晴山雨読ときどき映画

“人生は森の中の一日”
山へ登ったり、本を読んだり映画を観るのは知らない世界を旅しているのと同じよ。
       

中島京子作「小さいおうち」

2011年12月22日 | 
物語は東京西部にある赤い三角屋根の洋館に働いていた女中、タキの回想で書かれています。
東京の中流よりも少し上のクラスの庶民の人たちの暮らしぶりが描かれていて、時代は昭和の初期の時代なのに、不思議と懐かしさと新鮮さを感じてしまいました。戦争が忍び寄る暗い時代背景の中で、意外にも元気にイキイキと日々をすごす人々らがいるのは力強くも感じられました。
7章まではタキが仕えた平井家の時子奥様とその坊ちゃん、おもちゃ工場に勤務する旦那様と4人の生活を中心に、回想録の形で女中奉公の記憶をつづりますが、時々その回想録を甥である健史がこっそり読むという構成になっています。
淡々としたタキの回想が気持ちよく流れているのを、茶々をいれたような健史の言い分がその流れを断ち切っているのは紛らわしいなぁ~。単に現在と昔を比較しているのだろうと思いきや、章を追うごとにこの健史が重要な役割をなし思わぬ展開をもたらします。

最終章で、健史はタキが亡くなった後、洋菓子の空き缶の中からタキが平井家の家族と一緒に写った写真数枚と和紙の封筒を見つけます。裏に平井時子とあるだけで宛名が書かれていない美しい封筒でした。タキが生涯隠し続け後悔してきた真相が明らかになった時、胸が詰まります。タキが慕っていたのは、時子が思いを寄せていた板倉だとばかり思っていたのにそうではなかった・・・。意外な真実に驚き、なるほどと中島ワールドの上手さに舌をまかずにはいられません。

同じ題名でバージニア・リチャード・バートンの「ちいさいおうち」という絵本が登場しますが、たぶん中島京子さんは同タイトルの絵本からヒントを得この作品を書かれたのでしょう。久しぶりにこの絵本に出会えたのも思いがけず嬉しかった。

イタクラ・ジョージの記念館も実際にあるような気にさせてもらえる仕掛けは素晴らしい!中島京子さんの作品の中で一番好きな作品です。やはり第143回直木賞を受賞していました。



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