NBA Thunder Dancer

オクラホマシティ・サンダーを応援していくNBAブログです。

浦島タロバーソン

2020年07月31日 | 2019-20 シーズン
909日。
アンドレ・ロバーソンがNBAの試合にてコートに戻ってくるのにかかった時間です。
『左膝膝蓋腱断裂』という、聞き慣れないながらも一目でただ事ではないと分かる大怪我を乗り越えその男は帰ってきました。

2018年1月27日ピストンズ戦。
サンダーはこのシーズン前にオールスター選手のポール・ジョージとカーメロ・アンソニーをトレードで獲得し、生え抜きのウェストブルックとともにビッグ3を結成。
前評判通りとまではいかなかったものの28勝20敗の成績を残しており、この試合は7連勝をかけたものでもありました。
内容としては序盤からポール・ジョージとウェストブルックが得点でチームを導き、一時20点差まで開くリードを奪います。
3Qにはカーメロ・アンソニーが史上21人目となる通産25,000得点を達成するというメモリアルな試合でもあり7連勝はほぼ手中に収めていました。

絶好調、そして最高の雰囲気に包まれていた矢先のこと。
不幸は突然やってきました。
3Qも中盤残り4:33。
ウェストブルックがディフェンスを引き付け、コーナーからロバーソンが走り込んでアリウープで合わせるという、サンダーが得意とする、そしてよく見るシーン。
選手はもちろんボードやボール、ネットにすら接触はありませんでした。
ジャンプした直後のロバーソンは急にバランスを崩し突っ伏しました。
“打ち付けられた”という表現が近いかもしれません。

倒れ込んだロバーソンは最初こそ腕の力だけで体を動かしコートの外へ移動しましたが、そこには普段温厚で笑顔溢れる彼の表情はなく、ケガの痛みに必死耐える苦悶の表情でした。
そのまま担架に乗せられたロバーソン。
それを見守るチームメイト、コーチ陣、観客の辛そうな表情の中、励ましての拍手で担架はコートを去っていきました。


ロバーソンという選手はバスケットボーラーとして見た場合非常に評価が難しいです。
バスケットボールの花形”オフェンス面”では、皆無に近い戦力となり、キャリア通産3Pの成功率25%、フリーズロー成功率46%と散々。
FGも48%と突出して高いわけではなく、平均得点も4.6得点となぜ先発起用されているのか理解に苦しむことになります。
しかし、一方で大学時代には最優秀守備選手賞を受賞しNBAでもオールディフェンシブチームに選出されたりと主に”ディフェンス面”に関しての能力は秀でているものがありました。
チームには得点力0の選手がいたところで余裕で補えるだけのオフェンスマシーン、ウェストブルック、カーメロ・アンソニー、ポール・ジョージがおり、そういった面でロバーソンはディフェンスのみに集中できる環境だったからこそ敢えてオフェンスに参加していなかったとまで言えるでしょう。
逆に相手のエースをぴったりマークし精神的・肉体的に疲れさせることで、オフェンスマシーン達に伸び伸びプレーさせるという間接的なオフェンスへの効果もあると言えるでしょう。

さて、バスケットボーラーとしては評価の難しかったロバーソンですが、ひとたび人柄を取り上げるとその評価はグンとアップします。
立っているだけで溢れ出ている”良い人感”。
オーラというのでしょうか。
サングラス掛けて黒服を来て、葉巻を加えていても、そのオーラを消すことはできないでしょう。
そしてその”良い人感”は感じだけではなく実際のもので、例えば会場に足を運んでくれたファンへのサービスでの一幕。
サインに写真にハイタッチにごった返すファンに1人1人丁寧に対応をします。
偏見も交えて例えると、一般的なNBA選手が自信のスター性に自惚れファンやメディアに対してそっけない態度を取ることが多いとすると、ロバーソンはもはや自身のことをNBA選手だとすら認識していない程謙虚。
詐欺に引っかからないか心配になるレベルです。
しかし、そういった人柄は当然ながらファンに親しまれ、愛され、求められ。
それらが相まって人気を博していました。



話は元に戻り、そんなロバーソンが突如我々ファンの前から姿を消してしまったのです。
大怪我の為、度重なる手術を受けなくてはならず、そういった設備の整った大都市へ移動。
そして手術が終わっても今度はリハビリ。
その後ようやくバスケットボールに取り組むことができるようになるのです。
言葉にすると簡単ですが、それは体験した本人にしか分らないほど壮絶なものだったのでしょう。
なんと行ってもその期間約2年半。
気も遠くなるような時間を、形上チームには所属しながらも1人個別で必死に努力を重ねていたのでした。
いつかきっとまたチームメイトと一緒にバスケットボールができるように、と。


そして待ちに待ったチーム合流日。
一緒にスタメンでコートに立ったポール・ジョージとカーメロ・アンソニー。
新加入ながら経験豊富なベテランとして何でも教えてくれたフェルトン。
独特な風貌とくせっけのあるしゃべり方にようやく慣れてきたアブリネス。
影響を受けて映画を頻繁に見るようになったパターソン。
身体能力お化けなのに少しずつ技術を身に着けていき将来を楽しみにしていたジェラミ・グラント。
チームの最長老ニック・コリソン。
そしてチームの大黒柱にして何度となくアリウープパスを成功させてきた、大親友のウェストブルック。



全員いなくなっていました。


リアル浦島太郎状態です。
そんな途方にくれたロバーソンの元へやってきて足を止めたのが、同じ年にNBAデビューをし、ともに試合を戦ってきたアダムスだったのです。
しかし、2年の月日が立ち見た目のワイルドさに磨きのかかっていたアダムスをロバーソンは一瞬誰だか分らなかったとのこと。
また2年前にはルーキーだったファーガソンが逞しくなっていることにも気づきホッと胸をなでおろしたとも言います。
そしてリハビリ中ずっとサポートを続け、無理強いをせず自身のペースでの復帰を第一に考えさせてくれたドノバンHC。

ロバーソンは復帰しました。

2年半ぶりのコートに立ったロバーソンを待ち受けていたのは、無観客試合の為観客のいないコートから沸き起こる歓声だったのです。
それはロバーソンがいない内にサンダーに加入した新しい選手達のものでした。
クリス・ポール、シュルーダー、シェイ、ガリナリ、ドート、ベイズリー、ネイダー、ディアロ、ノエル、マスカラ。
そしてひと際大きな声を出しているのはアダムスでした。

それはもちろん長きに渡るリハビリを経験し復帰した努力を称えるものでもあり、また同時にロバーソンの人柄の良さが生み出したものとも言えるでしょう。
チームメイトこそ変われどチームは変わっておらず、役割こそ変われど人柄の良さは変わっておらず、一瞬にして新たなチームへ溶け込んでいきました。

練習試合ながら復帰後初得点をあげているロバーソン。
特筆すべきは3試合合計で3Pを4-6(66.6%)で沈めている点。
もちろん練習試合なので相手が本調子でないことや、ロバーソンだからこそノーマークにされていることは考えられます。
しかし、公式試合で本当の復帰となる8月1日の試合、日数にすると918日目のこの試合。
我々は本当の奇跡を観ることができるのかもしれません。

例年とは明らかに異なった今シーズンのプレイオフ。
そういった特殊な環境に加え、このタイミングで復帰したロバーソンは各対戦相手にとって厄介な選手になり得るかもしれません。
8月1日(日本時間8月2日)は大いに盛り上がりましょう。



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