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「舞踊解説」 石井漠舞踊詩研究所 舞踊公演會 (岡山市公会堂) (1928.5.20)

2022年07月31日 | ダンス デニショーン、サカロフ夫妻他

 舞踊解説
   石井漠舞踊詩研究所
      舞踊公演會
           
     五月二十日晝二時・夜七時
     内山下 岡山市 公會堂
     主催 郷土社  

  私の舞踊觀    石井漠

 此の一文はコロンビヤシカゴの兩大學、及アメリカの各地で公演した時のプログラムの序言であって、それをまた更に日本語に譯したものである。舞踊を趣味や嗜好の上から單に享樂しやうとする人は多いが、舞踊を眞に生た藝術として觀賞してくれる人は稀だ。私達が歐羅巴の旅行中時に次ぎのやうな奇問を發せられて返事に困った。
 「お前達は日本人でありながら何故歌麿の繪のやうな踊をやらないのか、あの夢のやうに美しい日本踊を‥‥‥」その時私達はいつも次のやうに答へた。
 「私達は日本の古い藝術の複寫を押賣に來たのではありません。又は國產を宣傳するやうな心持で來たのでもありません」そして、その人達には、日本と云ふ國は歐羅巴大陸と同じ地球の上にある事をほんとうに意識する事が出來ないものゝやうに思はれた。それでなければ、日本の若い藝術家だけが全世界の思潮と離れて、超然と昔のまゝでゐられると思ふわけがない。日本の古い藝術の中には確かに立派な、そして優れたものが澤山あるに相違ない。然しそれは、吾々の先祖の爲し遂げた功績であって吾々の「てがら」ではない。それだのに、何故、吾々舞踊藝術家だけが、先祖の遺した餘光にのみ噛り付いてゐなければならないのだらうアラスカの氷山の中から發見された前世紀の怪動物の骨でも見るやうな好奇心から吾々の舞踊を見られるのは心苦しい尠なくも現に生きてゐる人間に對してあまり無惨な注文である。 吾々は過去に生きる前に先づ現在に生きなければならない。
 眞の舞踊は「生」そのものヽ表れであって、歷史習慣の下に置かるべき奴隷ではない。それは他の姉妹藝術と同樣である。ラファエルの繪を巧みに模寫したからと云って、直ちにその人をラファエルと同じ程度の藝術家として許す事が出來るか何うか。      
 吾々は民族的、國民的である前に先づ人間的、人類的でなければならない。    詩は言葉に倚る神への禮讃であると同樣に、眞の舞踊をも單に自分の趣味や嗜好の上に享樂し、私慾を滿すための手段とするならばそれは呪ふべき事である。
 
1.『百鬼夜行』   ‥‥‥ ホールスト曲
 要するに惡鬼どものダンスであります。
2.『賣られて行く奴隷』
           ‥‥‥ ウラヂミール・レビコフ曲
 トルコの女奴隷のやる瀨ない心持を表はしたもの。
3.『セレナータ』  ‥‥‥ モスコウスキイ曲
 モスコウスキイの有名な小夜曲であって、それをそのまゝ、少女向きに舞踊化したもの。
4.『迦摩』     ‥‥‥ ドウビュッシィ曲  
 ドウビュッシィはフランスの大作曲家で、近代音樂の祖父といはれてゐます。今年は丁度樂聖の十年祭だといふので日本でも方々で紀念祭が行はれました。當研究所でも去る三月十八日夜東京朝日講堂で紀念舞踊會をいたしましたが、これはその時に上演した番組の一つであります。
 迦摩は印度敎の愛慾の神で、濕婆天といふ善神の妃に愛の矢を射ったので、濕婆天は怒って迦摩を眼光で射殺したといふ神話があります、佛敎では迦摩を「色慾の餓鬼」と稱してゐます。
5.『胡桃割組曲』  ‥‥‥ チャイコウキイ曲
 この音樂は當時ロシア帝室舞踊團のために特に作られた舞踊曲であって、行進曲、支那の踊、金平糖の精の踊、アラビヤ人、蘆笛の踊、花の圓舞曲等の六曲からなってゐますが、こヽでは             
 ()金平糖の精の踊
 ()支那のお人形(支那の踊)
 ()アラビヤのお話(アラビヤ人)
の三曲を上演いたします。 
6.『食慾をそゝる』  ‥‥‥ 木魚の音にて  
 音樂伴奏音樂から舞音樂舞踊へ過渡して行く一つのプロセス。      
 赤裸々な心になった時の人間の姿 ‥‥‥ それらを第三者の立場から視く ‥‥‥ その氣持の表現。
 東京のあるカフェーの中から發見した舞踊であります。(漠)
  (番外)
)『空は靑雲』 北原白秋作歌 山田耕作作曲 
)『靑年團歌』 相馬御風作歌 山田耕作作曲
 日本靑年團の依賴で特に石井氏が振附したもの。三百萬の日本靑年に普及するのが目的であります。
7.『ペエア・ギュント』
           ‥‥‥ エドワード・グリーク作曲
 グリークの「ペエア・ギュント」の音樂は、北歐の大戯曲家ヘンリック・イプセンの戯曲「ペエアギュント」の初演に際して特に作曲されたもので、グリークの代表的なものであります。今年はイプセン生誕百年祭に當るので當研究所では、去る四月十二日より五日間帝國ホテル演藝場で上演いたし好評を博しました。
(A)「朝」 ‥‥‥
(B)「山の王の洞窟にて」 ‥‥‥
(C)「ソルヴェーヂの歌」 ‥‥‥ 
(D)「オーゼの死」 ‥‥‥
(E)「アニトラの舞」 ‥‥‥ 
(F)「アラビヤ人の天幕」 ‥‥‥
   
 ペエア・ギュントの略筋〔省略〕



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