2月29日

日々の思いつき及び読書の感想

読書 大澤真幸著 『夢よりも深い覚醒へ 3・11以後の哲学』(岩波新書)

2012-06-06 22:55:55 | 読書
本書では、大澤さんが昨年の震災及び原発事故を契機として「考えたこと、考えさせられたこと、われわれ(の社会)について考えざるをえなかったこと」(263ページ)が書かれています。
例えば、今回の震災及び原発事故を、1995年の阪神淡路大震災及びオウム真理教によるサリン事件との比較、ジョン・ロールズの「正義論」を用いての哲学的観点からの考察、キリスト教を通じての宗教的観点からの考察などです。
また、本書の目的として、原発事故が私たちに衝撃を与えたのは、津波対策の不十分さや電力供給体制の欠陥ということを「超えた何か」があると思われ、その「超えた何か」を考えることである(同ページ)。
まさにと相づちを打ちたくなったのは、(第二次世界大戦で負けた日本の)「自尊心を回復するには」「科学・技術の象徴であるところの原子力を味方につけ、わが物とし、それを自由に使いこなすことこそ、敗戦によって失われた自尊心を取り戻す、最も確実な方法」であって、これによって「核への恐怖」が「核の魅力」へと転換していったという大澤さんの主張だ(84ページ)。
しかし、首肯しかねることもある。原発に関しての大澤さんの結論は、「全面的な脱原発を目標」としつつ、「すべての原発を即刻停止」するのは「現実性に乏しい」ので、「段階的な完全な脱原発を実現する」というものだ(10ページ)。つまり、段階的脱原発論に立つのだが、これには問題がある。起こるのが間違いない大きな地震の対策は「現実性に乏しい」からだ。想定を厳しくすれば原発事故の危険性を低減するだろうが、その想定に基づく対策は膨大なコストとなり、経済的に成り立たなくなる。だとすれば、最初から原発を運転しないで、廃炉にした方がよいと論理的にはなるはず。それに、大飯原発の再稼働への動きを見るだけでも「原発の安全性」を高める体制なんて出来るわけがないのは火を見るよりも明らかではないだろうか。だから、即時廃炉でいかないと、また福島の悲劇を繰り返すことになる。
6月6日読了。
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