魔法使いはいるのかしら
空を飛んだり
杖からビームを出したりする
魔法使いはいるのかしら
魔法使いはいるのかしら
物を浮かせたり
けが人にヒールをかけたりする
魔法使いはいるのかしら
魔法使いなんていないよ
みんなは言う
そんなの空想の中だけだ
魔法使いなんていないよ
魔法使いはいるわ
空は飛ばないし
ビームは出さないけれど
物は浮かせないし
ヒールはかけないけれど
魔法使いはいるわ
だって あの日
あなたはたしかに
私に魔法をかけた
私は私が嫌いだ。
可愛くないし、明るいわけでもないし、友だちと呼べる人は片手で足りてしまう。特別にスポーツができるわけでも楽器が得意なわけでもない。頭も別に良くはないし。
とどのつまり凡庸な人間なのだ。
私の嫌いな私を覆い隠すために髪を伸ばす。
短くして顔がよく見えるようになんてなったら大変だ。
大学に入って何か変わったわけではなくて、周りの頭の良さに嫉妬したし、お洒落なあの子を羨んだし、明るいあの子に羨望の眼差しを送った。それだけの日々。今日もまたイヤホンで耳を塞ぐ。お気に入りのバンドのボーカルが「もうすぐ夏が来るからとびきりのオシャレをしよう」なんて歌っている。
大学に入ってからひとり暮らしを始めたからか、以前にも増して人と話すことが減った。きっとこの調子では大学を卒業する頃には人と話すことなんてできなくなっているんじゃないかと時折不安になる。
これでも私は女子大生だから髪を整えるくらいはするわ、と勇気を出して行った美容院。やっぱり帰省した時に行くことにしたらよかったと後悔しながら席に座る。
「今日はどうしますか?」の最適解はなんだろう。「は、はい」しかいえない私。
「いい感じにしますね。」なんて言われるがいい感じってなんだ。
どんどん短くなっていく髪、どんどん見えてくる顔。コミュ障ゆえ、「もういいです」が言えなくてなされるがままの私。
次の日、気恥ずかしく思いながらも大学に行く。一番右の一番前は私の特等席で。
「あれ?」っと声がして私の名前を呼ぶ人。
「髪、短い方が可愛いね」なんて微笑んだから。
私は確かに君に魔法をかけられたのだ。