久しぶりに会った彼は少し大人になっていてすっかり社会人だった。
ひとつ年下の彼をかまい倒していたのはもう2年も前の話、学生時代の思い出。
「仕事、忙しそうだね」って言うと彼は頷く。でも充実してる顔で。
大切だった、私の特別だった人。
彼にされた告白は返事ができなくて宙ぶらりんのまま、私たちの関係は終わった。
小さな居酒屋の一角、恋人ができたと幸せそうに笑う彼。「大切な人の手は離したらだめだよ。」なんて冗談まじりに言う私。
(私はあなたの手を握る勇気すらなかったけどね。)
そんな風に思いながら。
小説や漫画、詩や短歌、色々なところで知ったようになっていた感情。でも本当は知らなかった。なんで私じゃないんだろう、隣は私だけだったのに、知らなかった感情がぐるぐると渦巻いて、なんだかモヤモヤとした。
仕事で挫けそうになるたびに思い浮かべた彼の顔、大切だった彼との時間、こんなことに離れてから気づくなんて、会えなくなってから気づくなんて。
幸せそうな彼の顔を見て気づくなんて。
それならあのとき、その手を握ればよかった。今更だけど。
ずっと分かりそうで分からなかったこの感情に名前をつけるならきっとそれは。