ORIZZONTE

君が僕を信じてる。

禍夢(小説)

2006年05月05日 | 小説
朝日が少しだけ差し込んで、男の体を白く浮き上がらせている。


この男には、羞恥心というものがない。
あたしの前でも、平気で何も纏わずうろつく。

男はあたしに、もっと強くとかはやくとか要求する。
仕方なく手に、力を入れる。
甘い喘ぎ声をもらし、男はあたしの手のなかで力を抜いた。
手から伝わる男の体温は生温く、あたしを不快にさせた。

マンゾク?

あたしは、ぶっきらぼうに言う。

男は、おまえもうまくなったなあなんて的外れなことを、ささやく。

ばかばかしい。
あたしは、自分の手だけしか使っていないというのに。

気持ちいいのはあんただけ。

でも、それがあたしたちのルールだった。
最後までは、ゆるさない。
近くにいるけど、完璧には近寄らない。
あたしは、この男に、それをもとめている。

だからこいつは、あたしに完璧には手を出さない。
あたしは中途半端に、触れられるがままになっていた。

男を悦ばす術は、こいつに仕込まれた。
そいつはあたしに、寝る以外のすべてをさらけだしていた。


「おまえの欲しいものを、知ってるよ。」

男は言う。

そう、だからあたしは
あんたからそれをもらいたくないんだ。


あたしたちは、乾いている。

一人よりはマシというだけで、ここにいる。
心はここにない。

抱かれることは簡単だった。
でも、それをしたらもう手に入らない気がした。

男も、あたしと同じものを欲していた。


それを、手に入れたいから。



願掛けのように、あたしたちはその暗黙のルールを守った。



クリスマス、東京ドームのライトアップ。
オレンジ色の光の束、噴水。

なんであたしはこんなところにこいつときているんだ。
まるでデートだ。

噴水の水に手をやり、ぱちゃぱちゃと音をたてる。

あたしより年上のこいつは、わかったようなことをいう。

「おまえは、弱いのか強いのかわかんないね。」

あたしは、こうこたえる。

「別に、あんたといたいわけじゃないよ。」

答えになっていない。
でも強がりじゃない。

ただ、他人だけど少しは自分を知っているあんたの傍にいれば
ましな気がした。


つまりあたしは、弱い。


でも、ここ以外にいきたい場所ってのもよくわかんない。



本当は、知っているけど。


こいつも、それに気付いている。


あたしは、わざとはしゃいで言った。

「いい雰囲気ですねえ。」
「あたしたち、ラブラブにみえるかな?」

そいつは、言った。

「さあね。」


水面が、オレンジ色の光を吸って、揺れていた。



あたしは結局、そいつとは二ヵ月ほどで終わった。

あたしが、そいつから離れたのだ。



その理由は…。               




夢はそこで覚めた。


昔の、夢。
なんて、まがつ夢だろう。

あたしは、奴を救おうとはしなかった。

そんな自分は、なんてちっぽけなんだろう。
今でもそれはかわらない。

奴はあたしを救おうとしてたんだろうか。


あなたとあたしが欲しかったものは、ひどく似ていた。
でも、それだけだった。


やっぱり、違ったんだ。