晴れ上がった空のように・・

日常の出来事や読んだ本の紹介

蛍川・泥の河

2006年07月09日 | 
宮本 輝さんのデヴュー作となったこの作品は、1977年(昭和52年)
に太宰治賞、そして「蛍川」は芥川賞を受賞したそうです・・私がまだ学生の頃で、残念ながら記憶に乏しいです。その頃を思い起こすと、アガサクリスティーや横溝正史のミステリーに夢中でしたから。

「泥の河」
舞台は昭和30年の大阪の場末。堂島川、土佐堀川、安治川の界隈で暮らすうどんやを営む家の一人息子、8歳の少年、信雄(のぶちゃん)を中心にして、物語が淡々と流れていきます。
まだ戦争のきずあとが残る町で、人々の貧しいながらも懸命に生きているようすが悲しいまでに描かれています。泥の河に1艘、だるま船が浮いている。水上生活を営む母と子供二人です。姉10歳、弟8歳、のぶちゃんはこの子達と友達になるのですが・・「夜は、あの舟の子のとこにいったらあかんで」と父に言われる。
それは、働き手の亭主をうしなった母親がこの舟で身を売っているからです。「廓舟(くるわぶね)」・・と河で働く男たちはうわさします。

なんと、哀切な話でしょう・・大阪弁のセリフがよけいに切なさを誘うみたいです
悲惨なこの一家を、信ちゃんの澄んだ目を通して、悲しくそして美しく描かれています。

「蛍川」
こちらは昭和37年。北陸、富山市が舞台です。
父の事業の失敗と死をとおして、主人公の竜夫が成長していく物語です
14歳の竜夫は高校受験を控えるなか、友達の関根から幼馴染の「英子」が好きだと告げられます。実は竜夫はずっと以前から「英子」のことが特別な存在として意識していたのです。思春期特有の男の子。それは性の芽生えでもあるんですね 純情な気持ちが素直に表現されていて、ほほえましいくらいでした

これら二つの作品は200ページ足らずの短編でしたが
読み終えてからも、情景がいつまでも脳裏に残り、珍しくさわやかな後味を楽しめました
この後、「川・3部作」と呼ばれる、「道頓堀川」も読んでみたくなりました