陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「失われた週末」

2012-11-09 | 映画──社会派・青春・恋愛
1945年のアメリカ映画「失われた週末」(原題 : The Lost Weekend)は、アルコール中毒から抜けだそうとしても抜けきれない男を描いたドラマ。「麗しのサブリナ」「お熱いのがお好き」などロマンティックコメディの名匠ビリー・ワイルダー監督が初期作として取り組んだ社会派ドラマなんですが、アルコール中毒が当時の深刻な問題だったのかもしれないですね。

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売れない作家のドン・バーナムは兄のアパートに居候の身。飲んだくれ生活からすっかり立ち直ったものだと思った兄は、この週末、弟とともに田舎へバカンスに行こうと計画中。そこへドンの恋人のヘレンからコンサート鑑賞の誘いをうけ、兄とふたりで送り出す。
留守中をいいことに、さっそく酒場に繰り出したドンは、元の木阿弥に戻ってしまった…。

さすがの兄もお手あげ、ドンを再起させようとしたのはヘレンだけ。
さらにもうひとり、酒場のマスターのナットがドンを心配して、いろいろ案じてくれていまして、ラストに作家として復活する重要な役割を果たしてくれています。むりやり禁酒されるよりも、少量だけ呑ませてくれるナットには気を許したものか、ドンは三年前のヘレンとの馴れ初めから、つらつら語りはじめていく。付き合いはじめた当時は恋によって酒を遠ざけていたのに、彼女の両親に会う段になって気弱になってしまったことから、酒浸りに。以来、ドンの転落人生がはじまってしまいます。

お酒だけに限らず、ギャンブルにしてもそうですが、麻薬のように依存しきるとそれなしで生きていけなくなる。お金をつぎ込んでしまい、いのちの次に大切な商売道具まで手放し、ついには犯罪に手を染め、病院に収容されて幻覚症状に悩まされてしまう。アル中の恐ろしさがよくわかる映画です。

若い頃の才能に溺れて、挫折し酒に逃避した情けない主人公なんですが、こういう弱さというのは自分にも覚えがあるだけに、けっして他人ごととは思えない。自己を節制できる人なんてそうそういないでしょう。
兄や恋人を呆れさせている自分に嫌気がさして清算しようとしたドンの行動、それを察していち早く身を挺して止めようとしたヘレンの献身的な愛にこころ打たれるばかりです。

ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻の一時期の別居状態を「失われた週末」と呼んだようですが、休暇はなくしても、ふたりの関係が潰えなかったことは喜ばしいほかないでしょう。

主演はレイ・ミランド。最初こそは身なりのいい知性的な青年が、酒に溺れ落ちぶれていく様を好演しています。
お相手役はジェーン・ワイマン。レーガン大統領の元妻だったんですね。

第18回(1945年)のアカデミー作品賞、アカデミー監督賞、アカデミー主演男優賞、アカデミー脚本賞を受賞。
テルミンのゆらめき怪しい音色が緊張感をかきたてる、ミクロス・ロージャの音楽がかなり特徴的。ある意味、サスペンスに近いスリルが味わえます。

(2010年3月26日)

失われた週末(1945) - goo 映画

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