戦争を語る映画特集 その1の続きです。
戦争は戦場だけで起こったのではありませんでした。
たとえば、家族と団欒したり、友人や恋人と楽しいときを過ごしたり、趣味に没頭できる。そんなごくふつうの幸せな生活を奪うのが戦争です。
愛し合う恋人たちが戦争によって引き裂かれてしまい、その後、再会するというのも、戦争ロマンスの王道です。
記憶を失っても最後に結ばれるのが、「心の旅路」、そして残念な結果に終わるのが「哀愁」。
なかでも、ソフィア・ローレンが夫を健気に待つ女性を演じた、「ひまわり」は、哀切な響きの音楽とひまわり畑のパノラマがすばらしい。でも、あのヒロインにとっては、列車の窓からみえるひまわりの美しさなど目に残っていないかもしれませんね。
ハンフリー・ボガード主演の「カサブランカ」は、逆に戦争によって出会ってしまった女との悲恋ですが、武器も権力ももたないいち民間人が命を危ぶまれている人びとを救うという、ヒューマニズムが魅力。ただの戦争をダシにした恋愛ものに終わってはいません。なお、これを日本版リメイクしたのが、「夜霧よ今夜も有難う」なのですが、石原裕次郎の歌唱シーンだけを目立たせた安っぽいヤクザの抗争ドラマに貶めてしまった感があります。
戦時下における救済者を描いた大作といえば、「シンドラーのリスト」。
強制収容所に送還されるはずのユダヤ人数千人を救った実業家の実話に基づくもの。多少美化された部分もあるようですが、へたに年端も行かない若い兵士が戦死していくような映画よりも、反戦のメッセージが籠められているように感じます。
おなじくホロコーストを描いた「ライフ・イズ・ビューティフル」や、名作ヒットナンバーを生み出したミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」や「屋根の上のバイオリン弾き」は、戦時下にあっても、絆を強くする家族のほほえましい姿を描いています。
くり返して言いますが、ごくふつうの幸せな生活を奪うのが戦争です。
生命が脅かされるだけでなく、自由にものを考えたり、音楽や絵画鑑賞などを自由な文化の享受すら制限されてしまうのも、戦争です。
「愛と哀しみのボレロ」は、1930年代後半から1980年代はじめまでのほぼ半世紀、四つの芸術家一家──ソビエトのバレエダンサー、ドイツの指揮者、フランス在住のユダヤ人楽団、そしてアメリカのミュージシャン──の波乱にみちた生涯をたどる大作です。音楽が戦争で荒廃しばらばらになった人びとの心を結びあわせる最後のシーンは、なんとも圧巻です。制作者の平和への希求を強く感じさせてくれますね。
「戦場のピアニスト」は、第二次大戦中、ユダヤ人狩りから生き延びたポーランド系ユダヤ人演奏家の実話を基にした感動作。主人公を救ってくれたのは温情家のドイツ人将校で、もともと教育者でした。鬼畜な敵兵として描かれたナチスドイツにあっても、こうしたヒューマニズムあふれる人はいたのでしょう。戦争に埋もれた知られざる英雄はきっと少なくないはずです。
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