陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「屋根の上のバイオリン弾き」

2010-11-07 | 映画──社会派・青春・恋愛
タイトルから音楽家を扱った映画かと勘違いしていたら大違い。
1971年のアメリカ映画「屋根の上のバイオリン弾き」(原題 : Fiddler on the Roof)は、革命間近のロシアに住む保守的なロシア人一家を描いたミュージカル映画。1964年の初演以来、ロングランヒットとなったブロードウェイミュージカルの映画版 として知られている。

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ウクライナの小村に暮らす、ユダヤ人のテヴィエ一家。
厳格な家父長制が残る村では、結婚は村の縁故人が世話するしきたりになっていた。牛乳配達で生計を立てるテヴィエには、妻と娘が五人もいる。娘の三人が婚期を迎えていた。
貧しい生活を強いられたテヴィエとその妻は可愛い娘には親と同じ苦労は味わわせまいとして、金持ちとの縁談を望む。だが、長女は貧しいが純朴な仕立て屋の青年に嫁ぎ、次女はといえば急進的な思想をもつ一文無しのインテリ青年と結ばれてしまう。

折しもロシア革命の直前。逮捕されてシベリア送りになった夫に従って一家を離れる次女。
ユダヤ人への弾圧が酷くなり、村の住人は立ち退きを迫られる。しかも、三女はあろうことか、にっくきロシアの軍人なんぞに恋をしてしまった…。

さいしょは、頑固親父がかってな恋人をつくって出ていってしまう娘に悩まされる様をコミカルに描いているが、しだいに不穏な気配が漂ってくる。愛情のために、そして新しい時代の波に押されて、古い思想で結びついた大家族が、ひとつのコミュニティが崩壊していく。だが、ミュージカルのせいか後味の悪い悲劇性は感じさせない。父親は伝統からはみ出していく娘たちに戸惑いを覚えながらも、けっきょく、彼女たちがみずから選んだ道を許すことになる。

表題の「屋根の上のバイオリン弾き」とは、主人公テヴィエのいうように、ユダヤの村人の象徴。
危険な高所でバランスを保ちながらも平常心で演奏するバイオリン弾きは、厳しい現実に立ち向かいながら伝統を守って生きている彼らそのもの。
しかし、テヴィエがバイオリン弾きをバカげていると揶揄するとおり、おなじユダヤ人とはいえども、自分こそは根無し草の演奏家にはない貴重なもの、すなわち家族をもっているという自負心もみられる。最後に土地を追われてしまうテヴィエには、その音色がなんとも皮肉に聞こえたことだろう。

屋根の上にいたバイオリン弾きが、テヴィエとおなじ地上に降りたこと。それは、バイオリン弾きも、その宿主も愛するねぐらを失ったこと、同じ大地をさまよわねばならないことを意味している。

テヴィエ一家はニューヨークを目指すというが、バイオリン弾きはこんどはどこの屋根を借りるのだろうか。それは作中では語られていない。このバイオリン弾きもテヴィエにとっては、生涯付き従う家族なのだろうか。

第二次大戦後、イスラエルの建国でユダヤ人入植地が整えられるいっぽうで、各地の移民の受け入れが問題視されている。単民族国家と言われながら、実はアイヌ人も沖縄人もいて、将来は労働力確保のためにいずれ移民に門戸を開かねばならない日本であっても、避けて通れない問題だ。「屋根の上のバイオリン弾き」のように、かたくなに自分の血の伝統を守ろうとする人びととどう折り合いをつけていくのか。
そしてまた、本作で先祖代々守ってきた土地を奪われた者の苦しみというのは、ロシアに占領された北方領土や沖縄、対馬などがまさにそうで、決して現代日本においても無縁なことではない。

監督はノーマン・ジュイソン。
デンゼル・ワシントン主演の警察の不正で冤罪にされたボクサーを描いた社会派ドラマ「ザ・ハリケーン」で聞き覚えのある人物だった。

原作はウクライナ生まれのイディッシュ劇作家のショラム・アレイヘムの『牛乳屋テヴィエ』(1894年作)

(〇九年八月二十六日)

屋根の上のバイオリン弾き(1971) - goo 映画


【画像】
マルク・シャガール『緑色のヴァイオリン弾き』(1923-24年ごろ、ニューヨーク、グッゲンハイム美術館蔵)

フランスの画家と紹介されるシャガールは、ロシア出身のユダヤ人。
古代ローマ帝国皇帝がユダヤ人嗜虐を行った際にも、逃げることなく独りで屋根の上でヴァイオリンを弾き続けたユダヤ人がいたというユダヤの故事にちなんだ一作。彼のこの作品のイメージを借りて、ミュージカルができあがった。


【追記】
フィギュアスケートGPシリーズ中国杯2010(フィギュアスケート中国杯2010(二))では、鈴木明子選手がフリー課題曲にえらび、みごと銀メダルに輝いている。





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