博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『古語の謎』

2010年12月15日 | 日本史書籍
白石良夫『古語の謎 書き替えられる読みと意味』(中公新書、2010年11月)

「ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」この有名な柿本人麻呂の歌は、実は古学が発展した江戸時代に「創られた」詠みであった。……このネタを枕にして、古学の発展により往時存在しなかったはずの古語やテキスト、はたまた考古学的遺物がいかに作られていったのかというのが本書のテーマです。題材となっているのは日本の古学ですが、これを漢学・中国学に置き換えても充分にあてはまる話で、個人的に色々と啓発される所がありました。

面白かったのは以下の3点。

○偽物の考古学的遺物が作られるのは、古典研究の発展とその社会への浸透の賜物。……本書ではこれに関連して志賀島金印(有名な「漢倭奴国王」の刻字があるもの)の偽物説についても触れています。しかしそうであるとすれば、偽物の文物が溢れかえっている現代中国は、古典研究や歴史学がかなりの程度発達し、かつ一般に浸透しているということになりますねえ(^^;) 実際文革の頃には偽物文物への関心はそれほど無かったでしょうし、これはこれで説得力のある見解かもしれません。

○本居宣長の見解その1。古語の語源なんて解明しようがないし、そんなものは言ってしまえばどうでもいい。大切なのは、その言葉が古文の文脈の中でどういう意味で使われているかを研究することである。……これって、日本語の古語に限らず、漢字の字源説なんかにもマンマあてはまりますよね。私もかねがね古文字の字形から漢字の字源を探るよりも、その字が甲骨・金文などでどう使われているかを見る方が重要で、字源は特に必要がなければ探る必要はないと考えていたので、これで意を強くした思い。

○本居宣長の見解その2。神代文字について。神代文字の存在を主張するのは、文字なくして生活できない現代人の発想。古代人は文字が無くても事足りたのだ。……正論すぎて思い切りワロタw 神代文字の実在を主張する人は、まずこの意見を噛みしめるべき。

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1 コメント

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Unknown (巫俊(ふしゅん))
2010-12-20 16:28:53
ご無沙汰しています^^

いつも大変ありがたく読ませて頂いています。
前回は小生のいい加減さと願望が織り込まれたコメントに、親切丁寧なお返事の数々を頂きまして、本当にありがとうございました。


そんな新刊が出てるとは気付きませんでした。
歴史をあれこれ手前味噌でいじくる前に、読んでおきたい本だと思います。
どんなロジックで、「創作」「書き換え」をしてしまうのか、知っておけばどれだけ役に立つかと思います。

ネットの百度中国で、甲骨文字の「熊」(能)を調べるといろいろな字説がヒットしました。
字形の解釈を面白く拝見していますが、甲骨に刻まれた前後の文章を見ると、動物の「クマ」のことを書いた文章ではないようにも見え、あやしんでおります。

こういう点から、解釈の一人歩きがはじまると思いました。
史料の乏しい中、魅力的な解釈に接すると、おおいに心をくすぐられるのではありますが、
踏まえる必要があることを認識した上で、書くことの価値は計り知れないと思いました。
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