奴が、難民キャンプに旅発ってから、5日がすぎていた。
2週間で、思う写真が撮れるものだろうか?
って、思う。
たった、10日ほどの滞在で、難民キャンプのなにがわかるというのだろう?
ただの異邦人でしかない一個のカメラマンが、表面上の出来事をとらえるだけにすぎなくなるだろう。
だいたい、目的というか、ポリシーというか、テーマというか。
そんな目線をもたないってのは、棚からぼた餅がおちてきたら、そこで、ぼた餅を食いたい自分か確かめてみようなんていうのに、等しい。
その根性が気に食わない。
ふと・・・。あたしの思考がとまる。
仮想でしかないことを考えるのは嫌いだけど、あたしだったら、
どういう目線をもつだろうと思ったんだ。
それは、幼稚園の園長の言葉もあったと思う。
仕事を生活にしていこうとする中、なにかしらのポリシーをもっている。
ビストロのシェフだってそうだ。
とにかく、金を儲けりゃ良い、事をこなしていけば良いってだけじゃない。
そう、カメラに映しこむカメラマンの視線というポリシー。
慎吾は、それを見つけられなくなっている。
じゃあ、あたしは?
慎吾と同じ立場になった時、どういうポリシーを映しこむだろう?
そんな、命ぎりぎりの被写体と向かい合うことなど、考えようともしなかったあたしに、
答えは、でてくるわけがない。
やはり、仮想問題。
想定外の状況をどうするかなんて、考えたって答えなんかでるわけがない。
だいたい、とっさの時、いざとなった時、自分がどうするか、どう考えるなんか、誰にも、わかるわけがない。
こうしたい、ああしたいとおもっていたって、いざとなったら、ああもできない、こうもできない自分を知らされるだけになるかもしれないし、
逆に思わぬ自分を知らされるかもしれない。
グラスの底溜まりのバルモアをくいっと、あおると、あたしは、仮定答弁をつつきまわすのは、やめた。
だけど、次の日、仮定答弁でなく、現実問題として考えなきゃいけなくなる事態がはじまるなんて、これっぽっちも、予想だにしていなかった。
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