WITH白蛇

憂生’s/白蛇 セカンドハウス

「いつか、見た夢・・デ・ジャブ」 ・・終り

2015年10月11日 | 「いつか、見た夢・・デ・ジャブ」

明かりのついた俺の部屋をぐるりと見渡すと

貴子女史は溜め息をついた。

リビングの真ん中のテーブルの上には

手直しをかけていたオイルシールが有る。

「アンタ・・・本当に仕事人だね・・・」

取り散らかした工具一式を片付け始めた俺を貴子女史は制した。

「いいよ。ダイニングテーブルに行こう。

ヘタにさわっちゃ、後が困るでしょ?」

帰ったら直ぐにさわれるように、してあるって事は

一目瞭然のことすぎた。

ダイニングテーブルの上には、朝のコーヒーーカップが一つ残ってた。

「これだもんね。

朝もまともに食べてないんだ。

沙織ちゃん、心配してるだろう・・な」

貴子女史の言葉にあっさりと俺の鱗がなで上がる。

「心配なんかしてないさ・・」

貴子女子が呆れた顔になり

「アンタのそういう部分・・・意固地だってわかってるの?」

ビールをひっぱりだしてくると、グイッグイッと500ml缶をあおりあげ

立て続けにもう一本を飲み干したあとのいいわけ。

「流石にあたしもしらふじゃいいにくいからね・・・」

この後に俺に告げることが、やけに重ったくるしいと、いう事になる。

貴子女史の飲みっぷりに刺激され、

負けずに俺もビールをのみほしたあとに、

今更と、笑いながらグラスを持ち出してきて

貴子女史と向かい合い、本格的に飲み始めた。

安物のポテトチップスを口に運んでいた貴子女史が

「そろそろ・・・話しなさいよ」

と、確か言いたいことがあったのは

貴子女史のほうだったのに

軽い酔いが俺を冗長にさせはじめ

俺は自分の胸につっかえてる事を口に出した。

「サッキさ・・・。

沙織が好きな男の傍からはなれないっていったろ?

俺は、最初、そうかな?っておもったんだけどな・・・。

今はそうだなって思うよ」

「はい?

アンタのいうこと、よく分かんないね。

判りやすく・・・具体例ではなしてくれないかなあ?」

そうだな。俺もそうしたい・・・。

「つまり・・・。

簡単に言うと・・・沙織のそういう性分は隆介との事を

見てきた上で思ったことだろ?

だから・・・。

俺に対してはそんな沙織じゃないけど・・・。

でも、よく考えたら、沙織の想いは隆介から一時も離れてないって事で・・・

そう考えたら、確かに・・・沙織は好きな男の傍を離れない・・・あたってるよ」

俺の精一杯の暴露を

きいちゃいられないと、貴子女史はマズ、鼻でふんと笑った。

「アンタ・・・、馬鹿じゃない?

そして、あたしは自分でも吃驚するくらい賢い人間だわ。

アンタ、あたしが心配してたとおり・・・」

貴子女史はグラスに半分になったビールを又も、一気に飲み干すと

「あのね・・・。

沙織ちゃんはアンタが言うとおり、隆介を本気で愛してたと思うよ。

でもね、あの子はそこらのへらへらした女の子じゃないのよ。

いい?

あたしもアンタなんか、ほめる言葉を言いたかないけどね

隆介を本気で愛していたあの沙織ちゃんが

呆れるくらいあっさりと、アンタにのりかえたのはね、

隆介が死んだおかげでもあるけど、

アンタにぞっこん本気になったから・・・。

沙織ちゃんみたいな真面目な女の子のハートを

簡単につかんでしまう・・・あんた、もっと自分に自信をもちなさいよ」

俺が足りないだけ?

俺にただ、自信がないだけ・・・?

貴子女史の見解と

俺の沙織への鬱屈はまるっきり、180度違う。

「だいたいね・・・

そもそも、一番最初から・・・

あんた、そうやって、逃げ腰だったじゃない?」

「なんだよ、そもそも、一番最初・・って・・・」

思い当たらないことばかり、

俺の前に並びあがる。

「そうよ・・・そもそも・・・最初・・・。

アンタ・・・・

隆介より先に沙織ちゃんのことを好きになっていたじゃない」

「え?」

「え?じゃないわよ。

そうやって、自分でも判らないくらい自分の気持ちを誤魔化して、

誤魔化した自分だって事さえはぐらかして、

演じた道化を本来の自分だと信じてる。

アンタ・・・もっと、強くなってかまわない男なのに

なんで、そんなに・・・・」

きのせいか、貴子女史のまなじりに涙が浮んで見える。

「あの?俺・・・・」

いったい、何をごまかしてるっていうんだ?

「もう、うざったい!!

いい?

もう一度言うよ・・・・。

アンタ。隆介よりもっと先に沙織ちゃんをすきになっていたの」

まさか・・・。

俺が・・・隆介より先に?

「いい?言うよ」

貴子女史?

このうえ、まだ・・・なにかある?

 

そして・・・。繰り出された貴子女史の連発銃弾・・・。

 

「あのさ・・・。

沙織ちゃんが事務所に来て、アンタが一番最初に

あの子に仕事をおしえたよね。

その時にあんた・・・もう、あのこを好きになっていたんだよ。

でも、その頃って丁度、シャーシ部分の劣化問題がでて、

アンタ・・それどころじゃなかった。

そんなときに隆介が沙織ちゃんに目をつけたわけだよね。

アンタが隆介のことを大事に思っていたのは

事務所の皆も周知のことだけど、

ソレはね、沙織ちゃんも一緒だと思うんだよ。

アンタが忙しくなってる間に

隆介と沙織ちゃんが結ばれたとき、

アンタは隆介を選んだ沙織ちゃんだという事と

沙織ちゃんを選んだのがほかならぬ隆介だという事で

二重に喜んでみていれるくらい・・・。

確かにアンタは隆介を高く評価していた。

だけどね・・・、

それ、ちょっと、もう少し深い部分があるとおもうんだ。

そうだなあ。

例えば、好きな人から薦められたものとかさ・・・。

今までなんとも思わなかったのに好きになったり、気にいったりすることあるよね。

ソレって今までソレの価値に気が付かなかったんじゃなくて

急に気に入ったんじゃなくて

ようは、好きな人の代替といっていいか・・・。

ソレが好きなんじゃなくて、

その人が好きなだけ・・・なんだよ。

あたしは沙織ちゃんは・・・本当のところがそうだと思うんだよ。

つまりね・・・。

沙織ちゃんは

事務所に来て、

一生懸命仕事を教えてくれるアンタに尊敬に似た恋愛感情をもったんだと思う。

だけど・・・。

沙織ちゃんもその気持ちに気が付かないまま・・・。

好きな人がとても大切しているもの、

つまり、隆介をすきになったんだよね。

あんたが、隆介を大事に思うくらいだもの、

隆介はそりゃあ、男としてだって魅力があったと思うよ。

アンタが思ってたように

沙織ちゃんが隆介を好きになる・・・それは、当然だと思う。

でも、その裏側にあったのは

隆介の価値を高く買っていたアンタの存在なんだよ。

隆介が死んで

沙織ちゃんは隆介という華に惹かれていただけの自分に気が着いたんだと思う。

その華を咲かせてくれた土壌というか、

庭師の存在に気がついたから、佐織ちゃんはアンタと一緒になったんだよ。

そして・・・アンタは、

本当を言えば、もっと早いうちに、さっさと、隆介と競り合って

沙織ちゃんを勝ち取るべきだったんだ。

だのに・・・

ずるずる・・・自分に自信が無いのを

隆介が好きになった女だからとか

隆介を選んだから・・とか、って、いい訳して

沙織ちゃんに対しても、

自分に対しても、あまりに誠意がなさすぎたよ。

アンタ・・・隆介と同じ土俵に立って

沙織ちゃんを勝ち取ってゆく・・・のが怖かったんだろうね。

ほかならぬアンタが隆介を傷つけてゆく

そんなことしたくなかったんだろうね。

でもさ・・・。

ソレって

隆介を馬鹿にしてない?

結局さ・・・。

アンタ、本来結ばれるはずの人間を

わざわざ、自分から他の男にくれてやってさ・・・。

いわば、

自分で女房に他所の男と浮気して来いって催眠術かけてさ

挙句・・・その男の事に本気だったんだろうって、

そんな被害妄想いってるみたいなもんよ。

自分の女房を他の男の所にいかせるような真似をしたのは

アンタじゃないのかな?

そういう風に考え直してみない?」

貴子女史の釘はまさに

俺の心臓にうちこまれ、

銀の杭を打ち込まれた悪霊は

風に散る塵さながら、

あとかたもなく、

俺の中から、姿を消し去った。

「俺・・・」

俺は何を説明しようとしたんだろうか。

直己の出生の真実に触れる自分に惑い、

俺は黙りこくった。

直己は隆介の息子だけど・・・。

貴子女史のいうとおりだ。

俺は確かに

隆介の幸せを望んだ。

俺は隆介のしあわせのために

沙織を明け渡した。

俺は自分が望んだとおり・・・。

夢?

俺の?

隆介の?

いずれにしろ・・

夢を叶えたんだ。

もしも・・・。

隆介から沙織を奪い返していたら、

俺は・・・

ひょっとすると・・・。

沙織ととっくに別れていたのかもしれない。

隆介は心を残し・・・・やがて、事故を迎えることになる。

叶えられなかった夢は俺がつぶしたのだと、

俺は・・・

その痛みに耐えられなかったかもしれない。

隆介の夢をかなえてくれた沙織によって、

俺はもっと深く苦しむ自分を知らずにすんでいたのかもしれない。

俺と隆介の夢をかなえた沙織への・・・独占欲が

俺をねじまげ、

したたかに愛されている俺をさがしもとめて・・・

俺は盲目。

沙織の言葉がいまさら・・・蘇る。

「決めるのは・・貴方」

俺はいつも、決める側でしかなかったのに

それに気が付かず

自分の決めたとおりに

物事が動いていたにすぎないのに・・・。

「俺・・・」

貴子女史がにやりと笑って頷いた。

「アンタ・・・はアンタ。

アンタを選んだ沙織ちゃんを疑うって事は

アンタ自身をこけにすることだよ。

アンタは・・・いい男だよ。

沙織ちゃんの目はくるっちゃいないよ。

自分を認めてくれる人間の存在があってこそ

自分の存在価値がわかるんだよ。

自分で量る存在価値なんてさ・・・

微々たるもんだよ。

アンタ・・・

精一杯・・・沙織ちゃんの価値になればいいじゃん?」

「ん・・・」

不覚にも、涙がこぼれそうになった。

俺が・・・

隆介が

いつか見た夢は

沙織の満面の笑みだったかもしれない。

俺は今、やっと、それを、叶えられる最短距離にたった・・・

きっと、石川までむかえにいった俺に

沙織は

待っていたのよって、微笑むだろう。

それは、いつか見た夢・・・・

デ・ジャブの予感・・・・。



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
読みました。 (☆亮香☆)
2015-09-06 12:00:55
デ・ジャブの全て 読みました。
なんかすごいなぁって、沙織さん、貴子女史さん、そしてなにより貴方が。
あたしも色々ありましたが、今は今。
幸せな生活を送っています。

隆介さんの分まで 幸せになってくださいね
ありがとう。 (憂生)
2015-09-25 01:11:03
コメントにきがつかずにいました。ごめんなさいです。
憂生は、こういう女性が好きでよく登場させますwww.
芯がとおっていて、しなやかな強かさをもっていて、
とても、人の気持ちに聡いというか・・www
女性の良いところは、自分を変えることにとまどいがないということでしょうね。
妻から母に母から一個の女性にと・・いろいろ・・
すばやく、いろんな容にかわるところなどは、本当に柔軟でしなやかで・・・。
つくづく、女性のすばらしさをかきあらわしていきたいと思います。

貴方が幸せであることに、乾杯♪

コメントを投稿