思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

今月に偶然行って複雑な心境の、白馬岳と白馬大雪渓

2008-08-31 10:00:18 | 登山

長野県・白馬の白馬岳(2932m)登山の目玉ルートである大雪渓の上部の葱平(ねぶかびら。標高2200m前後?)付近で19日午前に土砂崩れが発生し、それに30代の男性山岳ガイドと60代の女性客の2人組が巻き込まれてともに亡くなった、という報道があった。現在も新潟県・長岡高専山岳部の60代男性顧問がこれに巻き込まれた可能性があって行方不明でもある。ほかにも行方不明者がいるという報道もある。

実はホントに偶然なのだが、僕はこの前日と前々日(17日と18日)に大雪渓を往復して白馬岳を登頂している(17日に白馬村営白馬岳頂上宿舎のテント場にテント泊して、18日朝に空身で登頂)。その実際に通った道で翌日にこのような(ヒトが巻き込まれたことによる)「事故」が発生したというのはなんとも複雑な心境である。

先々週の盆の時期あたりの白馬周辺は雨が降ったりやんだりの天気が続き、僕が行った17日は霧雨で視界があまり良くなかったが、夕方に回復して翌18日の午後まで逆にほぼ晴天になったりと空模様はめまぐるしく変わっていて、でも基本的には雨が多かったようだ。その前の15日も雨だったようだし。

それで19日はまた雨で(しかも17日よりも強い)、崩落の発生推定時間は10時30分~11時10分頃だそうだが、たしかに白馬のこの日のアメダスのデータを見るとこの10~11時あたりが最も激しく降っていたようで、その数日前からの降雨によって元々この一帯は地盤が緩いのに加えて水分がたくさん加わったためにいつ崩れてもおかしくない状況だったのが19日のその時間の集中的な降雨によって一気に土石流となって流れ出て、タイミング悪く2名がそれに巻き込まれてしまった、というカタチになるか。その土砂や岩石の流れも長さ100m幅50mと大規模なものだったようだ。

白馬岳は今夏も1万人ほどの入山者を記録したくらいの、葱平より上部は高山植物も豊富な飛騨山脈のなかでも特に人気の登山地だが、それにしては地盤が緩い、落石が多い、という安全面に関する情報がそんなに多くないような気は前々からしていた。
それで僕は白馬岳と大雪渓は14年前の大学1年時にワンゲルの夏山合宿で行って以来ご無沙汰だったので、その最新情報を得るために今回行ってきたのだが、以前よりも雪渓上の晴れて気温が上がって雪渓が溶けると今にも落ちそうな岩石の数はかなり多く(なかには小型冷蔵庫くらいの大きさのものもあった)、大雪渓ってこんなに物騒だったっけ? と少々驚いた。

ここを行く場合は基本的には落石の可能性を取り除いた、登山者用に雪渓に着色した登下降路を辿ることになり、完全に安心というわけではないが濃霧でなければ道迷いもあまりなく行けるとは思う。ただ、霧が濃くなると10~20m先も見えなくなるくらいになるとか。僕が行ったときは霧が出ても50m先くらいまでの視界はなんとかあった。
また、大雪渓は7月ならまだしも8~9月に暑い日が続くとクレバスが広がってその通過にも神経を遣う、という話は聞いていてそれも実際にいくつか見かけたが、それよりも何よりも落石のほうが心配だった。右岸の杓子岳方面からは大雪渓まで流れてくるほどではないが小さな落石の音は絶えず聞こえた。
好天であれば国内でも珍しい雪渓歩きをできてご機嫌登山にもなるが、霧が濃くなって上部からの落石が見えづらくなるとちょっとやばいかも、とも思った。小型の石は音もなく落ちてくるし。

それと今回の事故発生現場の大雪渓上部は葱平あたりは、登山者の登り・下りどちらかが道を譲らないと通過できないくらいのやせ道がしばらく続き(上の写真はその付近の、おそらく崩落現場の少し上あたりから18日午前に、つまり事故発生推定時刻のちょうど24時間前に撮影したもの)、沢筋の落石のありそうな箇所には「落石注意」とか、それに加えて「間隔をあけて速やかに通過してください」と書かれた木製看板もいくつか設置されて注意を促していたが、ここでかい、もっと下部から注意を促さんかい、とは少し思った。

そんなわけで、事故発生翌日の20日からこの大雪渓ルートは通行禁止になってしまったが、たしかに今後の崩落の可能性をもっと徹底的に調査しないと、この登山道は安易に解禁すべきではないと思う。
それに加えて更なる落石の危険性の周知の徹底もか。白馬山麓の観光や登山に関するパンフレットを見ても、高山植物やらなんやらの愉しみばかり謳っていてなんだかなあ、とは思ったので、もっとなんとかしてほしい。インターネット上の各種媒体も同様。
一応、現地では白馬大雪渓登山の玄関口である猿倉バス停から白馬尻小屋と、そこから大雪渓を経由して白馬岳、の2種類のルートを「トレッキング」と「登山」に大別して後者を登る場合には雪渓用の軽アイゼンなどそれなりの登山装備と心構えが必要、などと案内板で告知していたが、そこはまあ良い点だったかな。

ただ、なかには落石の多さからこの大雪渓ルートを「廃道」に、という声もあるようだが僕はこれには反対で、危険度の周知を徹底させて自己責任で、と釘を刺したうえで登山道としては継続してほしい。真夏に登り2~3時間、下り1~2時間(登山者平均でだいたいこのくらいの所要時間か)も雪渓に触れられるなんていうのは国内でもとても珍しいことだから。それを楽しめる環境はなんとか残したいものだ。もっと国費を投入して、環境調査とパトロールを強化させるべきでは?

ちなみにこれは参考になるかどうかはわからないが、今回の登山は単独行だった僕がこの大雪渓通過で特に気を遣ったのが、音。3年前の8月にも右岸の杓子岳側からの大崩落があって2名死傷していること、落石の恐れが常にあることは重々承知だったのだが、それを踏まえたうえで大雪渓を登り降りするときは登山の基本どおり? の50分歩いて10分休む、ということはやめて、それこそ数分おきに動いたり止まったりして随時上部から落石がないかどうかと視界と音をこまめに確認しながら動く、という方法で行動した。つまり簡単に言うと、「だるまさんが転んだ」みたいな動き方をしていた。

複数人で行動すると、ほかの仲間のペースに合わせるために歩き続けなきゃならなかったり会話に夢中になったりするときもあったりして、自由に立ち止まるのが困難だったり集中力を欠いたりすることもよくあるが、他人に気兼ねなく行ける単独行ではこのような動き方のほうがやりやすく、集中力も保ちやすく、ここのような地盤の微妙な場所を行くのに理にかなった動き方かと思う。もちろん、落石に備えて全力では動かずに、落石を除けるために横方向に逃げる体力を残しながら動いてもいた。

なお、今回の登山で「最新情報を得るため」とあるのは、実は来週末(9月5~7日)に複数人でこの大雪渓経由で白馬岳に行こう、という計画が前々からあってその下見目的という感じで行ったのよね。ほかにも白馬岳を登る登山道は猿倉から白馬鑓温泉経由と栂池から白馬大池経由もあるが、結局は今回の事故の影響(大雪渓の通行禁止や降雨の多さ)によってその登山は中止となり、無期延期となった。
大雪渓はたしかにそんな危険な面もあるが、それを事前にわきまえたうえで複数人でも経験者とであればぜひ行ってほしい道として(できれば雪渓の状態がまだましな7月に)僕も飛騨山脈のなかでも特に推したい登山道なので、同行予定だった仲間に登山の醍醐味のひとつを提供する意味でもなんとか一緒に行きたかったが、今夏はもう行けなくなったのはやや残念。まあ仕方ない。

大雪渓を再び辿れるのはいつのことになるのだろうか。それとも二度と再訪できないのだろうか。ひょっとしたら18日午後に白馬尻小屋猿倉荘かJR白馬駅前でニアミスしていたかもしれない、今回亡くなった2名の登山者に冥福を祈りつつ、例年になく強く、白馬岳周辺へ想いを馳せるのであった。


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