思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

『アーバンサバイバル入門』で4作連続

2017-05-31 23:59:59 | 出版・言葉・校正

今月末の固定ネタとして取っておいたのだが、1日(月)発売の服部文祥氏の新刊『アーバンサバイバル入門』(DECO)の校閲を担当した。
まあこれは本の体裁が14年11月発売の『サバイバル登山入門』(現在5刷)とほぼ同じで、つまり同じ系列の扱いの本ということで。

タイトルで触れた「4作連続」とは、服部氏の既刊本の文庫化や編著を除いてその都度の個人的な新作の出版で、14年11月の『サバイバル登山入門』(DECO、現在5刷)、15年6月発売の『ツンドラ・サバイバル』(みすず書房、現在4刷)、16年12月発売の『獲物山』(笠倉出版社、現在2刷)、に続いて今作も校閲(「校正」よりも確認すべきことが多い)担当として携わっているため、ということ。

こんなに仕事として続いていることについて最近は友人知人から、僕のほうから服部氏や版元に懇願して無理矢理にかかわっているのではないか? と勘違いされたり、「服部文祥専属校正者」などと揶揄されたりすることもあるが、一応は1作ごとに事前に報酬の提示とともに仕事として依頼があってその都度ほかの予定と勘案のすえ請けており、結果的にこれまでに足掛け4年もタイミングが合うことが続いたというだけのことで。そこは改めて強調しておきたい。
ただ、客観的に視るといずれの著作も登山および狩猟の業界のなかでもかなり異端というかマニアックで突出した(しすぎた?)内容ではないかと感じるが、それとともに本の制作の進行というか予定にも付いていけるフリーランスの同業者は少ないと思われるため、今作についても結果的には担当できるのは僕だけではないかという自負は多少あるにはある。

それで、今作の内容は書名に「アーバン」とあるように都市生活(服部氏の場合は神奈川県横浜市北部)においてなるべく自力でなんとかするという姿勢を1冊にまとめて見せて、これまでの著作の国内外の登山や狩猟を「動」の話と見立てると、今作はそんなに派手な行動はせずに私生活の範囲内で、自宅とその近辺の物事でほぼ完結するという言わば「静」の話ではないかという印象。まあ今作の服部家の衣・食・住の公開に関して一般的な別の言葉にざっくり言い換えると、登山で使い古した装備の「再使用(流用)」(「リサイクル」よりも「リユース」のほう)や衣服の「修繕」、食べるための動植物の「調達」と獲物の「解体」やその「調理」、09年に購入した傾斜地の「問題物件」の「リフォーム」やそれに付随する「DIY」、生活をより豊かにする? ための道具や物資の調達方法としての「廃品回収」、というようなことなのだが。
それぞれの項目で服部流の細かい流儀というかこだわりがあり、1冊のなかで細かく解説している。

だから僕としては今作は仕事として携わったといっても登山や狩猟の手法というよりも、素人でもなんとか手を出せそうなレベルの土木工事も含むリフォームやDIYに関する広範の知識が求められるため、具体的な調べ物などの作業内容としては(最近増えつつある)ジビエ料理や(都市生活の話ではあるが)田舎暮らしの話に触れていたような新鮮な感覚だった。

ということで、これまでの著作とは毛色が異なるため、今月初めに発売されてもどのくらい売れそうか(世間に受け容れられそうか)という予想は今作が最も難しい。発売後に東京都心の行きつけの書店に出かけると、ふつうに登山関連の棚に入っているが(まあ姉妹書の『サバイバル登山入門』の隣にあることが多いが)、ページをパラパラめくるとおおまかな内容の見た目は料理やリフォームやDIYの本の棚にあってもおかしくないので、今作は特に(僕の後学のためにも)いろいろな書店でこの本の扱いをより注視する必要があるかも、と思っている。

ちなみに、この本に僕が仕事として実際にゲラ(校正刷り)に触れて作業したのは今年の2月から3月の約1か月間なのだが、仕事の依頼自体は昨年7月からあり、その間に制作が滞っていたのは服部氏が本拠地の『岳人』の編集の仕事のほかに別の版元の連載など「書く」仕事にいろいろ手を出しすぎているからで(それに加えて、編集担当の大塚真氏も普段から野外系の雑誌記事やほかの単行本にもかかわっている影響もあるかも……)、僕としては最初に話があってから結構待たされた感はあるが、その間にも仕事に役立ちそうな調べ物をしたり、服部氏の他媒体露出の“監視”の範囲を拡げたり、という準備はしっかり続けていたのでヘンな言い方だがそんなには飽きなかった。そのため、今作に限っては昨年7月から今年3月まで9か月間も携わっていたような感覚で、校正者としてひとつの出版物にかかわった期間では過去最長だった。でも本の制作は出版までに全体的には2年ほどかかったらしいけど。

それで服部氏の出版後の動きについてだが、今月は下旬に東京23区内で出版記念イベントのようなものが相次ぎ、20日(土)に下北沢の「COW BOOKS」で単独のトーク、21日(日)に下北沢の「本屋B&B」で(なぜか今年上半期は出版ラッシュの)鈴木みきとの対談、22日(月)に東京駅前の丸善丸の内本店でサイン会(購入者対象)、25日(木)に神保町の書泉グランデで単独トーク、をこなしていた。らしい。
各サイトでイベント終了後は告知の概要をだいたい削除してしまうのでそれぞれ当日の状況がよくわからないのだが、ツイッターとフェイスブック以外で特に見つけやすいところでは、鈴木みき女史のブログの22日付の記事があるので、まあいずれもだいたいこんな感じなのだろうと想像する。
僕はいろいろあって今月分はいずれも行けなかったが、来月以降にも何かしらの催しはあるようなので、今後のものは行けたら行きたいものだ。実は服部氏とは今作の作業絡みでは会っていないので(最後に会ったのは昨年末の『獲物山』の仕事で)、僕の仕事に関することで不備というほどでもないが問い質したいことが複数あるにはあるもので。そのひとつは4月から本の宣伝のためにツイッターを始めたことだったりするのだが、まあそのへんは追々。

なお、服部氏は来月末に別件で話題となった『新潮』16年12月号で発表済みの『息子と狩猟に』の単行本化が控えているが、これに関しては版元の新潮社といえば校正・校閲業界では最も有名な校閲部があるため、僕は関与しない。なので、服部本に携わった記録? は「4作連続」で止まることになる。べつにその点は全然気にしていないけど。天下の新潮社校閲部の仕事をいち読者として客観的に眺めることにしますか……。

今作に関して今後の僕個人的なことは、(まだ完了していない)版元からの報酬を待ちながら販売の状況を書店に立ち寄ったさいに確認してイベントにタイミング良く行けるようであれば行く、ということで。それになんか年内に再びNHKのドキュメンタリー番組を放送するらしいが、今作と関連性のある内容なのかどうかはまだわからない。
今後も服部氏に関する仕事があるかどうかもわからないが、タイミングが合えばもちろん優先的に検討したい。でも最近は、もしほかの同業者や編集者が担当するとどのような仕上がりの本に変わるのか? ということもよく想像するので、とりあえず小説デビュー作? の『息子と狩猟に』を楽しみにする。まあ内容は15年発表の「K2」とともに知っているのだが、造本と組版ももちろん気になるもので。


※17年7月上旬の追記



本文で触れた6月の催しのなかで、25日(日)に神奈川県藤沢市の湘南蔦屋書店での、数年前から取材や狩猟行の同行などで懇意らしい食に関する著書が多いエッセイストの平松洋子女史との対談形式のものを聴きに行った。
普段、服部氏が(聴衆を掴むためのネタ見せも含めて)単独で語る催しとは違って、その流れは同じだが平松氏からの適宜ツッコミというか質問が入ることによって異なる視点から服部氏のこれまでの行動や思考が改めて整理されて、思ったよりも面白かった。
梅雨らしい雨模様だったこともあって聴衆は定員の3分の1だったが、むしろゆったり聴くことができて(交通費も含めて4000円以上の出費で出かけたが、それでも)有意義な場であった。

あと、先日、この本を2歳児のいる友人へ貸すさいにその子に軽く読み聞かせのようなものをやっていた様子を垣間見ると(元々その家庭は服部ファンなので、世間一般的には忌避感もありそうな獲物を解体するような描写にも理解がある)、ああなるほどそういう使い方もあるのか、と子のための教育書のような役割も担うことができそうだということはこの本を仕事として触れている最中には気付かなかったが、そのような役立て方もあることを改めて思い知った。


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