淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

私小説作家、西村賢太の随筆集「一日(いちじつ)」を読む。

2012年08月30日 | Weblog
 西村賢太の私小説を初めて読んだのは、芥川賞を受賞した「苦役列車」だった。

 その小説「苦役列車」は映画化され、公開された。
 監督が、「マイ・バック・ページ」の山下敦弘。主演が「モテキ」の森山未來、そして高良健吾と「AKB48」の前田敦子。

 ネットやマスコミでは、映画「苦役列車」が大コケしたことを連日取り上げられ、「AKB48」の前田敦子が出演するテレビと映画のそのいずれもが、低い観客動員数と視聴率低迷に陥ったことを盛んに煽っていた。

 確かに、前田敦子が主演した「花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011」(フジテレビ)も低視聴率だったし、ベストセラーを映画化した「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」も惨敗だった。
 そして、西村賢太の私小説を映画化した今回の「苦役列車」もまた苦戦を強いられた。
 でも、今回の映画がコケたことで、前田敦子に責任はないと思う。これは少しバッシングのし過ぎだろう。

 それよりも、今回の映画化にあたってまず吃驚(びっくり)したのは、原作者である西村賢太自身が、なんと自作の「苦役列車」を大批判していることである。
 それが原因で、初日の舞台あいさつで、作家の西村賢太と監督の山下敦弘の2人がほとんど互いの目を合わせなかったと書いた記事さえあった。

 そういう僕は、これまで書かれた西村賢太の私小説のほとんどを読み漁って来たといっていい。
 「苦役列車」を取っ掛かりとして、その前に発表されていた文庫も含め、ほとんど全部読んで来た。
 それほど、この凄まじい生き方をしてきた私小説家にハマってしまったのである。

 西村賢太の父親は、彼が小説の中でも書いているように、零細企業を営んでいた時期に性犯罪を引き起こして警察に捕まっている。
 その事件が原因で両親は離婚し、彼と姉は母親と一緒に様々な場所を流転することとなり、結局、西村賢太は中学を出たあと高校へは進学せずに自活を余儀なくされ、三畳一間のアパート生活を送りながら日雇いの仕事を転々としてゆくのである。

 私小説の中にも詳しく書かれてあるが、家賃を何度も踏み倒し、風俗通いに明け暮れ、友人からも金を借り続け、酔っぱらった末に2度の暴力事件を起こして警察に捕まってしまう。彼はかなりの酒を飲むようだ。

 これらの荒れた生活の模様と、素人女性と恋に落ち、彼女と同棲生活を始める顛末を彼は克明に、そして詳細に私小説として綴ってゆく。
 これがすこぶる面白いのだ。他人の不幸話で本当に申し訳ないのだけれど。

 赤裸々に描かれてゆく私生活の様子が凄い。
 今は別れてしまったという(小説の中でもそう書いてある)彼女から、抗議とか、名誉棄損で訴えられたりしないのだろうか。それが心配になる。
 余りにも生々しいのである。
 ただし、書いている本人は、微妙に女性の年齢や容姿を変えて表現することで、そういう問題を出来る限り回避しているようではあるけれど・・・。
 
 そんな、無頼派というか破滅派というか(今やそんな言葉は死語化しておりますが)、凄まじい人生を送ってきた西村賢太が、「笑っていいとも!」や「ネプリーグ」とかのテレビのバラエティ番組に頻繁に出るようになったのには驚いた。

 西村賢太は芸能プロの「ワタナベプロダクション」に所属したらしい。
 まあ、スケジュール管理から日々の日程調整まで、1人でこなすのは大変だろうとは思うけれど、それにしても芸能プロとは・・・。
 どうりで最近テレビに顔を出す筈である。やっと理解できた。

 その西村賢太による第二作目となるエッセー、随筆集「一日(いちじつ)」が出たので早速読んでみた。
 ここでは、芥川賞を獲る前後からその後に到るまでの、彼の周りで起こった出来事とか文学に関連する事など、文芸雑誌や新聞等に発表した雑文を様々綴っている。

 そしてここに、確固として揺るぎ無い「西村賢太」がいる。
 粗暴で、嫉妬心と猜疑心の塊で、小心者で、女好きで、大正時代の作家である藤澤清造を心から慕っている一人の男がいる。
 因みに、藤澤清造は貧困の果てに厳冬の公園で狂凍死している。

 やっぱり面白いのだ、西村賢太は。
 「一日」の後半部分に書かれている「色慾譚」なんて凄過ぎる。
 ここまで赤裸々に書いていいのか、あんたは!

 作家が、頻繁にテレビに出ようがほかで何をしようが、そんなことは表面的な事でしかないし、素晴らしい傑作を書いてくれさえしたら読者としてこれ以上の幸福はない。

 とにかく早く読みたいのだ、同棲生活破綻後のリアルな人生模様を。
 心を掻き毟られるくらいに鋭利な刃で、読む側の人間をずたずたにして欲しい。ただ、それだけだ。




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