ドラクエ9☆天使ツアーズ

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陽風来たり

2020年05月16日 | ツアーズ SS
先生と熱く意気投合してしまい、ミカを放って置くこと三日。
な、ぜ、か、今日は自習になったということで、久しぶりに気兼ねなくおバカ発言を連発し、それにいちいち「くだらねー」と突っ込ませてやっているうちに、ここ数日のミカの鬱憤は晴れた様だ。
大体ミカは機嫌が悪いと一人になりたがる。機嫌が悪いのを悟られたくないのと周囲に当たってしまうのを避けているのではないかな、とヒロは推測している。なので気の済むまで一人にしてやると、自分から「構え」と出てくる。普段ならそれで問題ないのだが、今はちょっと違う。
ヒロと先生から「手出し無用!」と言われているので、自分から近づいてくる手段を封じられているのだ。今夜あたりちょっと様子を見ておくかな、とヒロが思っていた矢先の「自主学習」という先生のお気遣いなので、ここは有難く気分転換といこう。
自主学習という名目で、古典文学の短編集をミカが読み聞かせに徹し、それに対してヒロが所々疑問をあげたりするうちに、逆にミカが自分の疑問にヒロの解釈を求めたてきたりして、「古典文学から貴族社会の成り立ちを学ぶ様に」という先生の狙いは抑えていると思う。
だからは話はそのまま古典から、現代へ、自分たちの現在へと変わる。
ヒロのこだわり、「貴族になりたいわけじゃないのに貴族の授業を受けている状況」について先生が細やかに話を聞いてくれて、ヒロが引っかかっている些細なところを一つ一つ解消してくれた結果の意気投合、である事をミカに伝えておく必要がある。
決してミカが邪魔なのではなくて、という意味合いで。
「そんで先生が、俺が貴族になるにはいくつか手段があるっつって」
ヒロと先生の二人の話、にはミカも興味がある様で、すぐに反応が返って来た。
「ああ、あるけどな」
と本を閉じ、寄りかかっていたソファーから身を起こしたミカが、手段について説明してくれるのをヒロはただ素直に受け止める。
先生から聞かされるのと、ミカから聞かされるのとでは大分印象が違う。
先生は歳も離れていて、威厳もあって、まあ話は堅いし長いし所々言葉遣いは難解だし、であまり現実味は無かったが、ミカから貴族社会の仕組みを聞かされるのは純粋に面白い。
貴族になりたいわけではないが、そうやって自分の知らない世界が知れるというのは先生の言うところの『己を知る』に繋がるのではないかと思える。
「お前が領地と称号を貰えば家族もそこに住まわせられるけど、貴族の称号はお前の代からだな」
社交界に出るのも権力を持つのも政治的に関わるのも、全て自分から始まるわけか、と考えて、それが永久に続いていく事に考えが至る。ミカの手にある、古典文学の本。
あの中の世界が何百年と続いて今がある。今の、ミカの家が。
「俺の子供は必然的に御貴族様、ってこと?」
と問えば、ミカは「それは褒賞による」と教えてくれたが、それには事務的な説明であまり興味がなさそうだった。
ヒロとしては、自分が貴族の称号をもらったとしてそれが受け継がれていくなら、未来には、自分の子孫とミカの子孫が身分差のない対等な付き合いに、それこそ誰の目も気にしない友達になれるのかが気にかかったのだが。
その話にはミカも、うーん、と唸る。
お互いまだ結婚だの後継だの言われても実感がないのだから、子孫がどうこうというところまでは現実味がない、とのミカの困惑にはヒロも同意する。
「それはまあ確かに」
「身分差以上に位格の問題もあるしな」
そうだった。
「それもややこしいよなあ」
先生の授業は礼儀作法だけに留まらない。
「形だけ真似をしても無様な醜態を晒すだけです。そこにある所作にどの様な心があるのか、どの様な習慣からそうあるべきなのか、仕草の一つ一つが貴族社会のあり方から生み出されたものであることを理解しなければどの様な所作も所詮真似事でしかないのです」
と言った先生はヒロの授業を多彩な方面から組み込んでいる。
そのため授業の間は貴族の生活を身で感じる様に、と執事のライダスからも「ヒロ様」と実に恭しく扱われて(尻がむず痒いぜー)とも言えず妙な居心地を味わっているのが今のヒロなのだが。
そんなヒロの困惑に、ミカが「そうだな」と、思いついた様に口を開く。
「今お前が貴族になったとして」
「おお」
「男爵か子爵あたりの称号を頂ければ、俺との仲は問題ない。連れ立ってどこに行くにも、互いの家を行き来するにも、上からの苦言はない」
少なくとも今の状況よりはないはずだ、と言うミカの口ぶりには、そこそこ苦言はあるんだろうなと感じ、ただ頷く。
「社交界にも出る事になるし、そこで他の子息たちとの交流も必然になる」
「無視はされねーって事な」
以前にミカの家が開いた月見の宴で、自分たちはほぼ空気で、上からの許しがあるまで発言もできなかったことを思い出す。
「そうなるとどうなるか、だ」
「交流すると?お友達、ってわけには行かねーんだろ?」
俺とミカみたいな、と言うヒロにミカも頷く。
「例えば同年代だけで集まって遊興施設に出向いたりする」
「ユーキョーシセツ」
「観劇とか、音楽観賞とか、なんでも良いんだが、…じゃあ音楽鑑賞で歌劇場に行く。鑑賞すれば当然、それぞれに感想や講評とかの意見を交わしたりするだろ。そこに教養を求められる」
出た。教養。
ミカが生まれながらに躾けられ、今までのヒロには無縁のもの、という認識の。
「だから今の先生の授業は無駄じゃねえってこと?」
「違う。授業の話は今どうでもいい。位格の話だ。音楽鑑賞の後に意見を求められて、お前がそれに何かを言う、あるいは何かを言えないでいる、どっちにしても周囲はお前を見下げる」
「え?…言えない、のはまあ教養がないとしてわかるけど、正しく言っても見下げられるって?」
「うん。しっかり教養を身につけて、他の子息たちと遜色ない意見を言えたとしても、そこは関係ない。お前の格が、下だからだ」
すごい世界だ。とヒロが言いかけるのを押し止める様に、ミカの言葉が続く。
「これが俺だと、興味がない、つまらない、くだらない、と適当にあしらったとしても何の問題もない。逆に、彼らは追従するか、作品をこき下ろして俺の機嫌をとるか、ぐらいはするだろう」
「…あー」
それが格か。
そう言えばミカが閉じこもって部屋から出てこない、と執事が心配した時も、先生は当たり前の様に「機嫌をとってきなさい」と言って『自習』という名目をくれたのだ。
それが当たり前の世界。
「実際、学生時代にはそういうのが繰り返されて飽き飽きしてたからな」
それにまともに付き合うより一人を選んだミカの心情はわかった。
(面倒くさがったな…)
ヒロにわがままを言って喧嘩になったり、ウイは遠慮なく反対意見を言ったり、困った時には一緒に悩んでくれるミオがいたり、そんな関係はミカにとって新鮮だったのだろうとも思う。
だからミカがそれを貴族社会でも求めるのもわかる。ミカが背負うものは貴方の背負うべきものではないのですよ、と言った先生の言葉も、…わかる気がする。
「そういった遊興方面だけじゃなく、政治や社交界でも同じことが起こるのは想像できる。外から貴族社会に入るのはそういうことだ。周囲にまともに認められるには百年単位でかかると思う」
「百年か…。でも俺が百年経っても、ミカたちも百年経つわけじゃん?」
「差は埋まらないな」
「うーん」
だからか。ヒロたちにそんな思いをさせたくなくて、貴族社会との関わりを極力避ける様であるのは。
大丈夫。分かってる。ミカはいくつかの手段があるとしてもそれを行使しない。貴族になれとは言わないだろう事も、言えないのだと分かっている。だから自分たちは、ミカの友達でいられる様に、できる限りのことをする。多くを学び、経験し、社会的地位を確立する。それが冒険者クランを立ち上げた時の総意だ。
先生にはこれを説明すれば良かったのかな?と思う。
どうして貴族になりたくないと考えたか、その経緯はどこにあるのか、誰の影響か、思想か信条か諦念か厭世か、と先生は詰問の手を休める事なく、ヒロの中にあるものを言葉という形にさせようとする。そして「これは授業の最終まで続けます」と言った。
責められている様に感じる、というヒロに、考えることを癖づけるためだ、と言い、常に身を取り巻くありとあらゆる事に対して疑問を持ち考えろと指示されている。
おかげで最近では先生に対する苦手意識もどうでもよくなり、自分の中から出てくる曖昧な言葉を逆に先生が解説してくれるのが何かしらの面白い遊びの様だと感じてしまうまでになった。
それでも、やはり一人で考えるのは苦手だ。今の様にミカと他愛無い話をしながら、詰問に縛られる事なく自然体でいる方が考えはまとまる様な気がする。
貴族になりたく無いのは、ミカに負担をかけたく無いからだ。
貴方の感情はどこにありますか、と聞かれ悩んで考えた答えと、今の湧き上がる思いは違う。
多分、自分の感情で言えば、今の思いが答えだ、とはっきり言える。
そんなことを考えていたから、ミカとの会話に集中し切れていなくて、不意にミカから投げられた質問で我に返った。
「先生は、どうしてそんなことを言ったんだと思う?」
「え?どうして、って?俺が阿呆だから?」
咄嗟に反応したには余りにも間抜けな返しだったか、ミカが「違う」と渋面で古典の短編集を示してきた。
心証を学ぶ様に、と言われ先生から渡されたその本。
ミカがそれを読みながら、「なんでこいつは唐突に裏切ったんだ」とか「こいつとこいつのつながりはどっからきたんだ」とか主役から端役に至るまで登場人物の行動に事細かく突っ込んでくる事に、それは多分こう、これは伏線がここ、とヒロなりに文章で描かれていない心理描写や人間関係の背景を解説してやっていたのはつい先ほどまでの事。
それと同じで、先生の真意をヒロはどう読み解いているのか、ということが聞きたいのだろう。
それはやっぱりー、と言いかけ、ミカは先生との関係に戸惑いを感じているのでは無いか、と思い直した。
幼少時からずっと自分の先生で、今回その先生に不敬を働いてしまったことで動揺しているのは分かった。その後、あんなに先生と話したのは初めてだ、と言い、将棋までさして仲が深まった気がする、と複雑そうにヒロに報告してきた時は(村のちびみたいだな)と思った。自分のことの様に嬉しかったのは間違いじゃ無いだろう。
だから、自分が言えるのはこれしかない。
「俺とミカが友達だから、先生としては『末長くお友達でいられます様に』って事じゃないかな」
それで良いと思う。
先生を信じろ。ミカが信頼しているそのままで、きっと先生は良くしてくれる。だってミカの先生だから。
今のミカがあるのは先生のおかげだと思っているヒロには、それが真実だ。
「だから先生は俺とミカが永久に友達でいられる様に考えろ、って言いたいんだと思ったんだけど」
とにかく考える。
ヒロの考えに、先生も先生の考えで応えてくれる。それを受けてまた考える。
それを体験した今だから、ミカと先生もそうやって関係を築いてきたのが実感できるからこそ、『仲が深まった』とミカが感じるなら、それは先生が今のミカに応えてくれた証だと思う。
ミカが変われば周囲も変わる。貴族社会という厳格さで変わらないことの方が多いのだろうけど、それを身をもって知っているからミカも期待はしていないのだろうけれど、それでもミカのために変わってくれる人もいるはずなのだ。
ヒロと先生との授業に入れなくて、『放って置かれた』三日間にどうしてたのかと尋ねてやれば、今回の騒動の説明報告で家に帰っていた事、ついでウイたちの様子を見に行ったが会えなかった事を知らされて確信する。
ミカは誰に機嫌を取られなくても大丈夫だ。
「じいちゃんがミカのこと怒らないのって、ミカが自分から怒られに行くからなんだな」
と言えば、なんだそれ、と怪訝な顔をされる。
今回の事件はもう退っ引きならないほどの大事だったのは、もうヒロにも分かっている。
だからミカがことの次第を説明しに家に行く、というのはひどく叱責されるのだろうな、と思って心配していたのだが。
「うちはもう母ちゃんがすげー怒るからな?ここが俺ん家で、先生に無礼な事したってなったら母ちゃんが飛んできて怒る。母ちゃんに怒られて、これやべえ、ってわかるっていうか」
多分先生が怒るより母ちゃんが怒る方が早いぞ、と言えば、ミカが複雑そうに頷く。
「それは、わかる、気がする」
何日かをヒロの家で過ごしたミカたち。三日以上いる人はお客様じゃなくて家族です!というヒロの母はミカの事も他の子供たちと変わらず雑に扱い、遠慮なくこき使い、いつでも戻って良いのよ、ここも貴方の家なんだから、と言った。それを受けて、お世話になりましたなどと言うミカには他人行儀はよしなさい!と怒っていたくらいだ。
「だからもう、とにかくごめんなさいとお許しくださいが言える子になる」
「ああ、うん」
「許してもらうまで、ひたすら喋り倒して、母ちゃんを笑わせたらこっちのもん、っつーか」
それが先生に、延いては侯爵様に通用する、と思っていた自分は甘かったよね、と言えばミカが笑う。しょうがないな、それがお前だし、と。
郷に入れば郷に従え、ってお前がいつも言うだろ。今回は俺のやり方を通させてもらうぞ、と言ったミカ。
郷に入れば郷に従え、それをなぜ自分が試されていると考えないのですか、と言った先生は。
若様の背負う荷まで、背追い込もうとするのをやめなさいとも言った。
身の振り方を考える。
失敗から学ぶことは多い。
失敗を許容してくれる人がいるからこそ、人として望まれる方向に成長する事ができると心得なさい、というのがミカのお爺さんからの伝言だと言う。
「今一度戻ってくれた先生への感謝を忘れぬ様に」という思いやりには、ただただ感謝しかない。
(寛大なミカの爺ちゃんと、同じくらい、それ以上に先生にも感謝をして)
学ぶ。
「学び、考えなさい。そうしてこの授業が終わり貴方の成長した姿を見てから、今一度、今回の事に判断を下します」
そう言い渡されて、今ヒロは先生の教えを受けている。
『ミカの友人でいられる様に』学ぶ授業だ。
正直ヒロには、これまでの授業と何処が違うのかはわからない。それでも確実に、先生の言葉はヒロの希望する方へと導く。導かれていると信じられる。だから。
「授業、楽しいか?」
とミカが聞いてくる事に、笑顔で応えることができる。
心配はいらない。
ミカが貴族社会から庶民になじんだ様に、そこにある苦労や困難は覚悟の上だ。そう皆んなで確認し合った日には分からなかったことも、楽観も、甘えも、全部受け止める。
形だけ真似をしても、無様なだけです。そう言われた事も、今ならわかる。自分の中で、ちゃんと納得できているという自信。自信がなければそれはただの真似事だ。
もっと早くこれに気づけていれば良かったのかもしれない。ミカにもそれを言って安心させてやれただろうと思う。だが、中身のない言葉ではミカを納得させられなかったのだ。
大変なことをしでかしてしまったけれど。今だから言える。
「そうですか。それは大変よろしい」
と、先生の声がして、ミカと同時に扉の方を振り返る。
授業の時の様に生真面目な先生の隣には、執事のライダスさんがにこやかに立っている。
「お茶の準備を致しましたよ。一息つかれては如何ですか」
自習も大変お疲れでしょうし、と先生が言うのには「ああ、えっと」と返答に困っているミカを制する様に、立ち上がる。
「先生のお誘いとあらば喜んで!いついかなる時と場所でも馳せ参じます!」
先生にはありったけの感謝を示せ。
言って減るものじゃなし。むしろ言わないと増えないし。
ミカが先生との仲の深め方が分からないなら、過剰なくらい自分が率先してやって見せる。それで怒られるなら、ミカも適度を知るだろう。
そんなヒロの意図がどうあれ。
やはり過剰であったように、苦笑するライダスと、鼻白む先生。
「…それは興味深いですね。参考までに。いついかなる時と場所とは?」
「そりゃあもう!ドラゴンとの戦闘中でも完璧な正装に早変わりしてキラーパンサーを駆ってひとっ飛びで」

「…ルーラの方が早いと思うぞ」

今更引くに引けないヒロの太鼓持ちにミカが乗ってくる。中途半端に乗っかってくるなよー、困るだろーもう!と内心で思ってはいても、笑ってしまった。
「ルーラでひとっとびです」
そんな悪ガキ二名のしょうもないお追従を見せられて。
「今声をかけたのがその時でなくて良かったですよ」
そう言って先生が姿を消す。
怒られない事に、先生の譲歩を感じる。あれは先生最大の、ジョークに対するジョーク返しだ。
だから、ええーなんでー、と先生の背を追いかけて、ミカ振り返って手招く。
大丈夫。先生は怒ってない。
…呆れているかもしれないけれど。
ヒロの自信を後押しする様に、ライダスもミカを呼ぶ。
「お庭へ参りましょう」
明るい日差しに中庭の緑は鮮やかに、色とりどりの花が柔らかく包み込む東屋。
ついてくる教え子を待つ様に歩調を緩める先生の影。
外は気持ちのいい風が吹いていた。


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