ドラクエ9☆天使ツアーズ

■DQ9ファンブログ■
オリジナルストーリー4コマ漫画を中心に更新中
時々ドラクエ風味ほかゲームプレイ漫画とかとか

司書執事

2018年04月28日 | ツアーズ小ネタ

ミカ個人所有の別宅(良い名称が解らないスミマセン)の管理を任されている司書執事

顔も名前もしっくりこないので4コマとSSと名前が違ってる一大事

イメージが固まったら、その辺り書き直しておこうかなと思って放置しているものの

もうキャラの引き出しはすっからかんなので期待はできない…

(キャラ画整理してたらミカのじいちゃんとエルシオンの学院長がかぶってることに気づく)

(ついでレンレンとラヴィエル様もかぶってた多分もっと探せばかぶりまくりだと思う)

 

なので、画像もなしに設定だけ書きなぐります

 

この人、名前がないので今は仮に司書執事と呼びますが

(セレブ探偵、とか、有閑刑事、とか、あんなノリで、司書執事)

この司書執事の設定を作ったのは、この話のためではなくて

ミカのお見合い話とかを考えていた時に、「ダメだミカ一人じゃ見合いもままならない!」と思い

お助けキャラ要員として投入するためでした

そして今から書く設定は、彼が自分の身の上話としてミカの見合い相手に打ち明けるはずの話なのですが

多分ミカの見合い話まで書くことはないと思うので、ここで暴露しておきます

(書くことがあったとしても数年先になるともう私が全部忘れてしまってると思うので)

 

大まかに、50歳代

執事と司書、両方の資格を持ちつつ、教師向きの性格で的確なアドバイスができる

という人物像ですが、この人が何故ここに配置されているのかというと、別邸の歴史から語らないといけません

 

大昔、ミカのお爺ちゃんのお爺ちゃんが当主だった時代に建てられた別邸です

現代で言うと、勤務地が東京で自宅が埼玉だった場合、埼玉まで帰るの辛いから東京に別邸建てるわ、っていう用途です

あとは、お妾さんを住まわせたり、羽目を外して騒いだりする隠れ家だったり、そういう感じでも使いますかね

その頃は侯爵家としての財産だったので使用人も侯爵家の人間が始終務めていましたが今は違います

侯爵家とは無関係の個人の持ち物(今はミカのもの)ということになっています

別邸に侯爵家の使用人を回すことはなく、別邸の使用人が侯爵家に上がることもありません

 

そうなったのは、大昔にあった事件にさかのぼります

以下、事件のイメージです

 

ミカのお爺ちゃんのお爺ちゃん、高祖父の従者の一人が粗相をしでかします

お喋り好きでついうっかり貴婦人たちのいる席で口を滑らし、その些細な一言が大事になり

彼は侯爵家の従者の身分をはく奪されてしまいました

この悪名は速やかに貴族界に広まるのでもうどこの従者として勤めることもできません

市井の方でも貴族界とごたごたするのは嫌なので良い働き口は望めません

そういった境遇を哀れに思った高祖父が、

「一度侯爵家に関わった者、その様に口の軽いものを放つのは侯爵家にとって命取りになる」

「一生鎖をつけたまま幽閉してしまうのが良い」

という名目で、彼と彼の一家を城下にある別邸の管理人とすることで事を納めます

別邸を侯爵家の財産から切り離し、孫(ミカのお爺ちゃん)に払下げ、孫個人の財産にしています

この事件のせいで、「従者が主人格に口をきくのは恐れ多い」という謙る程度だったものが

事件の後には「従者は主人格と直接口をきいてはならない」と厳格化されましたとさ

っていう昔話風+大岡裁き風になるように、事件をイメージで作ってはいるのですが

 

自分で作っておきながら、罪状と刑罰が果たして釣り合っているかどうかが、今ひとつ自信ありません

大岡裁きで高祖父の知名度アップとなるか、ただの大バカ者になるか、貴族社会を構築しきれていないというか

この時代、このツアーズ世界で、果たして法治はどこまで整っているのが良いか、とか考え出すと

世界観を作り上げるためにまず政治と立法関係の勉強もしないといけなくなってきたので、ひとまずこの程度、で放置してあります

あ、法治なだけに?

 

そういう経緯があって、個人の所有物となった屋敷に一般人となった彼は死ぬまでこの屋敷で務め

侯爵家への感謝のために代々屋敷の管理人を務めてきて、今あるのが現在の司書執事さんです

いやー…上手く設定を説明できたでしょうか…

身の上話だと聞き役の姫が突っ込んだり補足したりして

ある程度の謎や不自然さは会話の中で自然に流れるので気になりませんが

いざ設定を書くとなるとあちこち破綻が見えて、自分自身で行き詰まるのが難です

会話って素敵だな

 

司書執事と、メイド二人(妻と娘)で屋敷を管理していますが、それだけでは手が回らないので

庭や建物の補修など、そういう専門的な仕事は民間に依頼したりします

資格はありませんが、侯爵家の執事としても見劣りしないだけの知識と教養は必須

次の代の彼の息子も大学で今猛勉強中です

一応、公にはしていませんが、侯爵家の若様が度々来る、という事があるので

屋敷に出入りする人間には貴人に対する振る舞い方もしっかりしつけます

ここに教師成分が必須、で

 

あとはミカの図書館計画にも噛んでもらわないといけないかな、と思って司書成分も足しましたが

図書館を開放し民間の学力をあげると第一次産業の従事者が減る問題とか

第一次産業の減少を何で補うかとか、そうなった場合の侯爵家の維持とか

そういうところを考えていくと、ミカの別邸が図書館として開放されるのは恐らく

ミカの死後くらいにまで時間がかかりそうだな、というところに行きついたので

無駄と言えば無駄だったかなという気がしないでもないですが

あの屋敷に司書を別に雇う、というのもあまりイメージできないので

現状このまま司書執事さんには司書執事として頑張ってもらうことにしております

 

そのうち(数年後?)良い手を思いついたら、司書と執事は別人、という風に分けるかもしれない

(そうなると4コマの彼が大岡裁きの血縁者で、SSの司書は民間人から新たに雇用、という方向に)

(って今書いてて、それでいーんじゃ…、と思えてならない…)

そんなあやふやな人物像、ひとりでふたり?司書執事さん

 

そんな司書執事さんと別邸の設定話でした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見合いの姫の一人と意気投合する設定があるだけに分け辛い司書執事

にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ

にほんブログ

 


となりあうオマケのオマケ

2018年04月25日 | ツアーズ小ネタ

SSに入れるとテンポが悪くなるな、と思って切り取ったオマケ4コマです

 

となりあるオマケ、の本を借りる話、の場面で

ミオのために持ち出す本の題名をかいて司書に渡す前の一部分

 

ミオは、ミカの図書館構想が実現できるように手助けをしたいという思いで

借りる立場から犯罪抑止を考えてみたのですが、ミカにドン引きされる、というオチです

 

ミカが教師から「侯爵家として責任ある社会貢献をするとしたら何をするか」という課題を出されて

図書館の構想を出したのが、10~12歳くらいの時です

善意の貸し出しと犯罪の抑制、本の貸出を重点におくと犯罪の抑制が軽視され

犯罪の抑制に重点を置くと、善意の貸し出しがままならなくなる、という壁に突き当たって

その構想での社会貢献を断念した、という話

 

公園の桜の木が切られまくっている、というニュースを聞いて

今の公共は性善説であるからこそ成り立つものなんだな、と己の常識に激震が走って

出来たネタ

そういや側溝のふたやら電線やら盗まれまくっているのもそれか、とやや厭世的になり

民度も上り詰めればあとは下がる一方なのかスラム化まっしぐらだな!とそこから

ミカの統治に思いをはせてネタを一つ生むにとどまる妄想脳が健在な春

 

当初は授業ではなく、ミカが自主的にいずれ自分が当主になった時のために

社会貢献の一つとして書庫を開放する準備をしている(あと、庭園の解放もある)

というそれだけのネタでしたが、せっかくなので

統治者としての授業の一環、の一つに盛り込んでおきました

 

どうすれば図書館を開けるか、は、図書館だけにこだわっていては実現しないだろうと社会貢献だと思います 

当時のミカが壁に突き当たったのも、図書館だけを見据えた構想だったからでしょう

ミカにはこれから統治者としての広い視野が求められ、それを補ってくれる人間関係を果てしなく広げていく必要があります

果てしなさ過ぎて、こっちが果てそうです 

世界の半分が欲しいか、と言われても、これっぽっちも欲しいと思えないよ竜王様…

て感じです

 

 

 

 

 

 

 

風呂敷広げるだけ広げて皆様に畳んでもらうのを待つばかり


にほんブログ村


となりあうオマケ

2018年04月24日 | ツアーズ SS

先のSS「隣り合う景色(往復)」に上手く盛り込めなかった部分です

書きなぐりのメモ状態なのでさらっと流します

 

 

■本を借りる話(ミカ視点)

中庭でのちょっとしたティータイムを終えて、今一度、先ほどの部屋に戻る。

ミオに確認すれば、借りて帰りたい本がある、という事だったのでそれを取りに行くためだ。

何冊でも好きに持ち出せば良いと言えば、ミオは三冊選んで来きた。

刺繍の本と、パッチワークの本、機織り機の本である。

刺繍とパッチワークはともかく、機織り機の本に至っては言葉につまるミカである。

「おまえ、これ…機織り機の構造の図解書だぞ?」

けっして機織り機で可愛い布やら美しい図案やらを織るための指南書ではない。

一から構造を説明し、一台組み立てるまでの設計図のようなものである。

それを言えば、解ってます解ってます、と焦ったようにミオが頷く。

私じゃなくてヒロ君に、とミオは言った。

ヒロの村では機織り機を使えるのは有数の権力者に限られており、ヒロの家族は手織りで作業するのだという話を聞かされていたのをずっと気にかけていたらしい。

「この本があればヒロ君だったら、自分で作れるんじゃないかと思いまして」

「あいつに自作させる気かよ…」

どれだけヒロに対する期待値が高いんだか、と呆れて二の句が継げない。

「私の簡単な説明だとうまく伝わらなくて…」

という話で、少なくとも以前にそれなりの話はしたらしいことがわかる。

「でもこの本なら図解とか載ってるし…、これを見ながら説明した方が解りやすいかと」

まったく同じものは作れなくても、ヒロなら仕組みさえ理解すれば適当に簡易的な織り機を作れるのではないか、というミオの主張には唸るしかない。

「む、無理でしょうか」

「まあ、やってみれば良いんじゃねーか」

自分は、創作については苦手分野だ。

ミオがどんな構想を描き、それをヒロがどうやって形にするのか、ミカには想像もつかない。

自身の分とミオの三冊、持ち出す本の題名を書きつけ、それを司書へと手渡す。

かしこまりまして、とそれを受け取った司書は、一冊の本を差し出した。

先日、街でミオが買ってきた刺繍の本である。

「こちら、検めさせていただいた所、既存の書物と内容にさほど違いはございませんでしたので」

保管している幾つかの書物と比べ、足りない内容だけを書き写し終えたので、持ち帰って構わないという。

それを受け取ってミカはミオに渡した。

「という事だから、お前の物にすればいい」

「ええーっ」

「いらないなら廃棄に回す」

「いらなくないですっ欲しいですっ」

「ん」

世界の刺繍図案、と仰々しい題名ではあるが、ほんの50頁ほどの薄い本だ。

おそらく書庫にある専門書に比べれば大した情報量でもないだろうと思っていたから、これは予想通り。

はなからミオの物になるだろうと思っていた。

「あ、ありがとう、ございます」

なんだか複雑そうにしているミオに、司書が言葉を添える。

「こちらこそ、市井で流通する書物の提供を有難うございました。専門書以外の書籍までは中々手が回りませんので、大変、役立つものでありましたよ」

「あ、そう、だったんですか」

おそらく司書の仕事を理解していないミオには、その言葉で十分だったのだろう。

受け取って良いのかどうか迷っていたようなミオが、やっと笑顔になった。

 

 

 

 

■馬車の座席の話

馬車に乗り込んで、これから城下町の方へ戻る。

馬車が動き出す前に、ミカは離れて座ろうとするミオを隣に座らせた。

先ほどのティータイムで、執事に言われたことが頭をよぎったからだ。

こういった席に慣れない婦女子は対面ではなく、隣に。という彼の提案。

おそらく、今からそう遠くない先には数々の家との見合いを設けられる事が増えていくのだろう事は解りきっている。

その為に、作法の教師から教わった通りにふるまうばかりが正しいのではなく、女性に対する扱いを見直せ、と彼が良いたいのだろうと思う。

実際、ミオはいつになく良く喋った。

街では宿の食堂で、自分たちの船では船内で、二人きりになる事があっても大抵静かに、それぞれ自分の趣味に没頭して時間を過ごす事の方が自然だと思っていたから驚いた、というのもある。

ウイやヒロといる時の様に、よどみなく、自分の村の習慣やこだわり、父の様子、家族の時間、そういったミカの知りえない話を聞かせてくれ、それに軽く相槌を打つだけで、ミオの話はどんどん広がっていったほどだ。

だから、ミオは対面にいるより隣にいる方が気が楽なのかと思い、そうさせたのだが。

中庭にいる時と違い、がちがちに固まって馬車に揺られている。いや、揺られまいと踏ん張っているのか。

「座り心地悪いのか」

城下町から出てきたときは、なにやら夢中で窓の外ばかりを見ていたミオが、真正面を向いたまま硬直しているようで、思わず声をかければ。

いえ!そういうわけでは!と、力んだ言葉が返ってくる。

居心地悪いんだな、と理解した。

「向かいが良いなら、あっちに座ってろよ」

と、辻で行き交う他の馬車待ちのために停車した隙にそう言えば、大人しくミオは向かいの席に移動して。

来た時と同じように、斜め向かいへ座り、そしてそのまま横にずれて座った。すなわちミカの対面に。

何をしているのだろうか、ただ黙ってその行動を追っていると、ミカの対面からまた斜め向かいに移動して。

「やっぱりここが良いです」

と言う。

それでようやく全部の席の座り心地を確かめていたのか、と解ったが。

「隣だとすごく仲良し、って感じがします」

馬車がまた走り出し、その揺れに足を踏ん張って、そっちは、とミカの対面の席を指す。

「なんだか果し合いをするというか、向き合うっていうのが対戦する準備っていうか」

そんな感じで、と言って。

「ここだと、無関係、って感じです」

と、それぞれの席についての感想を言うミオに、思わず絶句する。

なんだそれは。

座る位置で、そんなに関係性を細やかに分析する意味はなんなんだ。

というか、そんなに感想を呼び起こされる事か?たかが、席の、位置ひとつで!

「……」

ミカとしては、ミオがどこに座ろうとどうでも良い。ミオがどこにいようと同じで、それに対していちいち何かを思う事など一切ない。

なのにミオのそれはどういうことだ。

なんという繊細な生き物か!!という感想に尽きる。

自分とはまるで違う世界にいる生き物に遭遇したような…、そんな驚きでしかなかったのだが、ミオは違うように受け取ったらしい。

「あ!違うんです!ミカさんと仲良しが嫌だとか、無関係が良いとか、そういう事ではなくてっ」

「え?あ、…うん」

「なんか、座席ってそういう意味があるのかなあ、って思って」

ねえよ!そんな意味なんか!!

と、言いたいところをぐっと我慢する。

「不思議ですよね」

「お前がな」

というのは我慢できなかった。

「ええ?」

「俺、別にどうでも良いし…」

「えっ、そうなんですか?どこでもいっしょですか」

「…うん」

そう返せば、ミオが困ったように目線を彷徨わせる。

うーむ、しまった。また微妙な空気に突入しようとしているのか、これは。と考え、なぜ微妙な空気になるのか気づいた。

ウイとヒロがいないからだ。あの二人の介入がないから、こうしてミオと二人の会話は度々、とん挫する。

それで思った事が、一つ。

ミカは口を開いた。

「これは、いつもの座席と同じ形だ」

「え」

いつもの。4人が揃って、テーブルに着くときの、決まった席の配置だ。

「ウイがそこで」

とミオの隣を指し、俺がここで、と最後に隣を指す。

「ヒロがそこだ」

その意味を少し考えていたようなミオが、あ!本当だ!と、声を上げる。

ミオの隣はいつもウイで、対面はヒロだ。そして、ミオと自分は斜め向かいにいるのが、当たり前の光景で。

「あ、そっか、だから私ここが」

落ち着く配置なのだろう。

生きの馬車でお互いに何も言わず当然のようにそう座ったのも、実はいつもの習慣なのではないか。

「解りました、中庭でお茶をいただいた時は二人席でした!二人席だとミカさんの隣が良いんですけど」

4人席だといつもの場所が良いみたいです、と言われて、ただ頷く。

ミカにとっては、二人席だろうと4人席だろうと、別にどこの席に対しても執着もなく何ら変わりはないので、まあミオはそうなんだろうな、と言う程度。

だがミオは、その答えにたどり着いて、すっきりしているようだったが。

「あっ、だからって、いつもミカさんと無関係がいいとか思ってるわけじゃなくてっ」

「うん、それは解ったから」

「あ、そうですか」

無関係が良いと思っているわけじゃない事くらいは解る。

ミカのために訪問着を用意し、ミカのために慣れない馬車に乗って、人見知り全開で挙動不審になりながらもミカの家で半日を過ごし、今こうして帰路についているのだ。

ただミオはそういう性分なだけだろうと思う。

人との距離に繊細すぎて、自分のことがおろそかになりがちな。

「だから、好きにすれば良い」

自分は何も構わない。ミオはミオらしく、自由でいてくれて構わないのだ。

「はい」

馬車は速度を落とし、他の馬車の流れに掴まったようだ。

帰路の軽い渋滞に合わせ、人の歩くよりは少し早い程度に、窓の景色が流れる。

何気なく二人、窓の外に目をやって、同時に気づいた。

「あ、ウイちゃんと」

ヒロと師匠の姿をミカも認めたが。

あろうことか、ミオが窓の外に向かって手を振り呼びかけようとする。

「ば、かっ!それは好きにするんじゃねえ!!」

「はいいぃっ?」

馬車の中から外の人間に声をかけるなどはしたない、という事を理解しないミオは、いきなりのミカの叱責に飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もったいないので作った小話はあますことなくうpする所存


にほんブログ村

 


となりあう景色(復)

2018年04月18日 | ツアーズ SS

ミオはこれまで、多くの本に触れる機会がなかった事に気づかされていた。

村にいた頃は、教会か、買い付けに行っていた商人が仕入れるか、旅回りの商隊が扱っているかどうか、という程度。

それも、勉強の本を除けば絵本や童話が主だったのだ。

だから今こうして、裁縫に関する専門的な事が書かれた書籍を目にして、父の言動から教わるのではなく文字という情報を読み込む事で自分の知識となっていく体験は新鮮で、いつしかそれに没頭していた。

ミオ自身の意識さえもそこにはなかっただろう。

「悪い、遅くなった」

という外部の雑音すらも届いていなかった。

「おい、そんなに暗いところで読めてるのか?」

それがミカの言葉だと認識することもなく、暗い、という言葉に不意に気が散ったのを感じた。

暗い、ああそういえばなんだか暗い気がする、そうか、こんなに暗いのは陽が陰ってきているのか。

そう感じるのと同じ速度で意識は本の中から浮上し、そこにあるものを目がとらえ、薄暗い影の中で唐突に、「字が見えにくいな」と思った。

今まで何の苦も無く、そこにある文章を熟読していたはずなのに、急に、薄闇に何が書いてあるのかが読めなくなった。

そして。

「おい、ミオ?」

と、突然ミカの言葉が背後から聞こえ、肩を叩かれて、今現実世界に意識を戻したばかりの身体は訳も分からず恐れおののき、飛び上がる。

「ひゃあ!」

「なっ?!」

甲高い悲鳴とその場を反射的に飛び退るミオの奇行に驚いたらしいミカの姿が見えた気がした。

それは一瞬の事。

驚いたあまり跳ね上がった心臓と、宙に放り出した書物とが、完全に繋がって。

(あ、ダメだ、本が)

咄嗟にそれを受け止めようとそちらに勢い飛び出しかけたのと、危ない、というミカの声が交差して、ミオは傍の梯子に顔面から突撃した。

(いっ、痛……)

そこに梯子があったことすら予測していなかった動きでぶつかったため、激しい衝撃にめまいがして額の痛みによろよろとうずくまる。手にした本がどうなったかも気にかけられない程、痛みがあって。

「大丈夫か?!顔か?顔からいったのか?」

「だ、だ、だ、だい、だいじょ、だい」

一人なら、いたーい、と泣き言も言えるが、心配して傍らに跪いてのぞき込んでくるミカの手前、そうも言っていられない。大丈夫です、と言いたいところだが、ぶつけたところに手を当ててひたすら耐える。

全力で耐えているとミカともう一人がミオの傍でばたばたと動き回っているのが感じられた。大変だ、何か大事になりそうだ。

「大丈夫、大丈夫ですっ、ぶつけただけですっ、ダイジョブ、です、から」

「いいから見せろ、どこだ?あ、額か?切れてないか?血は?」

矢継ぎ早に訊ね、うずくまるミオの肩を掴み起こして、怪我の様子を見ようとする。思わず、痛い、と声が漏れたかもしれない。

(ミ、ミカさん、荒い…)

手荒なのは姉で慣れている。慣れてはいるが、荒い気性の姉とは違って、今はただ動転しているだけのミカの様子が分かって、ミオはぶつけた額をかばったまま顔を上げた。

衝撃は去って、痛みも少しずつ和らいでいく。

「大丈夫です、ほんとに、ぶつけただけです、もー痛くないです」

心配するあまりミオより血の気が引いてるのではないか、というミカを見て、何とか笑う事ができた。

「大丈夫ですよ」

「……」

「私ったら、昔から粗忽で…、あ、何度もぶつけたりしてて、だからあの、このくらい、大丈夫です」

それでも疑わし気にミオを見るミカの表情は晴れない。だから前髪を上げて、ぶつけたところを見せた。

「ほら、たんこぶにもなってないですし」

そういえば、ミカが怪訝そうな顔をする。

「…タンコブって何だ」

「えっ、たんこぶ、たんこぶって、えーと、ぶつけて腫れたりする…」

ああ、と理解した風な一言で前触れもなくミカは、ミオの額に触れた。

「いったーいっ」

「えっ、お前もう痛くないとか言ったじゃねーか!」

「痛いですっ、触られたら痛いですよっ」

「じゃあ大丈夫じゃねーだろっ」

「大丈夫だったんですっ、痛いけどっ、アッ、痛いのは触られたからでっ」

と、そんなやり取りを見て、おもむろにその場を立ち上がったのがもう一人。

そうだ、もう一人いたんだ、とミオはミカとそちらへ顔を上げた。

立ち上がった人物は、手にした梯子を遠くの棚にかけなおして、冷やすものを持ってまいりましょう、と言って頭を下げ、その場を離れる。

それをただ見やっていると、悪かったな、とミカが言った。

「えっ」

「驚かせた」

「あ、それは」

「額だけか?他には、どこかぶつけてないか」

そう聞かれて、ちょっと考える。体のどこにもぶつかった感覚はない。そういえばあの時、後ろから引っ張られた気がする、と思い、ミカがとっさに助けようとしてくれていたのか、と顔を上げた。

「大丈夫です、他にはどこも」

「お前の大丈夫は信用できねえ」

そう言われて、何も言えなくなった。言ったミカさえも、気まずい思いを抱えているように押し黙る。

外では日が傾き、天窓から差し込む光も乏しい空間で、二人、この空気をどうしようと途方にくれたところへ、「戻りました」という控えめな声と共に部屋の灯りがついた。

執事のアドル―がこちらへと歩みより、「立てますか?」と聞いてくるのに頷いて、ミオは立ち上がった。少しよろめいたのはびっくりして座り込んだまま硬直していたせい。だから大丈夫、と言おうとしてミカの目が気になる。

言葉に詰まれば、ソファーへ座る様に促されて、大人しく従う。ミカもついてきた。

「ほかにぶつけた様子はないようですね。…額も」

と言ったアドル―が冷たいタオルを渡してくれ。

「額もその程度で済んだのは、ぶつかった梯子が外れたからでしょう。衝撃がそちらに逃げた」

その言葉にミカも、続いてミオもそちらを見た。

「これが壁か本棚だったら、たんこぶ、になっていたかもしれませんが」

その程度で済んで良かった、と言われて、思わずゴメンナサイと漏らしていた。

「私は、良かった話をしているのだから、お嬢様が謝られる事ではありませんよ」

父と同じ年ごろだろうか、上質なスーツをまとった執事は穏やかにそう告げるけれど。

「あっ、私っ、本、本を」

急にそれを思い出してソファーから立ち上がるのを、ミカが身構える。お前なあ、と苦々しく注意され、ゴメンナサイ、ともう一度ソファーに座る。いや、座ってる場合では。と目でそれを探せば、アドル―が床に落ちた本を拾い上げ、それを見分するように手の中で確かめ、こちらへ戻ってくる。

「これが?」

「私、本を投げてしまって」

あの騒ぎの中で無事で済んだとは思えないが、とそれを受け取れば、表紙の一部の革に引っかき傷ができていた。そして開いたまま自重でページが折り重なったようになり、紙がよれているのが解る。

やってしまった、と血の気が引く。何も言葉が出てこない。本当に謝らなくてはならない時に出てこない自分の「ごめんなさい」は、「大丈夫」と同じようにミカに信用されない軽い物なのかもしれないと思うからだ。それじゃ何にもならない。

「私っ、べ、弁償を」

と言いかけたミオの背後から伸びた手が、本を奪う。あ、とそれを目で追えば、ミカが本の傷を検めている。

「なんだ、こんなものか」

と言ってそれをミオにではなく、アドル―に手渡す。

「え?あの」

「あとは、彼の仕事だ。任せておけばいい」

ミカがそういえば、本を受け取ったアドル―が頷く。

「もちろん、私の仕事です。私の本分は、司書であるのですからね」

司書、という、どこかで聞いた言葉に気を取られて固まっていると、アドル―が続けた。

「これが故意や悪意によってつけられたものなら当然、そうした行為に対する罰則は受けていただきますが、これは不可抗力であるという事」

「お前を驚かせたのは俺だしな」

とミカも付け加える。

「不可抗力で書物が傷む事は想定済みです。そのために、私は務めておるのです。書物の補修は私の本分、お嬢様はただ私が仕事をしているのだと思ってくださればよろしい」

それは誇りある言葉だと思えた。

そこに他人の介入を許さない、彼だけの領域があるのが解って、何も言えなくなる。

「そして、若様にとってはこの本よりもよほどお嬢様の方が心配である事は明白です。私共では治すことが出来ませんから、お嬢様に傷が残ってしまってはどうにもお詫びでは済まされないでしょう」

だから、と続けられる。

「お嬢様はまずその傷を癒すことです」

と、ミオが手にしているタオルでちゃんと傷を冷やせ、という手ぶりをしてみせて、慌ててミオがそれに倣うと、アドル―がにこりと笑顔を見せた。

ではこちらはお預かりしていきます、と言うアドル―にミカが頷いて、彼はそのまま部屋を出ていく。

それで、ミカが隣のソファーに座った。

「ちょっと、見せてみろ」

と言われて、ミオはタオルを外して前髪を上げて見せた。

「は、腫れてますか?」

「いや、赤くなってるけどな」

今から腫れるかもしれないから冷やしとけ、と言うミカに頷く。

痛いかと聞かれ、触ると痛いけれど冷やしてる今はあまり感覚がない、と答えればそれで納得したらしいミカも、ソファーに背を預けた。

再び沈黙が訪れ、先ほどの気まずい思いがぶり返し、たまらず口を開く。

「ご」

ごめんなさい、と言おうとして、思いとどまる。

「…お騒がせしました」

そう言えば、意外にも、ミカが笑った。

「まったくだ。どうしてあんなことになったのか、わけがわからねえ」

「は、い、私もです」

ミカが言う、どうしてあんなことに、が、どこからどこまでを指しているのかは分からなかったが、この一連を通して謝りたいと思うのはミオの本心だ。

「あのう」

と、言いかけたものの、どれをとっても謝罪は不要だといわれるのは今までのやりとりの中で解っていた。

なんだ、と返事をするミカもソファーに身を預けたまま動こうともしない。恐らくミオの謝罪の嵐が始まる事は解りきっていて、その態度なのだ。

謝罪は必要ないという執事の言葉。

ミカは本よりもミオの事を心配しているのだから。

「ご心配をおかけしまして」

「だから冷やしとけ」

「…はい」

いや、素っ気ない返しにへこんでいる場合ではない。言いたいことがあるなら言え、といつも言うのがミカだ。では聞いてもらおうではないか。

「それがですねっ」

と、声を張り上げれば、驚いたようにミカもソファーから身を起こす。真正面から向き合うような体勢になって頭に血が上る。

「大丈夫なのは、心配かけさせたくないからなんですよっ?本当に大丈夫って言ってもぜんぜん大丈夫じゃなくても、ミカさんは心配するじゃないですか、だから、えっとだから大丈夫って言うのは」

信用できない、と言われてしまうのは悲しい。

信用できなくなるくらい、ミオを心配してくれるミカだから、余計に心配をかけたくないのだ。

「これからも大丈夫って言う、のは、言うと思う、んですけど、それは大丈夫なので、心配して欲しい時にはちゃんと心配して欲しいですって言う事にするので」

「……」

「私が大丈夫、って言ったら、…安心して下さい」

信用しなくてもいいから安心して欲しい、というところに落ち着いて、あれ?なんか違うかな?という気がしてくる。

ミカからも何やら複雑そうな面持ちしか返ってこない。

「…えっとー、解ります、か」

いや無理だろう、と自問自答していると。

「解った」

とミカから返ってきて驚く。

「えっ」

「えっ、ってなんだよ、俺が解ったらオカシイのかよ」

「いえ、おかしいとかじゃなく」

「お前の言いたい事はわかった。俺も、過剰に心配するのをやめる」

「…は、い」

「昔とは違うってことだろ」

そう言われて、気持ちが明るくなった。

「はいっ」

そうか、自分はそういう事が言いたかったのか、という思いで胸がいっぱいになる。

何もできなかった昔。皆についていくだけで精一杯で足手まといにならないようにするだけで必死でとにかく大丈夫でいなくてはならなかったあの頃とは違う。

それをうまく説明できなくても、汲み取ってくれるミカがいる。

ミカもまた、あの頃とは違う視点と思考があるのだ、とやっと解ったような気がした。

「わ、解り合えるって素晴らしいですねっ」

気分が高揚して、何か言わなくては、と思って口にしたことだが。 

ミカは全くの平常心で返してきた。

「いや、別に解りあえたとは思っていないが」

「ええっ?」

「お前がそうしろ、って言うから」

 そう言われてしまっては何も言えない。そうか、これは解り合えたわけじゃないのか。じゃあ何をどうすれば解り合えたというのか、それをミカに突っ込んでいくのは自分では足りないような気がする。と、ミオが反応に困っているところへ、再び、アドル―が姿を見せた。

もうお帰りになられるという事とですが、と前置きして、ミカを見、ミオを見る。

「お茶のご用意をいたしますので中庭の方へお越しいただければと思ったのですが」

ミカの意志を尊重しつつ、今の騒動で二人が動揺しているだろう事、加えて到着時のミオの様子から察し帰りの馬車に乗るにも気をほぐしてからの方がいいのではないかと判断した事、等をアドル―に提案されてミカがミオを見る。

どうする?と問うてくる事に、ミオは二つのことが頭をよぎった。

父は、来客に必ず茶を振る舞う。そして、ミオもそうされたら有難くいただきなさいね、と言っていた事。

持て成す側は相手が喜んでくれることを願ってそうするのだから、持て成しに対する何よりのお礼はまず有難くいただく事だ、と小さい頃から聞かされていたのだ。

アドル―の細やかな気遣いを有難いと思い、それを伝えるにはやはりお茶をいただくのが良いだろう。

先ほどの騒動に対して「謝辞は必要ではない」という彼に、今日一日分のミオなりの思いを伝えるにはここしかないと思った。

「あの、お作法とか、よく解らないですけど、有難くいただきたいと思います」

 ウイやヒロがいればすべて任せておけば良い事も、今はそうではない。一人でどこまでやれるかは分からなかったが、勇気を振り絞るしかない。

そんなミオの面持ちを見て、アドル―は何もかも察したような笑顔を見せた。

「お嬢様の為の時間です。堅苦しいお作法など気にせず、お好きにくつろいでいただければ良いのです」

そう言ったアドル―に中庭まで案内され。

お茶と甘いお菓子が用意されたテーブルの前で「少々お待ちを」と言われ、二人で、彼が椅子を対面ではなく横並びに移動させるのを待った。

どうぞ、と促されるまま、ミオが席に着く。次いで主を椅子へと促すアドル―に「これは?」と、その意図を問うミカ。

ミカにとっても珍しいことなのか、とミオもアドル―を見る。

アドル―は、生徒に理解させる教師の様にミカに向き直った。

「どのようなお嬢様であっても、完璧な殿方の正面に向き合わされるのは非常に緊張を強いられる事でしょう。若様もこれからあらゆるお嬢様を持て成される時にはどうぞ、隣に寄り添う、という選択肢もあるという事を覚えておかれるとよろしいかと存じまして」

なるほど、と短くミカが返事をすれば、それ以上は何も言わず簡単な給仕を終えて、ではごゆっくりどうぞ、とアドル―が頭を下げる。慌ててミオも頭を下げると、執事は柔らかく微笑んでその場を離れた。

隣に寄り添うように、とアドル―に勧められたまま、ミオはミカと二人きりで中庭で過ごすことになったけれど。

この席の配置だと、隣に座るミカが視界にいない。ミカの様子を伺おうとすれば、自分で動くしかない。

「えっと」

と、恐る恐る横を見れば、ミカはもう紅茶のカップに手をのばしくつろいでいた。

ミカはこの状況が全く気にならないようだ。

「なんだ?」

「いえ」

じゃあ自分も、と紅茶のカップを見て、テーブルを見て、あることに気づく。

「…あの、ミカさんはお茶にお砂糖入れないんですね」

とミカを見れば、何をいまさら、というようにミカもミオを見る。

甘い物が嫌いだ、というミカの事はもう良く解っている。そうではなくて、と慌てて付け加える。

「ミカさんのお家では、皆さんそうなのかな、って思って」

「…紅茶は熱と香りを楽しむものだろ。そこにミルク入れたり砂糖入れたりして香りを台無しにしてる事の意味が解らないな」

「あ、香り…、お茶って香りを楽しむものだったんですかっ」

「はあ?じゃあお前何の為に紅茶飲んでんだよ?」

「あ、お茶は甘くておいしいな、って」

「甘いなら、それこそ菓子で十分だろ」

というミカの言葉に、テーブルに用意されたお菓子の皿を見る。可愛らしい見た目の菓子は、クリームや蜂蜜、糖衣やチョコレートがふんだんに使われていて、どれもこれも甘くて美味しそうなのは一目瞭然。

それらとミカの言葉で、ミオはようやく、こちらでは甘いお菓子を味わい、その甘さでお茶を飲むのだ、と気づいた。

 「ああっ、だからこっちのお菓子ってみんなすごく甘いんですねっ」

と言えばミカにまた、何を言ってるんだ、という目で見られる。

「あの、私の村のお菓子はみんな焼き菓子で、生菓子とかこっちに来て初めてだったので」

ヒロやウイと一緒に行動するようになって初めて、甘くて美味しい生菓子を食べたくらいだ。

 それはとても感動したのだけれど。

「私の村では、おやつには甘いお茶とちょっと塩味の効いたビスケットやクッキーです」

お客様が来た時はケーキを焼いたりもするけど、木の実や果物を入れるくらいで甘さはそんなに重視しない。

「昔は、下の村は職人さんが多かったので、お昼ご飯がなくて、代わりに10時と2時におやつ」

甘いお茶で疲労回復、塩分の菓子でやる気の補充。

その名残だ。

「ああ、だからお前紅茶に砂糖入れるのか」

「はい、それが当たり前だと思ってまして」

と、そんな話をしていて、ミカに「じゃあ砂糖を用意させるか」と言われて、慌てて首を振る。

「いえっ、せっかくなので、ちゃんと香りを楽しむ飲み方を覚えたいですっ」

「…そういうものか」

そうだ。今までお茶の香りなんて気にしなかった。言われてみれば、このお茶はいい香りがする。

そう言えば、俺の一番好きな茶葉だ、とミカが言った。

「一番…」

「お前たちと会う前は、一人になりたい時によくここに来ていた。だからここではこの茶が出る」

他の香りが知りたいなら色々選んで買ってみるのが良い、と言われて感心する。

そして、一人になりたい時、という言葉に、あの執事の姿を思い浮かべた。

今の状況から考えても、お屋敷にいる人たちよりはミカを自由にさせてくれる人なのだ、と思える。

ミカに対する態度もだが、ミオに接してくれる態度もずいぶんと柔らかい。

そして場面場面で戸惑うミオに、今どう振る舞うのが良いのか、という事を示してくれていた気がする。 

あの部屋でミカと二人気まずい思いを抱えて途方に暮れたことを思えば、今、隣どうしで他愛ないお喋りをしながらお茶を飲んでいる時間はとても穏やかだ。

こんな時間を用意してくれた事が有難い。

たくさんの感謝を、言葉では伝えきれない心を、どうすれば彼に伝えられるだろう。

「今日は、本当にお世話になりました。有難うございました」

帰り際。

迎えの馬車の前まで見送りに出てくれたアドル―にありきたりの言葉でしか挨拶できないのがもどかしい。

「お茶もごちそうさまでした。お菓子もとっても美味しかったです」

それからそれから、と伝えなければならない事は思いばかりが溢れてくるけれど。

それは良うございました、と言ったアドル―が馬車へと二人を促す。

そして。

「またお越しください。我らは、主の大切なお客様へ最上の居心地を提供することが務めです。お嬢様に、再び訪れたいと思って頂けたならそれこそが至福でありますし、実際訪れていただいたならそれこそが何よりもの褒賞でございますので」

そう言ったアドルーには、ミオの考えていることは見通されているような気がした。

おもてなしを受けなさいと父から教わったように、彼からも、貴人の客としての返礼の仕方を教わっているのかもしれない。

「はい、ぜひ、その機会に恵まれたいと思いますっ」

そういえば、アドル―は一瞬、笑いたいような顔を伏せて、お待ちしております、と頭を下げた。

しまった。また動揺して変な事を口走ってしまった。恥ずかしくて顔が上げられないでいると、もういいから乗れ、とミカに強引に馬車に連れ込まれた。

(スミマセン、なんかもう本当にすみませんでしたー!!)

慣れない馬車の中で自己嫌悪に苛まれながら、窓の向こうに遠くなる屋敷が夕日で陰になりつつあった。

次に訪れる時には、もっと彼に認められるような振る舞いが出来るようになっていたいと切実に思う。

思いながら、これがヒロの言っていた事なのかとようやく理解できた。

皆といる時には解らなかったこと、誰かの陰に隠れていれば目立たなかった思い。

ミカの隣に並んで立って、それを相応しいと誰もに認められる人間になるという目標は、今なら痛いほど解る。

(だから、…それが解っただけでも、一人で来て良かった)

良かったと思おう。

たくさん迷惑をかけて、たくさん心配させて、たくさんお世話になったけれど。

解ったことが、たくさんある。

「お前、こっち座れ」

と、馬車の中で強引にミカの隣に座らされ、行きとは違う緊張感に身を固くしながらひたすら到着までの時間を耐え忍ぶ。

(ミカさん…あれは、外のお庭で別々の椅子だったから良かったのであって、ですね…)

と言いたくても言えない。

狭い馬車の密着した座席でがたごとと揺られながらミオは身をもって解らされている。

ミカは本当に言われた事は忠実にやらないと気が済まない人間だということを。

寄り添う隣、ミカの隣で優雅にふるまえるのはまだまだ遠い先の事だと思い知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカのマニュアル人間ぶりったらもう


にほんブログ村


となりあう景色(往)

2018年04月17日 | ツアーズ SS

城下町の中心部から東の方へと馬車は走る。

(馬車は、苦手)

これから向かう場所の格式を思えば、苦手だなんだと言って避けられるものでもないことは十分わかっているが。

通常なら徒歩で苦もなくたどり着けるはずの場所へも、名を伏せ、姿を隠して移動するという事そのものに馴染めない。

そして、もう一つ。4人乗りの馬車、その密室で二人きりになるという状況が。

「そんなに外の景色が面白いか」

いきなり声をかけられて、ミオは、自分の心臓が跳ねあがったような気がした。

「はっ、はいっ!歩いてるのと違って、街の見え方が全然違ってて、とても面白いですねっ」

「…ふうん」

そう言ったっきり、会話は途切れた。

ふたたび馬車内に無言の重圧が押し寄せてくる。

馬車に乗り込んだ初っ端からその圧力に耐えかね、馬車の窓にかじりつくように外を見続けることでやり過ごしていたが。

ミオは、そっと、対角に座る同乗者の様子を盗み見た。

手には何かの書類をいくつか比べるように広げているミカが、何気なく窓の外を見ている。

普段、仲間と行動を共にする時と違い、高級な衣服を身に着けているミカは別人のようで少々近寄りがたい。

(それも、馴染めない)

と思っていると、不意に飽きたように窓から視線を外したミカと目があってしまった。

ミカは滅多には無駄口をたたかない。ウイやヒロとは違って、こんな時「何か行動を起こさなければ!」という自責に捕らわれるのも、そのせいだと解っている。前に「俺にそういう行動を求めるな」とミカが言っていた事も、「俺もお前に求めない」と言ってもらえたことも、解っているのだが。

「お、面白い、ですよね」

解っていることと、それが出来ることは違うのだと思う。

つい余計な口をきいてしまい、「いや、特に」とミカに無感動に返されては、ですよねー、と場を盛り上げることもなく再び窓に張り付いて外に意識を向けるしかない。

馬車から見る町の様子が新鮮なのは本当だが、ミオの真意はそこにないのだから仕方がない。ただ会話のない空間で「そりゃ会話がなくても仕方ないよね」とはた目から見えるような状況に身を置くことで時間をやり過ごしているだけなのだ。

自分の意味のない行動に呆れられただろうか、と後悔していると、「俺は慣れてる」と、短い一言が付け加えられた。

もう一度ミカに視線を戻せば、彼はもう手元の書類に視線を戻していた。

(俺は慣れてる。ええと、慣れてる、から。馬車に慣れてるから窓から外を見ても特に面白いことはない、って事)

それを言いたかったミカの心境は?と考えていると。

見られていることに気づいたミカが、顔を上げた。

「なんだよ?」

「え?」

「お前、外見てるの面白いんだろ。そんなガッツリ張り付くくらい」

邪魔して悪かったな、と言ったミカが、好きなだけ外を見ろとでも言うように景色を指さす。

「はい」

「うん」

それだけ。たったそれだけの会話で、ミカは気を遣ってくれたのか、と思う。

そうなんですかと聞くのもおかしい。

おかしいけれど、そんな風にミカという人間を捉えられるようになった。

きっと、この馬車からの景色に慣れるくらいミカの家を行き来すれば、雅なふるまいをするミカにも馴染んでしまうだろう。

 

 

 

 

行きの馬車で、そんなことを軽く考えていた自分を恥じる。

(馴染むとか、馴染むとか、そんなの無理、無茶、無謀!)

到着した別邸は、ちょっとしたお屋敷だ。

納屋どころか、ミオの家より広い。下手すれば前庭にミオの実家がさっくり建ってしまいそうだ。

ミカが「ちょっと別邸に顔を出してくるけど、お前も来るか」と、何気なく訊ねてきたそれを真に受けた。

以前招かれた侯爵家の屋敷ではなく城下町にある自分専用の小さな家だ、と説明されて、なんとなく城下町にある家々を想像していたのだが規模が違った。

使用人も家の管理をしているのが一人二人…、という話ではなかったか。

到着早々、執事のアドルーとメイド二人に深々と頭を下げられ、挨拶もしどろもどろに、普通に友人の家に遊びに行った時のような挨拶をしてしまった。

以前侯爵家の屋敷に行ったときに教わったはずの社交的振る舞い、あれはドレスと共に脱ぎ捨ててどこに放り出してしまったのやら。

(やっぱり私は一人で立派にできない子でした!!)

あまり家に帰りたがらない様子のミカが、珍しく家に帰る…それも友人を伴って、という稀にない行動をとったものだから尻込みしていたらせっかくのミカの気が削がれてしまうやも、というそれだけで勢いついてきたのだが良かったのか悪かったのか…

やっぱりウイやヒロがいる時にすれば良かった、そう考えた時。

「おい、大丈夫か」

と、ミカに声をかけられて飛び上がりそうになる。

執事と短いやりとりをしていたミカがいつの間にか、ロビーで待っていたミオの傍に戻っていた。

「うわっ、はいっ、大丈夫、正気です!」

「いや待て、正気を失うほどかよ」

そんなに馬車辛かったか?前よりは短かっただろ、と見当違いの心配をされて、なんと答えようかと戸惑う。

「い、いえ本当に大丈夫ですので」

そう返していると、ミカの後から様子をうかがっていた執事のアドル―が穏やかに訪ねてくる。

「お嬢様は、どこか具合でも」

いえ私はお嬢様ではゴザイマセンし具合も悪くゴザイマセンですし何か失礼をしてしまいそうで倒れそうなだけです、とは言えず知らず後退ったのをミカに支えられた。

「あ」

「大丈夫だ、乗り慣れない馬車から降りて少し強張ってるだけだ」

な?と言われてただただ頷く。

では、と言いかける執事にミカが続ける。

「初めての対人には異様に緊張するからあまり構わないでやってくれ」

「さようでございましたか」

では私共は奥で控えておりましょう、と礼を取る執事に軽く「ウン」とうなずいたミカが、こっちだ、とミオを招く。

あのミカが庇ってくれたのは非常に珍しく、それは嬉しいことであるのだが。

子供でもないのに人見知りで、一人前の振る舞いをすることも出来ない人間、として見られるのは恥ずかしすぎた。

(今までそんな事思ったこともなかったのに)

ロビーから続く廊下へ進むミカに続いてその場を離れることに、何もできずただ執事に頭を下げていた。

返す彼のお辞儀は優雅な威厳があった。

「そんなに緊張しなくていいぞ。侯爵家の屋敷と違って、街なかにあるんだ。街の住人とも普段交流がある。特別お前の振る舞いをオカシイなんて思わないから普通にしてろ」

そういう場所だから連れてきたんだ、とミオに話しかけるミカが部屋の番号と手元の用紙を見比べながら廊下を進む。

「は、はあ」

それでも磨かれた壁や天井は荘厳な装飾がほどこされ、床には柔らかな毛並みの絨毯が敷かれている。明らかに別世界だ。

(あ、そっかー、宿からずっと歩いてここまで来てたら靴の泥で絨毯が汚れちゃうんだ)

近距離の馬車の意味を知る。そして今日の為におろした靴と訪問着で来て良かった、と何気なく思う。

「ここだな」

廊下の一番奥の部屋に入るミカに続いて、中に入る。

その円形の部屋には、重厚な本棚が一面に備え付けられ天窓から入る柔らかな光に磨かれた木の艶が存在感を放っていた。

中央に背丈ほどの地球儀と月球儀、その周りにソファーを置いて、この部屋は完成されていた。

気圧されたたずむミオを中に入れてミカが扉を閉める。

「ここに産業の資料が集められている、衣服関係は、…この棚だな」

手にした用紙を見て、このあたりだ、と本棚を示すミカについて、ミオもその本棚の前へ近寄った。

「好きに読めばいい。気になる本があるなら貸してやるから」

「え、ええー、でも」

本棚に並べられた本は、どれも高級そうだ。

気軽にミオがお小遣いで買える本とはまるで違うのは、手に取るまでもなく解る。

「なんだ?」

「お、恐れ多いというか」

「はあ?」

「き、綺麗すぎて」

ミカが本棚を見て。

「汚しちゃいそうで」

そう言ったミオを見る。

訪問着の一式として手袋はしているけれど、手袋をしたまま本をめくってはページもよれてしまうだろう。そんな躊躇いを口にしていると、ミカは目の前の棚から無造作に一冊を選んで、引き出した。

金箔が施された本だろうか。きらきらと光り、それに見惚れているとミカが軽く掌を返し、本の中から本を取り出して見せる。それで、金箔が施されているのは、ケースカバーなのだと気づいた。本そのものには、細密な刺繍が見える。それも一瞬。

「本とは、読まれるためにある。書き手は多く読んで欲しくて書くのだろうし、作り手は多く手に取ってもらいたくて飾り立てるんだろう」

ミカがケースを棚にしまい、本を広げ適当にページをめくる。さらりさらりと紙が立てる音さえも、心地よい。

「たとえ一切の汚れもなく傷もつかず宝石のように美しいままであっても誰にも読まれず手にさえも取られず暗い部屋に仕舞い込まれていることのほうが本にとっては不幸だと思うが」

そう言ったミカがその本を広げたままミオに差し出してくる。どんな感情も見せない、有無を言わせぬ気迫。時折ミカが見せるそうした気迫の前にはただただすくみあがるしかない。ミオは訳も分からず圧倒されるまま、差し出された本を両手で受け取った。

思っていたより、重い。

「宝石や美術品と同じに考える必要はない」

そう言われて顔を上げると、ミカが手を伸ばしてページをめくって見せた。

「これが高級だと思うなら、それは正しい。多くの手に読まれることを想定して、それに耐えうる上質な紙が使われる。多くの時間にさらされる事を想定して高級なインクが使われる。装丁や装飾の技術も同じだ。それは上流社会が本という遺産を守るためにとる手段だ。後世に伝えていかなければという意味での投資なんだ」

「後世、に?」

「何十年、何百年と読み続けられても耐えられるように、作られている。すなわち、何百年の後にまで読み継がれて欲しいという願いの象徴がこの装丁であり、この書き手の本意だ」

「本意」

「というのが、教師の教えだ」

と付け加えたミカは、再び本棚に手を伸ばす。

もう先ほどの気圧されるような空気はどこかへと散ったように見えた。

「俺もそう思う。実際町で気まぐれに手に入れる本には粗悪な造りの物も多いが、それが流行ものでなく保護するに値すると思えば持ち帰ったりもするな」

専門家に判断を仰ぎ作り直しを依頼したりな、と言ったミカが、これはそうさせた本だ、と新たな本をミオに差し出す。

持っていた本を手渡しそれを受け取る。

「それはうちの司書が作り直した本だ。お前が買ってきた刺繍の図録、あれも今判断させてる。不要なら戻ってくるから、そうしたらお前にやるよ」

「えっ、そんなっ?…え?」

次から次へと語られる情報量が多すぎて、ミオの頭の中で処理できない。何に驚き、何に戸惑っているのか、自分でもわからなかったが、ミカは気にするな、と言った。

「ヒロにもそうしてる。…まあ、あれだな、書籍の収集を手伝わせている事への報酬みたいなものだな」

「はー…」

しばし頭の中で整理する時間が欲しい。何をどう考えようかとすればめまいのようなものに襲われ。一番新しい情報に我に返った。

「あ、だからミカさんは、私たちに本を買ってきて欲しいって言う…」

言う、それが。

「ああっ!私、絵本とか買ってきちゃって…!!」

唐突に、以前ミカに頼まれた「本を買ってきてくれ」という使命がただ事ではなかったことを実感した。

後世に残す本を探しているというミカの希望には添わない。ただ皆で楽しめたらいいなという思いで選んだ本なのだ。

あれについてはミカはどう思っているのか聞くのも怖いが。

ミカはあっさりと口を開く。

「いや、絵本も侮れない。描かれた宗教的価値観や風習を読み解いていくと思わぬ思想に行きついたりするかもしれない」

「ええー…そ、そう?ですか?」

「と、あの本で気づいたところだ。お前の選別もなかなかない点を突いてくる」

あれ?誉められたかな?と思っていると、そういうわけだから、とミカが本をケースにしまい、本棚にしまった。

「ここにある本が綺麗すぎて汚れていないのはまださほど読まれていない、というだけだ。どうせこれから何百年と読み継がれて廃れていくんだ、今お前が読もうと読まなかろうと一緒だ」

「はあ」

「好きにしろ」

「はあ」

「それに、ここにあるのは俺個人の所有物だ。侯爵家として保存していくべき書物は屋敷の方で別にある。そっちは俺でも気軽に持ち出したりできないからな」

「本を、…ミカさんが個人的に集めるための別邸、って」

「うん」

「候…、侯爵家とは関係なく?」

 なぜか、ミカがわざわざ家の財産とは別に本を収集している、という話が気になって意識を集中させる。ミカは何げなく言った事のようだが、ミオの意識にひっかかった。

そのミオの不可解そうな反応に、ミカもしばし黙り込んだ。

自分で自分の話した内容をミオに指摘されて吟味している様子に、ミオもただその先を待つ。

「昔、高貴なるものの責務、という授業があって」

と、話し出したミカは、記憶の中を探る様に、視線を天窓へ向けた。

窓から落ちてくる光に、風に木々の葉を揺らめかせた影が交差する。光と影、今と昔。

「模擬実験として、社会貢献を成せ、という課題が出た」

「はあ」

「俺は、領民に書庫を開放する、という題目で教授に論議を持ち掛けた」

と言ったミカが、ミオに視線を戻す。

「お前も今、ここの本は高価だって言っただろ。ヒロの弟にしたって能力はあるのに本を買う余裕がなくて、学校にも縁がない。そういった層、日々の生活だけでゆとりもない層に向けて書庫の本を貸し出す。学識を得ることで能力のあるものがそれなりの地位を目指すことが出来る。社会全体の良識の底上げにもなる。その為に、各地に書庫を造る」

お前の村にも一軒、ヒロの村にも一軒、と言われてミオはやっとミカの言いたいことを理解した。

読みたい本がある。高価で手が出ない本、裁縫の本、世界の被服の本、それが村にあって、貸してもらう事ができる。父は喜ぶだろう。本を買いに遠くまで出かけなくても村に読みたいだけの本があって、いつでも借りることができるなら。

「すごいっ、それはすごく、素敵ですねっ」

「うん、それを形にするために教授と論議して、ある程度まで煮詰めて、どうしても越せない壁に突き当たった」

「え?」

「犯罪をどう防ぐか、って所だな」

領民に本を貸し出す、それはミオやヒロに貸すのとはわけが違う、とミカが言う。

「本を持ち逃げする、あるいは転売する、そういう犯罪行為にどう対処するかと問われて俺は決定的な答えが出せなかった」

当時のやり取りを思い出しながらの語りは淡々としたものだったが、本棚に背を預けて両腕を組んでいるミカの心境はいかばかりか。

視線は宙に定まっているけれど、ミカは恐らく昔の自分を見ている。それには容易く相槌を打つこともできない。

「あとは管理費や修繕費、人件費、それをどう賄っていくかという点と、継続して運営していく展望でも、性善説に頼り過ぎていて見通しが甘いと言われたんだったかな」

「……」

「結局、論議を詰めることができず方向を転換させられた。学校や教会、専門機関に、本を“寄贈する”というところに決着して、満点をもらったわけだ」

満点をもらった、というのはミカにとって皮肉な結果なのだろう。

昔の授業を語り終えたミカは、自嘲気味に笑って見せた。

「え、えーと…」

何かを言いたくて、でもミオにとってはあまりに厳しい話すぎて、どう反応すればいいかわからなくて口ごもると、そうだな、とミカがミオを見た。

「俺はまだそれを諦めきれなくて、何とかやってやれないか、って企んでいる」

そう言って、もたれかかっていた姿勢を正し、背後の本棚に手をかけた。

「という事だろうな」

「…あ、だから、それで、ここに本を」

「うん、本を集めるばかりで先に進めなかったが…、今はお前らがいるんだったな」

何とかなりそうだ、というミカは、もう過去からすっかり自分を切り離したように見える。

「は、はいっ、何とかしましょう!」

厳しい影がどこかへ消え、いつものミカの雰囲気に戻ったことに安堵して、ミオは咄嗟に同調したが。

「大体、満点をつけるために方向を転換させられたことが納得いかねえ」

と、再び目が据わるミカをみて困窮する。

「は、はあ」

「ダメならダメで、低い点つけりゃーいいだけの話じゃねーかよ」

本来の題目で何点もらえていたかが解らないだけに良策なのか愚策なのかがわかんねーじゃねえかよ、と言うミカが、なあ?!と同意を求めるのにもただ頷いて。

(これはいつものミカさんだ…)

と、嬉しくなる。

どちらのミカちゃんも本当のミカちゃんなんだよ、と、以前ウイは言っていたが。

貴族社会にいるミカと、自分たちの仲間でいる時のミカと。

(こっちのミカさんの方が、安心する)

貴族社会に身を置いているミカの姿は、常に何かを警戒しているかのようで落ち着かない。厳しく余裕がないようにも見えて、心配になるのだ。

それが。

「大体、あの教授も教授で、防犯に関する模範解答を出せなかったから論議がそれ以上進まなかったんじゃねえか」

今ならすげーわかるぜ、と独り言ちているミカに可笑しくなる。

ならその模範解答を出せたら満点ですね、と言おうとして、ミカの為に言葉を選ぶ。

「だったら、私たちが書庫を開放できたら、ミカさんの勝ちですねっ」

思った通り、それはミカの心に響いたようだ。

授業は勝ち負けで測るものではないのだろうけど、単純に勝負で勝つことに闘志を燃やすミカにとっては、勝ち判定で単純明快に過去が覆ることだろう。

「そうだな、勝てばいいんだよ勝てば」

「はいっ」

「じゃあ、まずは防犯学の定義を固める所からか、いや犯罪学が先か」

と、その場から颯爽と歩きだしたミカが、脚を止めてミオを振り返る。

「俺、別の部屋に行くけど、お前どうする?」

そう聞かれて、ミオは自分にできることを考える。

ミカが書庫を開放するために学ぶことは多いのだろう。それは自分には想像もできないほど高い学識が必要な事に違いない。そこには居場所はないと思う。

「わ、私は、えーと、ここで好きにしてます」

せっかくミカが連れてきてくれた場所だ。裁縫の本が好きなら、と連れてきてくれたのだから。

「ここで本を見て、本を借りる人になります」

書庫を開放するというミカと、解放された書庫を利用するミオと。

二つの光景は合わさって一つの景色を作り上げる。どちらが描けてもどちらかが描けないなら、展望とは言えない。

解った、と言ったミカが、ちょっと来い、と手招くので扉の前まで移動すると。

扉の横に掛けられている見取り図を指される。

「今いる部屋がここな、で、俺は2階のここにいる。何かあれば呼びに来いよ」

部屋から出て、ロビー、トイレ、階段、と辿って二階の部屋を指す。執事とメイドはここにいる、とロビーの奥を示されて頷く。

大丈夫、旅の間に地図の見方はしっかりと習った。初めての建物でも、地図を頭に入れて行動できる。

そう言えば、ミカも、そうだな、と頷いた。

「じゃあ、俺の方は用事が済んだら戻ってくる」

はい、と返事をすると、扉を開けたミカに、「閉めるか?」と聞かれて。

「あ、開けておいて下さいっ」

と答えれば、誰も来ないけどな、と笑われた。

(それはちょっとどうかと思う、な)

ミカの言う「誰も来ないように言ってある」は、侯爵家の人たちに通用しないのは学習済み。

だったら扉が開いている方が、気持ち的に楽だ。

そのまま部屋を出ていったミカをちょっと見送ってから、ミオはずっと手に持っていた本をソファーの傍の小机に置いて、帽子と鞄を置いた。手袋を外して、おもむろに部屋を一周する。

(これも旅の間で習ったこと)

初めての場所は、周囲の安全確保と逃走経路の確認、自分以外の存在を把握してから、ようやく自分もその場の一つになる。

全ての本棚を見て回って、「衣服はここだ」とミカが言っていた棚の前に立つ。

(豪華な装丁は、手に取ってもらう為の物)

そっと引き出し、両手で化粧ケースから本を出す。革の手触りはしっとりと馴染んだ。

(高級な素材は、読んでもらう為の物)

ページをめくれば、目に入る文字と初めて空気に触れるかのような紙の重みが、柔らかく感じられる。

緊張していたのも最初だけ、ページをめくる毎にミオはその本質に夢中になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続きます


にほんブログ村


お招き完

2018年04月12日 | 天使ツアーズの章(結束)

 

 

 

 

 

 

 

            

描くつもりはなかった、ミオの「ミカさんのおうちに行ってきました」漫画

初めてのおつかいの後の話は、4コマで描くつもりは本当に本当になかったんですが、

あ、ミオの訪問着描きたい、と思って訪問着ネタだけ描いてしまったあと

ここでぶつ切りにしたら、訪問着着た意味がないわ!という気になって

致し方なく、ミオにはミカの別邸まで行ってもらいました

 

しまったイラストでちゃらっと描くだけにしとけばよかった…

 

と今頃気づいて後悔してるのは

まず、執事さんが描けない!!

イメージは50代くらいの気難しそうな執事さんなんですが、私に描けるわけがない!

自分で描いといてなんなのですが、あんなんじゃないことだけは確かなので

なんかこう、イイ感じの50代くらいのイギリス紳士をお好きにイメージしてください

 

それから、ミカの別邸が描けない

別邸は城下にあって、城勤めをしてる時に本宅まで帰るのめんどい時用のお泊り別館です

イメージとしては、ミカの個人的文庫としての建物なので内部は図書館

これがまた描けない

イメージはがっちりあるんですが、あるだけで描けないので、世界の図書館で画像検索してみてください

うひゃあ、うひょう、ひゃっはー!ってなって1時間とかあっという間に過ぎますのでご注意

まあその中でもレトロで高級な感じの書斎っぽいのを想像してやってください

 

あとは庭が描けない

庭はまあ、世界の庭園、洋風庭園、とかでざっくり画像検索していただければよろしいかと

(これも1時間2時間平気でぶっとぶのでご注意を)

個人的にはイギリス庭園をイメージしてましたがうまくまとまりませんでした

あまり広くはない、使い勝手のいい館、って感じです

(東京の赤坂離宮でもいいです)

 

正直、ネットの画像コピペしたくてたまらない1コマ目と2コマ目

…図書館と庭園です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

描けないものが多すぎる


にほんブログ村


お招き3

2018年04月07日 | 天使ツアーズの章(結束)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            

補足

以前、皆でミカのお屋敷に遊びに行ったときの事

ミカに「訪問着持ってるか」と聞かれて、訪問着ってなんじゃらほい?!ってなった体験を

ミオはミオ父に相談していました

 

そしてそのことを相談された父は

父として末娘が訪問着を必要とするほど成長したことが嬉しかったのと

(上の娘三人は冒険者として暴れ回っているので訪問着とかいうかしこまった服に縁がない)

若かりし頃、裁縫職人として貴族の御用達に選ばれるよう野望を抱いていた過去があるのとで

ここぞとばかりに張り切ってミオの訪問着を作成して送りつけてきておりました

 

これでミカの合格がもらえればウイとヒロの訪問着も作ってもらおうと思っていたミオです

友人として招かれて恥ずかしくない訪問着、のつもりで作って貰った服なので

お屋敷に出入りする御用達さんみたいって言われたよー、って報告していいものかどうか

悩んでおります

 

ミカ的には、屋敷に出入りする御用達=一般階級の上等、なので、まあ良いんじゃね?

という感じです

友人=貴族階級、としてだったら、その服じゃちょっとな、って感じでしょうか

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロならまず「その服可愛いね」「似合ってるね」って誉める


にほんブログ村


お招き1

2018年04月04日 | 天使ツアーズの章(結束)

 

 

 

 

 

 

 

 

             

先の4コマの「本屋さんにお使い編」とSSの「ミカの私邸訪問編」

これを作った時は、「本屋」から1~2か月くらい経った後に「私邸」へ行くイメージだったので

ちょっとここで4コマとssの時間軸を繋げるための小細工4コマ入れておきます

この小細工が良いか悪いか、今の時点では何とも言えないのが辛い所…

 

 

 

 

 

 

 

まあお気楽にいこうよ


にほんブログ村


天使御一行様

 

愁(ウレイ)
…愛称はウイ

天界から落っこちた、元ウォルロ村の守護天使。
旅の目的は、天界の救出でも女神の果実集めでもなく
ただひたすら!お師匠様探し!

魔法使い
得意技は
バックダンサー呼び

 

緋色(ヒイロ)
…愛称はヒロ

身一つで放浪する、善人の皮を2枚かぶった金の亡者。
究極に節約し、どんな小銭も見逃さない筋金入りの貧乏。
旅の目的は、腕試しでも名声上げでもなく、金稼ぎ。

武闘家
得意技は
ゴッドスマッシュ

 

三日月
(ミカヅキ)
…愛称はミカ

金持ちの道楽で、優雅に各地を放浪するおぼっちゃま。
各方面で人間関係を破綻させる俺様ぶりに半勘当状態。
旅の目的は、冒険でも宝の地図でもなく、人格修行。

戦士
得意技は
ギガスラッシュ

 

美桜(ミオウ)
…愛称はミオ

冒険者とは最も遠い生態でありながら、無謀に放浪。
臆病・内向・繊細、の3拍子揃った取扱注意物件。
旅の目的は、観光でも自分探しでもなく、まず世間慣れ。

僧侶
得意技は
オオカミアタック