Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

トリミングされた世界

2008-10-16 12:34:15 | 農村環境
 「分離を助長するお役所」において観光パンフレットの作り方にしても摩訶不思議な枠にとらわれているということについて触れた。同じく最近作られたパンフレットを検証してみる。「長野県上伊那地域総合ガイドブック」というもので明確に発行元が表示されているわけではないが、「お問い合わせ」欄のトップに「上伊那観光連盟(上伊那広域連合)」とあるから、そこが発行元なのだろうか。それに続いて辰野町役場産業振興課など市町村の観光行政担当部署の名前が並ぶ。ようは連帯責任みたいに感じるが、果たして発行元はいかに・・・。

 さてその最新版パンフレットの表紙は南駒ケ岳をバックに茅葺屋根の家と稲が植えられたばかりの田んぼで植え直しをしているおばさんが写っている。写真コンテストや写真集にも掲載されることがある風景だから、知っている人は知っているという撮影ポイントである。しかし、その写真の場所は、パンフレットのどこにも表示されてはいない。収められている「伊那谷観光ガイドマップ」にも当然のようにその場所は明示されていない。A4版の見開きの内側にポケットが付けられていて、そこに前述の観光マップとガイドブックが挟まれている。見開きのいわゆる表紙には前述の風景と、高遠城址公園の桜の写真、そしてポケット部に中央アルプスをバックに菜の花の咲く風景写真が掲載されている。裏表紙には伊那谷周辺アクセスマップと交通案内が掲載されている。ようは主な写真は3枚掲載されているが、表紙と高遠城址公園の写真には説明がなく、唯一ポケット部の写真に「駒ヶ根市東伊那から望む中央アルプス」と説明があるだけである。高遠城址公園の桜はあまりにも有名だから、おおかたの人はどこのものかすぐに解る。しかし、表紙写真はそうはいっても知らない人の方が多い。もちろん知られる必要もないことだが、こういう写真が地域の観光パンフレットの一面を飾るというのはどうなんだろう。昨日も触れたように、トリミングされた絶景は、あくまでも不要なものを取り除いたまさに写真コンテスト的な表現である。しかし、それを説明もなく掲載するというあたりは、ようは騙しの世界のようなものである。

 以前にも少し触れたことがあるが、駅のホームなどに観光ポスターが貼られている。そんなポスターにも今回のような説明のない写真がイメージ的に使われるものが多い。巨大なポスターだから目を引くものも多いが、いったいそのトリミングされた世界がどこにいけば見られるかはまったく解らない。もしかしたら観光協会に問い合わせても「教えてくれない」みたいな写真が掲載されていることもある。ようはどこどこと限定できないほどのクローズアップ写真であったり、引いた写真でもたとえば吊るし柿風景であったりしてなかなかどこで撮られたか明確には言えないというものもあったりする。そしてトリミングされた世界だから、実際の場所に行ったとしても同じ風景は見られなかったりする。まさにイメージの世界で、架空ではないものの採用した側はかなりそれに近い真意があったりする。美化して人を誘おうという基本的な発想が気に入らない。以前「消えた村をもう一度」を特集したことがあったが、昔のパンフレットの方がそうしたイメージ的な騙しは少なかったように思う。イメージだからこそ、表紙写真の脇にこんな言葉が添えられてしまう。「私達が求める“心の風景”-それは失いかけている“ふるさと”『信州伊那谷』できっと見つかります」というものだ。もしかして「心の風景」とはイメージされた仮想風景なのだろうか。

 高遠城址公園と異なり、観光用に整備されたものでもなく、そこに観光バスや観光客の車が押し寄せるという場所でもない。しかし、そうしたあまり明確にしたくないようなトリミングされた世界を象徴的に掲げる怪しく、また本意を理解していないパンフレットで集まってくる客にはさらに怪しさが積もる。まがい物に違いないのだ。

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2 コメント

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広告とは (Aki)
2008-10-17 08:41:31
 そもそも美化して人を誘うものだと思っています。また、写真を撮るということ自体、そもそも自分の撮りたいものをトリミングすることですよね。それはまがい物とまで言うほどのことではないように思います。むしろ、そういうものとして見るべきという、受け取る側の一種のメディアリテラシーに属することかなと私自身は思っています。また、観光用に整備されたものに辟易して魅力を感じなくなっている人たちも増えているかと思います。
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写真はそういうものですよね、もちろん (trx_45)
2008-10-17 21:35:23
そのとおりですね。でも人を誘うものはやはり人を誘うものでしかないと思います。とはいえ、まったく知らない世界はそれを信用するしかないのですから、まったく知らない人のためには美化するだけで「本当に良いの?」と思うのです。
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