守田です。(20110609 23:30)
6日に保安院は、1~3号機の事故解析結果を発表しました。それによると当初、
保安院は、大気中に放出した放射性物質の量を、37万テラベクレルと発表して
いましたが、今回の計算では、その倍以上の77万テラベクレルと考えられるとの
ことです。
現在、原発サイトにある放射能汚染水の量が、72万テラベクレルと概算されて
いますので、この二つを足しただけでも約150万テラベクレルになってしまう。
これは海に流れ込んだ量を含んでいませんから、これらも勘案するならば、
福島原発で放出された放射性物質の量は、少なくともチェルノブイリ事故の時の
3分の1にはなることになります。
ついこないだ、とうとう4分の1になってしまったと書いたばかりなのに、またも
訂正発表。ともあれ本当にチェルノブイリ事故での放射能の放出に近づいて
いることだけは間違いないようです。あるいは実際にはもう越えてしまっている
のかもしれない。それだけに私たちは、ますます放射線からの防護を、固めて
いかなくてはなりません。
当時に保安院は、1号機の圧力容器が、地震5時間後に破損していたとする
見解も同時に発表しました。これは東電が5月23日に出した試算よりも、事故が
もっと急速に進んだことを示すものです。つまり保安院が当初解析した倍近くの
放射性物質が飛び出し、なおかつ、東電が発表したよりも、もっと急速に炉内の
崩壊が進んだことが明らかにされたことになる。
・・・この情報を一体、どう読み解けばいいのでしょうか。一見すれば、前の
誤った情報を丁寧に訂正しているようにも見えますが、反対に、後から後から
「これが真実だ」と事実を重ね、無理難題を押し通していく狡猾な手段である
ようにも見えます。
ただ、いずせれにせよ、この新聞記事を読んだだけの側は、もううんざりというか、
後から後から、実はこんなにひどかったと聞かされても、もう疲れるだけだとも
思うのではないでしょうか。時間が経てば経つだけ、事故がこうひどかった、
放射能がこんなに漏れていたと言われても、だから何を主体的に考えればいいか
ここからは見えてきません。
この情報の出し方の裏に潜むものは何なのだろうか。この状況の中で何を
つかむことが必要なのだろうか。そう必死になって情報解析を行っているときに
少し久々になりますが、後藤政志さんが、原子力資料情報室で行った会見を
見ることができ、非常に目が開かれる思いがしたので、紹介したいと思います。
後藤さんは、そもそも東電が先に出した事故報告書から、丁寧な分析を
行っています。そしてそこに書いてあることから、実はこの東電や保安院の
解析が、実際のデータに基づくものではないこと、事故直後に計器も記録装置も
壊れてしまっていて、信頼に足るデータは残されておらず、そのため、シミュレー
ションによって解析しているのが今のデータであることを指摘しています。
つまりどこまでいっても推論に過ぎないのです。まずこのことがおさえられなければ
ならない。ようするにシミュレーションするときに、どのような数字を代入するのか
あるいは、どのように条件づけるかによって結果は変わってくる。だから現在の
放射性物質の放出量も、5時間後に格納容器が壊れたと言うのも、一つの推論
の域を出ておらず、データに裏付けされた「確からしきこと」と言える段階ではない
のです。これもまた、入力によっては変わりうるもので、あくまでも推論です。
にもかかわらず、東電の報告書にも保安院の報告書にも共通して使われている
断言があると後藤さんは指摘する。それは何か。事故が津波によって起こったと
言うこと、地震の時には、安定的に停止したものの、その後の津波で電源を喪失
し、メルトダウンにいたったということです。推論でしかありえないのに、ここだけが
断定になっている。後藤さんはその点に焦点をあてています。
なぜここが問題なのでしょうか。現在あるデータを細かく解析したとき、すでに
3月末の段階で田中三彦さんが解説してくれたことですが、1号機ではどうも
津波の前に、配管破断などの重大事故が起こり、冷却材が喪失していた可能性
がうたがわれるのです。これも断言はできませんが、そう読み取れる数値が
確かに存在している。
ところが推論に基づいたものでしかないのに、東電も保安院も、事故は津波に
よる電源喪失によって起こったと断言している。どれぐらいの時間が経ってから
メルトダウンしたのか、東電と保安院の見解には大きな開きがあり、そのため
あたかも保安院は、東電の発表を訂正しているようにうつるわけですが、しかし
この、おそらくは東電と保安院にとっての最も重要な点である、「津波のよる被害」
という点だけは見事に一致させ、しかも断定口調で報告されています。
後藤さんは語ります。
「津波の前にどこかが損傷していたとすれば、津波対策だけではダメだということ
になる。だから地震の影響がなかったとわかるまではそんなことは言っては
ならないのだ。
今の段階で、シミュレーションによって、津波のせいに限定するのはあやまりだ。」
まとめましょう。
東電の発表と保安院の発表は、数字の面で一見、大きな隔たりがあり、一方が
他方の見解を修正しているようにも見えます。しかし実はそれらはデータが
乏しい中での推論の結果であることが、はっきりとしめされていない。まずここに
発表の仕方のまやかしがあると言ってよいと思います。
第二に、数値が違っても、実は東電と保安院の発表は、事故が地震ではなく
津波で起こったと言う点で一致していること、乏しいデータに基づく推論に過ぎない
のに、ここは断定されていることに特徴があるということ。つまり東電や保安院は
事故が、津波以前の地震そのものによって起こった可能性の隠ぺいを図ろうと
していることが濃厚に疑われるということです。
より重要なのはこの第二の点です。なぜならこの断言を貫けば、原発は耐震構造
の見直しを行わなくてよいことになりうかねないからです。
事実、今日、玄海原発の運転再開にむけて、保安院が地元自治体を説得に
訪れているのですが、そのときに述べたのも、玄海原発は津波対策がなされている
ので、現時点での運転再開に問題はないという点です。
これに対して、耐震構造に問題があるとするのなら、実は日本の原発全てが
これまでの想定を見直さないといけなくなる。つまり運転できなくなる可能性が
高いのです。その意味で事故要因を、津波に限定するか、地震そのものによる
ものと捉えるかで、原子力政策の展望が大きく変わっていくことになる。
しかし、実際に1号機では、地震そのものによって、冷却材喪失事故が起こった
可能性がある!あの大津波が来なくても、少なくとも1号機は壊れていた可能性
が極めて高い!このことが明らかになるならば、日本中の原発が、法的にも、
道義的にも直ちに止めねばならないことは明らかです。
その意味で、私たちは、是非この点を追求し続ける必要があります。
後藤さんたちの活躍をも含めて、情報ウォッチを続けます!
********
以下、後藤さんのお話のノートテークをお届します。
今回も守田が粗く聞き取った内容を書き込んでいます。引用などされる場合は、
あくまでも「守田が聴き書きしたもの」と一文を添えてください。
なお実際の会見の様子は以下から見ることができます。
http://www.ustream.tv/recorded/15223495
末尾に朝日新聞の記事も添付しておきます。
***
福島原発事故解説 後藤政志さん
後藤です。
ここに保安院と東電の解析がある。
東電のものは以下のような長い名前がついている。
「東北地方太平洋沖地震発生時の福島第一原子力発電所運転記録
及び事故の記録の分析と影響評価について」平成23年5月23日
東京電力株式会社
6日に保安院が独立に解析したものがでた。
若干、保安院の方が厳しい。
1号機について5時間前後で圧力容器の破損が起こっている。
東電は15時間後とみている。二つはこの点が違うが、実は
他はそれほど違わない。
これをどう見るか。
東電が1号機から3号機までメルトダウンがありうると解析結果を出した。
これはどういうものか。圧力容器や格納容器にどれだけの水があり、
熱がどうなっているか。そういう流れ、熱の移行をシミュレーション
していった。それで一定の温度に達すると、炉心が解け始める・・・と、
計算でおっかけた。
これは過酷事後時のソフトの、幾つかのタイプのうちの一つを
使っている。(解析ソフトのことか?守田注)
しかし与えられる条件はどのようなものか。
原子炉の容量なども入るが、物理的にどこかが壊れたとか、スプレ
ーが作動したとか、そうしたものをインプットする。
なのでこれは、プラントの状態が全部分かっていないと意味をなさ
ない。推測にすぎない。
ある値を入れて、故障を起こすと炉心が露出してきて、燃料が
損傷するなどと、計算して追いかけていくので、配管が壊れたとか、
壊れてないとかは、インプット条件になる。
それを考えると、これは創造力逞しくく計算したものの一つであって、
これをもって事実と考えることはできない。
なぜかというと、ここでやっていることは、プラントの中で
圧力も温度もデータが欠けている中で、推測しているに過ぎない
からだ。
ここにはかなり細かいことも書いている。
直接データがないところは、運転員がどう判断したかも含めて
書いているのだが、いずれにしても推測の域をまだでない。
そうでありながら、一部に断定的な表現があるのが、この
報告書の特徴だと思う。
数百ページあるが、一部、どんな感じかをみてもらいたい。
とくに報告書の初めを見てみると、はじめにが書いてあり、
「5月16日に提出した福島第一原子力発電所の運転記録、事故
記録のデータを踏まえ、事故解析コードを用いて福島第一原子力
発電所1号機~3号機についてプラントの状態を推定した」と
書かれている。
続いて1号機のプラントのデータが出てくるが、こう書いてある。
「1号機のチャートは、地震時、津波襲来時のデータを記録して
いるが、津波による浸水の影響と思われる電源の喪失や信号
自体の喪失により、ある一定時間動作後停止している。警報
発生装置は、スクラム発生直後、約10分間の記録を出力
しているが、何らかの理由で印字を停止しており、データ収録
機能を有していないため以降のデータは不明となっている。」
スクラムとは、制御棒が入ったことだが、その後10分間の
記録しかなく、一番肝心なところのデータがない。
「データ収録機能を有していないため以降のデータは不明」
となっている。つまり最も大事なところが分からないままに
シミュレーションで考えている。
これらから分かることは、一番大事なデータは、スクラム後10分しか
ないこと、運転員の記録がホワイトボードに少しあることだけだ。
あと「過渡現象記録装置」というものがある。再循環ポンプ
といって、原子炉から外に水を出して中にいれて循環させて
いるわけだが、その上部の軸受けがある一定の振動が加え
られると、トリガー(引き金)が入り、自動で記録を始める。
それが30分動いている。
トリガーは地震か、何らかの損傷で入ったのかもしれない。
続いてプラントの挙動が長く書かれている。
気になるところを説明すると、1号機はスクラム直後に圧力が
低下しているが、「主蒸気隔離弁が閉鎖したことにより
原子炉圧力が上昇した」となっている。
この弁は、通常ならばタービンに蒸気を送っている配管に
あるもので、非常時に閉じてタービンに蒸気を送らなくするため
のものだが、これがなぜしまったのかが問題になる。
一般的には、冷却材喪失事故など、事故が起こると隔離弁が
閉まるので、それがなぜかが検証される必要がある。
また「主蒸気隔離弁閉鎖に前後して主蒸気配管破断等に関連する
隔離信号が打ち出されている」とある。つまりここでは冷却材
喪失事故が起こったと思わせる信号が入っているわけである。
しかし続けて「過渡現象記録装置に記録されている主蒸気流量の
記録では、主蒸気隔離弁の閉鎖により蒸気流量は0になっており、
この過程において配管破断による蒸気流量の増大等は見られて
いない。このことから、主蒸気配管の破断等々に関連する警報は、
地震による外部電源の喪失に寄り計器電源が失われ、フェール
セーフで閉鎖信号が発されたものと考える」としている。
いわんとすることは、電源が失われたので、自動的に閉信号を
出したけれど、ただそれだけだと言っている。
問題はこれが正しいかだ。
次を見ると、14時52分に非常用復水器が原子炉圧力高により、
自動起動となっている。10分間は動いていたとされる。
続いて「非常用復水器の操作については、手順書では原子炉圧力容器
温度降下率が55度/時間を超えないように調整することを求めており、
作動時には急激な温度低下をしていることから、操作は妥当であると
考える」とあるが、非常時にそんなのんきなことを言ってられたのか。
ここは疑問が残る。
次を見ると、配管破断はおきてないという。蒸気逃がし安全弁が
作動したからだという。ところが同じ状況のときの2号機を
見てみると、水位が大きく揺れ動いている。
これは蒸気逃がし安全弁が作動した証拠だ。これと同じものが1号機
にはない。つまり1号機は逃がし安全弁が作動しないまま圧力が低下して
いる。これはどこかが漏れているという兆候だ。その可能性は極めて濃厚
だとここから感じた。
東電は要するに地震が起こった時は全ての機能は正常に働いたけれども、
津波が来てダメになったと断言しており、保安院の方も追認している。
それは現時点で、そういうことを言う根拠はどこにあるのか。データそのもの
は欠落していて、シミュレーションをしている。しかもそれで合理的な説明が
できていない。データと説明に齟齬がある。
そうしたことをおいたまま、断言している。しかし津波の前にどこかが損傷
していたとすれば、津波対策だけではダメだということになる。だから地震の
影響がなかったとわかるまではそんなことは言ってはならないのだ。
今の段階で、シミュレーションによって、津波のせいに限定するのはあやまりだ。
そもそも東電は、事故直後には、メルトダウンなどしてないと言いきっていた。
燃料の一部が損傷しているだけだと言っていた。ところが事故から2カ月
たったら、みんなメルトダウンしていたといいだした。
言うことが急激に変わる。それは仮定した上での計算だからだ。
圧力容器にこういう穴があいているとしたら、こうだという
具合で、直接のデータに基づいていない。
以上
******************
1号機の圧力容器、地震5時間後に破損 保安院解析
2011年6月6日22時7分 朝日新聞
経済産業省原子力安全・保安院は6日、東京電力福島第一原発の事故で大気中
に放出された放射性物質は77万テラベクレル(テラは1兆倍)とする解析結果をま
とめた。また1~3号機とも溶けた燃料が原子炉圧力容器の底にたまる炉心溶融
(メルトダウン)を起こし、1号機は東電の解析よりも急速に事故が進み、地震5時
間後には圧力容器が破損していたとする分析もまとめた。
1~3号機でメルトダウンを起こしたなどとする東電の解析について、保安院が
検証していた。この結果、放射性ヨウ素換算で77万テラベクレルとなり、保安院の
これまでの推算の37万テラベクレルや、原子力安全委員会が周辺の観測値から
求めた63万テラベクレルを上回る数値になった。
数万テラベクレル以上になると国際的な事故評価尺度(INES)で「深刻な事故」
とされる。チェルノブイリ原発事故(520万テラベクレル)と同じ最悪のレベル7に
相当することに変わりないが、より厳しい状態だったことを示した。
保安院は2号機の格納容器で温度が設計の上限値の138度を超え、格納容器
に50平方センチ、圧力抑制室に300平方センチ相当のすき間ができたと想定。
このため、放出量が大きくなったという。
またメルトダウンを起こし圧力容器が破損した時間は、東電の解析結果より1、
2号機で早まった。1号機は地震が発生した3月11日午後2時46分から約5時
間後の午後8時ごろ(東電の解析では12日午前6時ごろ)と10時間早まり、2号
機は14日午後10時50分ごろ(同16日午前4時ごろ)と29時間早まった。
一方、3号機の破損は13時間遅く14日午後10時10分ごろになった。保安院
は「東電の解析より圧力などの挙動が再現できている」としている。
1号機で炉心の露出が始まったのは11日午後5時ごろで、午後5時50分に中央
制御室の白板に書き込まれた線量上昇の記録や、その後原子炉建屋が立ち
入り禁止になり、タービン建屋で線量が上がった記録とも整合するという。この
結果、建屋内に水素ガスが漏れ出たとした。(佐々木英輔、小堀龍之)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201106060515.html
6日に保安院は、1~3号機の事故解析結果を発表しました。それによると当初、
保安院は、大気中に放出した放射性物質の量を、37万テラベクレルと発表して
いましたが、今回の計算では、その倍以上の77万テラベクレルと考えられるとの
ことです。
現在、原発サイトにある放射能汚染水の量が、72万テラベクレルと概算されて
いますので、この二つを足しただけでも約150万テラベクレルになってしまう。
これは海に流れ込んだ量を含んでいませんから、これらも勘案するならば、
福島原発で放出された放射性物質の量は、少なくともチェルノブイリ事故の時の
3分の1にはなることになります。
ついこないだ、とうとう4分の1になってしまったと書いたばかりなのに、またも
訂正発表。ともあれ本当にチェルノブイリ事故での放射能の放出に近づいて
いることだけは間違いないようです。あるいは実際にはもう越えてしまっている
のかもしれない。それだけに私たちは、ますます放射線からの防護を、固めて
いかなくてはなりません。
当時に保安院は、1号機の圧力容器が、地震5時間後に破損していたとする
見解も同時に発表しました。これは東電が5月23日に出した試算よりも、事故が
もっと急速に進んだことを示すものです。つまり保安院が当初解析した倍近くの
放射性物質が飛び出し、なおかつ、東電が発表したよりも、もっと急速に炉内の
崩壊が進んだことが明らかにされたことになる。
・・・この情報を一体、どう読み解けばいいのでしょうか。一見すれば、前の
誤った情報を丁寧に訂正しているようにも見えますが、反対に、後から後から
「これが真実だ」と事実を重ね、無理難題を押し通していく狡猾な手段である
ようにも見えます。
ただ、いずせれにせよ、この新聞記事を読んだだけの側は、もううんざりというか、
後から後から、実はこんなにひどかったと聞かされても、もう疲れるだけだとも
思うのではないでしょうか。時間が経てば経つだけ、事故がこうひどかった、
放射能がこんなに漏れていたと言われても、だから何を主体的に考えればいいか
ここからは見えてきません。
この情報の出し方の裏に潜むものは何なのだろうか。この状況の中で何を
つかむことが必要なのだろうか。そう必死になって情報解析を行っているときに
少し久々になりますが、後藤政志さんが、原子力資料情報室で行った会見を
見ることができ、非常に目が開かれる思いがしたので、紹介したいと思います。
後藤さんは、そもそも東電が先に出した事故報告書から、丁寧な分析を
行っています。そしてそこに書いてあることから、実はこの東電や保安院の
解析が、実際のデータに基づくものではないこと、事故直後に計器も記録装置も
壊れてしまっていて、信頼に足るデータは残されておらず、そのため、シミュレー
ションによって解析しているのが今のデータであることを指摘しています。
つまりどこまでいっても推論に過ぎないのです。まずこのことがおさえられなければ
ならない。ようするにシミュレーションするときに、どのような数字を代入するのか
あるいは、どのように条件づけるかによって結果は変わってくる。だから現在の
放射性物質の放出量も、5時間後に格納容器が壊れたと言うのも、一つの推論
の域を出ておらず、データに裏付けされた「確からしきこと」と言える段階ではない
のです。これもまた、入力によっては変わりうるもので、あくまでも推論です。
にもかかわらず、東電の報告書にも保安院の報告書にも共通して使われている
断言があると後藤さんは指摘する。それは何か。事故が津波によって起こったと
言うこと、地震の時には、安定的に停止したものの、その後の津波で電源を喪失
し、メルトダウンにいたったということです。推論でしかありえないのに、ここだけが
断定になっている。後藤さんはその点に焦点をあてています。
なぜここが問題なのでしょうか。現在あるデータを細かく解析したとき、すでに
3月末の段階で田中三彦さんが解説してくれたことですが、1号機ではどうも
津波の前に、配管破断などの重大事故が起こり、冷却材が喪失していた可能性
がうたがわれるのです。これも断言はできませんが、そう読み取れる数値が
確かに存在している。
ところが推論に基づいたものでしかないのに、東電も保安院も、事故は津波に
よる電源喪失によって起こったと断言している。どれぐらいの時間が経ってから
メルトダウンしたのか、東電と保安院の見解には大きな開きがあり、そのため
あたかも保安院は、東電の発表を訂正しているようにうつるわけですが、しかし
この、おそらくは東電と保安院にとっての最も重要な点である、「津波のよる被害」
という点だけは見事に一致させ、しかも断定口調で報告されています。
後藤さんは語ります。
「津波の前にどこかが損傷していたとすれば、津波対策だけではダメだということ
になる。だから地震の影響がなかったとわかるまではそんなことは言っては
ならないのだ。
今の段階で、シミュレーションによって、津波のせいに限定するのはあやまりだ。」
まとめましょう。
東電の発表と保安院の発表は、数字の面で一見、大きな隔たりがあり、一方が
他方の見解を修正しているようにも見えます。しかし実はそれらはデータが
乏しい中での推論の結果であることが、はっきりとしめされていない。まずここに
発表の仕方のまやかしがあると言ってよいと思います。
第二に、数値が違っても、実は東電と保安院の発表は、事故が地震ではなく
津波で起こったと言う点で一致していること、乏しいデータに基づく推論に過ぎない
のに、ここは断定されていることに特徴があるということ。つまり東電や保安院は
事故が、津波以前の地震そのものによって起こった可能性の隠ぺいを図ろうと
していることが濃厚に疑われるということです。
より重要なのはこの第二の点です。なぜならこの断言を貫けば、原発は耐震構造
の見直しを行わなくてよいことになりうかねないからです。
事実、今日、玄海原発の運転再開にむけて、保安院が地元自治体を説得に
訪れているのですが、そのときに述べたのも、玄海原発は津波対策がなされている
ので、現時点での運転再開に問題はないという点です。
これに対して、耐震構造に問題があるとするのなら、実は日本の原発全てが
これまでの想定を見直さないといけなくなる。つまり運転できなくなる可能性が
高いのです。その意味で事故要因を、津波に限定するか、地震そのものによる
ものと捉えるかで、原子力政策の展望が大きく変わっていくことになる。
しかし、実際に1号機では、地震そのものによって、冷却材喪失事故が起こった
可能性がある!あの大津波が来なくても、少なくとも1号機は壊れていた可能性
が極めて高い!このことが明らかになるならば、日本中の原発が、法的にも、
道義的にも直ちに止めねばならないことは明らかです。
その意味で、私たちは、是非この点を追求し続ける必要があります。
後藤さんたちの活躍をも含めて、情報ウォッチを続けます!
********
以下、後藤さんのお話のノートテークをお届します。
今回も守田が粗く聞き取った内容を書き込んでいます。引用などされる場合は、
あくまでも「守田が聴き書きしたもの」と一文を添えてください。
なお実際の会見の様子は以下から見ることができます。
http://www.ustream.tv/recorded/15223495
末尾に朝日新聞の記事も添付しておきます。
***
福島原発事故解説 後藤政志さん
後藤です。
ここに保安院と東電の解析がある。
東電のものは以下のような長い名前がついている。
「東北地方太平洋沖地震発生時の福島第一原子力発電所運転記録
及び事故の記録の分析と影響評価について」平成23年5月23日
東京電力株式会社
6日に保安院が独立に解析したものがでた。
若干、保安院の方が厳しい。
1号機について5時間前後で圧力容器の破損が起こっている。
東電は15時間後とみている。二つはこの点が違うが、実は
他はそれほど違わない。
これをどう見るか。
東電が1号機から3号機までメルトダウンがありうると解析結果を出した。
これはどういうものか。圧力容器や格納容器にどれだけの水があり、
熱がどうなっているか。そういう流れ、熱の移行をシミュレーション
していった。それで一定の温度に達すると、炉心が解け始める・・・と、
計算でおっかけた。
これは過酷事後時のソフトの、幾つかのタイプのうちの一つを
使っている。(解析ソフトのことか?守田注)
しかし与えられる条件はどのようなものか。
原子炉の容量なども入るが、物理的にどこかが壊れたとか、スプレ
ーが作動したとか、そうしたものをインプットする。
なのでこれは、プラントの状態が全部分かっていないと意味をなさ
ない。推測にすぎない。
ある値を入れて、故障を起こすと炉心が露出してきて、燃料が
損傷するなどと、計算して追いかけていくので、配管が壊れたとか、
壊れてないとかは、インプット条件になる。
それを考えると、これは創造力逞しくく計算したものの一つであって、
これをもって事実と考えることはできない。
なぜかというと、ここでやっていることは、プラントの中で
圧力も温度もデータが欠けている中で、推測しているに過ぎない
からだ。
ここにはかなり細かいことも書いている。
直接データがないところは、運転員がどう判断したかも含めて
書いているのだが、いずれにしても推測の域をまだでない。
そうでありながら、一部に断定的な表現があるのが、この
報告書の特徴だと思う。
数百ページあるが、一部、どんな感じかをみてもらいたい。
とくに報告書の初めを見てみると、はじめにが書いてあり、
「5月16日に提出した福島第一原子力発電所の運転記録、事故
記録のデータを踏まえ、事故解析コードを用いて福島第一原子力
発電所1号機~3号機についてプラントの状態を推定した」と
書かれている。
続いて1号機のプラントのデータが出てくるが、こう書いてある。
「1号機のチャートは、地震時、津波襲来時のデータを記録して
いるが、津波による浸水の影響と思われる電源の喪失や信号
自体の喪失により、ある一定時間動作後停止している。警報
発生装置は、スクラム発生直後、約10分間の記録を出力
しているが、何らかの理由で印字を停止しており、データ収録
機能を有していないため以降のデータは不明となっている。」
スクラムとは、制御棒が入ったことだが、その後10分間の
記録しかなく、一番肝心なところのデータがない。
「データ収録機能を有していないため以降のデータは不明」
となっている。つまり最も大事なところが分からないままに
シミュレーションで考えている。
これらから分かることは、一番大事なデータは、スクラム後10分しか
ないこと、運転員の記録がホワイトボードに少しあることだけだ。
あと「過渡現象記録装置」というものがある。再循環ポンプ
といって、原子炉から外に水を出して中にいれて循環させて
いるわけだが、その上部の軸受けがある一定の振動が加え
られると、トリガー(引き金)が入り、自動で記録を始める。
それが30分動いている。
トリガーは地震か、何らかの損傷で入ったのかもしれない。
続いてプラントの挙動が長く書かれている。
気になるところを説明すると、1号機はスクラム直後に圧力が
低下しているが、「主蒸気隔離弁が閉鎖したことにより
原子炉圧力が上昇した」となっている。
この弁は、通常ならばタービンに蒸気を送っている配管に
あるもので、非常時に閉じてタービンに蒸気を送らなくするため
のものだが、これがなぜしまったのかが問題になる。
一般的には、冷却材喪失事故など、事故が起こると隔離弁が
閉まるので、それがなぜかが検証される必要がある。
また「主蒸気隔離弁閉鎖に前後して主蒸気配管破断等に関連する
隔離信号が打ち出されている」とある。つまりここでは冷却材
喪失事故が起こったと思わせる信号が入っているわけである。
しかし続けて「過渡現象記録装置に記録されている主蒸気流量の
記録では、主蒸気隔離弁の閉鎖により蒸気流量は0になっており、
この過程において配管破断による蒸気流量の増大等は見られて
いない。このことから、主蒸気配管の破断等々に関連する警報は、
地震による外部電源の喪失に寄り計器電源が失われ、フェール
セーフで閉鎖信号が発されたものと考える」としている。
いわんとすることは、電源が失われたので、自動的に閉信号を
出したけれど、ただそれだけだと言っている。
問題はこれが正しいかだ。
次を見ると、14時52分に非常用復水器が原子炉圧力高により、
自動起動となっている。10分間は動いていたとされる。
続いて「非常用復水器の操作については、手順書では原子炉圧力容器
温度降下率が55度/時間を超えないように調整することを求めており、
作動時には急激な温度低下をしていることから、操作は妥当であると
考える」とあるが、非常時にそんなのんきなことを言ってられたのか。
ここは疑問が残る。
次を見ると、配管破断はおきてないという。蒸気逃がし安全弁が
作動したからだという。ところが同じ状況のときの2号機を
見てみると、水位が大きく揺れ動いている。
これは蒸気逃がし安全弁が作動した証拠だ。これと同じものが1号機
にはない。つまり1号機は逃がし安全弁が作動しないまま圧力が低下して
いる。これはどこかが漏れているという兆候だ。その可能性は極めて濃厚
だとここから感じた。
東電は要するに地震が起こった時は全ての機能は正常に働いたけれども、
津波が来てダメになったと断言しており、保安院の方も追認している。
それは現時点で、そういうことを言う根拠はどこにあるのか。データそのもの
は欠落していて、シミュレーションをしている。しかもそれで合理的な説明が
できていない。データと説明に齟齬がある。
そうしたことをおいたまま、断言している。しかし津波の前にどこかが損傷
していたとすれば、津波対策だけではダメだということになる。だから地震の
影響がなかったとわかるまではそんなことは言ってはならないのだ。
今の段階で、シミュレーションによって、津波のせいに限定するのはあやまりだ。
そもそも東電は、事故直後には、メルトダウンなどしてないと言いきっていた。
燃料の一部が損傷しているだけだと言っていた。ところが事故から2カ月
たったら、みんなメルトダウンしていたといいだした。
言うことが急激に変わる。それは仮定した上での計算だからだ。
圧力容器にこういう穴があいているとしたら、こうだという
具合で、直接のデータに基づいていない。
以上
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1号機の圧力容器、地震5時間後に破損 保安院解析
2011年6月6日22時7分 朝日新聞
経済産業省原子力安全・保安院は6日、東京電力福島第一原発の事故で大気中
に放出された放射性物質は77万テラベクレル(テラは1兆倍)とする解析結果をま
とめた。また1~3号機とも溶けた燃料が原子炉圧力容器の底にたまる炉心溶融
(メルトダウン)を起こし、1号機は東電の解析よりも急速に事故が進み、地震5時
間後には圧力容器が破損していたとする分析もまとめた。
1~3号機でメルトダウンを起こしたなどとする東電の解析について、保安院が
検証していた。この結果、放射性ヨウ素換算で77万テラベクレルとなり、保安院の
これまでの推算の37万テラベクレルや、原子力安全委員会が周辺の観測値から
求めた63万テラベクレルを上回る数値になった。
数万テラベクレル以上になると国際的な事故評価尺度(INES)で「深刻な事故」
とされる。チェルノブイリ原発事故(520万テラベクレル)と同じ最悪のレベル7に
相当することに変わりないが、より厳しい状態だったことを示した。
保安院は2号機の格納容器で温度が設計の上限値の138度を超え、格納容器
に50平方センチ、圧力抑制室に300平方センチ相当のすき間ができたと想定。
このため、放出量が大きくなったという。
またメルトダウンを起こし圧力容器が破損した時間は、東電の解析結果より1、
2号機で早まった。1号機は地震が発生した3月11日午後2時46分から約5時
間後の午後8時ごろ(東電の解析では12日午前6時ごろ)と10時間早まり、2号
機は14日午後10時50分ごろ(同16日午前4時ごろ)と29時間早まった。
一方、3号機の破損は13時間遅く14日午後10時10分ごろになった。保安院
は「東電の解析より圧力などの挙動が再現できている」としている。
1号機で炉心の露出が始まったのは11日午後5時ごろで、午後5時50分に中央
制御室の白板に書き込まれた線量上昇の記録や、その後原子炉建屋が立ち
入り禁止になり、タービン建屋で線量が上がった記録とも整合するという。この
結果、建屋内に水素ガスが漏れ出たとした。(佐々木英輔、小堀龍之)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201106060515.html
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