明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1270)放射線を浴びたX年後を考える!(川口美砂さんとの対談-1)

2016年06月17日 22時00分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160617 22:00)

今回から何回かに分けて、京都「被爆2世・3世の会」会報No43別冊に掲載していただいた京都「被爆2世・3世の会」2016年度年次総会(4月23日)での記念トークの起こしを転載させていただきます。
タイトルは「父の死が放射線のためだと知った時」。川口美砂さんと僕との対談です。
川口さんは室戸市出身。映画『放射線を浴びたX年後2』に主演されました。太平洋核実験で被曝した漁船員を訪ね、聴き取りを行われています。
この映画がどんなものなのか。またなぜ川口さんをお招きすることになったのか、まずは冒頭の僕の解説をお読み下さい。川口さんのご登場は連載2回目からになります。

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京都「被爆2世3世の会」2016年度年次総会
記念トーク「父の死が放射線のためだと知った時」
川口美砂さん×守田敏也さん

守田
みなさんこんにちは。「被爆2世・3世の会」の守田敏也です。今日の総会の第2部の記念トークに移りたいと思います。まず今日ゲストとしてお招きした川口美砂さんをご紹介します。

川口
はじめまして。川口と申します。本日はよろしくお願いいたします。


◇川口さんにビキニのこと、お父さんのことを伺おうと

守田
まず初めに、今日川口さんをおよびした経緯についてお話しします。
川口さんは『放射線を浴びたX年後2』という映画に出演されたのですが、そのパンフレットに書かれている記述の一部を読みあげます。
「1954年アメリカが行ったビキニ水爆実験。当時、多くの日本の漁船が同じ海域で操業していた。にもかかわらず、第五福竜丸以外の「被ばく」は、人々の記憶、そして歴史からもなぜか消し去られて行った。
闇に葬られようとしていたその重大事件に光をあてたのは、高知県の港町で地道な調査を続けた教師や高校生たちだった。
その足跡を丹念にたどったあるローカル局のTVマンの8年にわたる長期取材のなかで、次々と明らかになっていく船員たちの衝撃的なその後・・・。そして、ついにたどり着いた、“機密文書”・・・そこには、日本にも及んだ深刻な汚染の記録があった―」

僕自身もそうなのですが、みなさんも「第五福竜丸」という船の名は強く記憶に残っていると思うのですよね。アメリカのビキニ環礁の核実験で被曝した船です。
ところが被曝したのは第五福竜丸だけではなかった。記録に残っているだけでも延べ992隻もの船が数え上げられています。
記録にはない船ももちろんたくさんあるはずで、膨大な量の日本の船が巻き込まれていて、推定1万人から2万人の漁師さんたちや船員さんたちが被曝していたのです。
漁船だけではなくて貨物船などもあの海域にいて、その船員の方たちも被曝している。それなのに、まるで被曝したのは第五福竜丸一隻だけかのように扱われてきてしまいました。

このことに高知県の山下正寿先生他、2名の先生が気がつかれました。当時は高校の先生をされていて、自分が教えている高校生たちと一緒になって被曝の事実を一つ一つ丹念に調べ上げ、たくさんの被害があったことを明らかにしていったのです。
その活動の成果をまとめるとともに、高知県室戸市の遠洋マグロ漁船・第二幸成丸の乗りこまれていてマーシャル漁場で被曝された有藤照雄さんなどの50年の沈黙を破っての証言をはじめ、たくさんの乗組員の方やご家族の証言や、アメリカ公文書に記載されていた水爆実験によるアメリカ本土や日本全域の被曝の事実など、衝撃的な内容を入れ込んで作り上げたのが、映画『放射能を浴びたX年後』です。川口さんが出演されたものの前作です。
まずこちらを先に観て欲しいのですけれど、核実験で被曝したのは高知県の船だけではなかったのです。日本の太平洋側のあらゆる港から実験海域に船が行っていた。だから日本中の港に被曝した船がいて、漁師さんたちがいたのです。
これを山下先生たちが20年以上の歳月をかけてずっと調べあげていったのですが、ここに途中から南海放送のディレクターの伊東英朗さんという方が参加されたのです。
映画のタイトルに使われた「X年後」という言葉は、その伊東さんが思いついたもので、被曝してから何年か後に影響が出てくることを指した言葉です。
漁師さんたちの場合、早ければ船が帰って来てからすぐに亡くなった方もいますし、その後に次々と亡くなられていった。とにかくまだまだお若くして亡くなられた方が多いのですね。40代、50代と。

ところが伊東さんらがさらに調査していくと衝撃的なことが分ってきた。
アメリカという国は25年経つと公文書を公開していく国なのですね。そこで出てきた文書から分ってきたのは、実はなんと、ビキニ環礁水爆実験の時にアメリカは、アメリカ本土のかなりの場所で放射性物質を捕まえる用意をしていたのです。
そして日本でも沖縄、広島、長崎、そして米軍基地のある三沢とかに用意をしていました。南太平洋での水爆実験が各地にどのような影響を及ぼすのかデータをとっていたのですね。
そのデータを見るとアメリカのかなりの部分が被曝しているし、日本全土が放射能の雲に覆われてしまった日も何日もあったのです。

もちろん一番濃度のきつい放射能にさらされ、激しい被曝をされたのは船員さんたちです。あたりの海域が汚染されていましたが、彼らは放射能の入った水でお米を研いで食べたり、スコールのない時には海水で体を洗っていました。ですから物凄い被曝量です。
でも彼らだけではなく、日本中が被曝していたのですね。だから私たち全員が被曝者なのです。それが映画『放射線を浴びたX年後』で告発されたのです。
この映画、『放射線を浴びたX年後』(以下『X年後1』)と、第2作の『放射線を浴びたX年後2』(以下『X年後2』)は、全国で自主上映が呼びかけられていますので、ぜひ協力していただきたいです。

さて川口さんはそれまで特にこの映画に関心があったわけではなかったのですが、故郷の室戸に行かれた時に、妹さんに誘われて観に行かれました。そこからこの映画との関わりが始まったのですね。
川口さんのお父さんも室戸の漁師さんで、36歳で亡くなられているのです。川口さんは映画を観て、たくさんの証言を集めている伊東監督の手助けをしたいと考えて、室戸の漁師さんたち、「おんちゃん」たちを取材されていくようになりました。
そのとき川口さんは映画に出るつもりなど全然なかった。なかったのですけれども、途中から監督さんから「美砂さんでいこう」ということになって、映画ができてしまって、今、戸惑っているのだそうですが、ビキニ環礁の核実験の被曝のこと、漁師さんたちのこと、映画のことなどを、私たち京都「被爆2世・3世の会」でぜひお聞きしたいということから今日は川口さんをお呼びしようということになったわけです。

記念トークのタイトルが「父の死が放射線のためだと知った時」とありますが、実は僕も同じなのです。僕の父も原爆が落ちた時、広島の呉市にいたのですね。正確に言うと香川県の善通寺というところにあった陸軍基地から呉まで救助命令が出て行ったのです。

父は呉に止まったのですけど、何の因果か、僕の友人のお父さんが呉に先にいた海軍部隊にいて、トコロテン式に押し出されるように広島市内に入ってるのです。そして被爆しています。
僕の父は呉からは動かなかったので、父自身も被爆したとは思ってなかったし、僕も家族もそう了解していました。その父が亡くなったのは広島の被爆から35年後のこと。1980年5月。死因は脳溢血で享年59歳でした。

ところが福島原発事故以降のことなのですが、名古屋大学名誉着教授の沢田昭二先生に父のことを話していたら、「守田さん、呉には確実に放射能の雲が届いているんですよ。だからお父さんも被爆されてるし、あなたも被爆二世ですよ」と言われたのです。
あー、そうだったのか、ということで、僕も50歳を過ぎて初めて事実を知ったというわけです。
そういうことを踏まえて、今日は川口さんにいろいろとお話を伺いたいと思います。
まず最初に映画を観に行かれたきっかけから伺いたいと思います。

続く

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守田敏也 MORITA Toshiya
[blog] http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011
[website] http://toshikyoto.com/
[twitter] https://twitter.com/toshikyoto
[facebook] https://www.facebook.com/toshiya.morita.90

[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
http://www.kaizosha.co.jp/HTML/DEKaizo58.html
[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-270832-4

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