明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(440)東日本大震災後に心不全が有意に増加、急性心筋梗塞、狭心症、脳卒中も(宮城県)

2012年03月29日 11時00分00秒 | 明日に向けて(401)~(500)
守田です。(20120329 11:00)

日経メディカルに、「東日本大震災後に心不全が有意に増加、ACS、脳卒
中も」という記事が出ました。ACSとは急性心筋梗塞と狭心症のことです
が、宮城県における2008年から2011年6月30日までの、救急車搬送患者の
調査から、これらが震災以前より増加していることが明らかになりました。
東北大学循環器内科学の下川宏明氏が、第76回日本循環器学会で発表し
ました。

注目すべき点は「心不全の増加は、過去の大震災疫学調査では報告例が
なく、東日本大震災の特徴の一つである」とされていることです。ここか
ら、このデータは、放射性障害による急性症状があったことを物語って
いるのではないかと着目し、記事の分析を試みました。

心不全については次のようなことが明らかにされています。

「2月11日~3月10日と3月11日~4月7日の2期間で各疾患の発生数を比較し
た。その結果、2011年だけが、3月11日~4月7日の期間の方が2月11日~
3月10日の期間より、心不全、ACS、脳卒中、心配停止、肺炎のすべてが
有意に多かった。例えば心不全は、2011年の2月11日~3月10日では123件
だったが、同年3月11日~4月7日には220件と有意に増加していた
(P<0.001)。また、2008~2010年の各年の3月11日~4月7日の発生数
は、それぞれ101件、100件、126件であり、2011年の方が有意に高かった
(P<0.001)。」

これらから2011年の大震災前後の1ヶ月を比較すると約1.8倍、2008年から
2010年の同じ時期と比較すると約1.8倍から2.2倍も心不全の発生が多かっ
たことが分かります。なお急性心筋梗塞と狭心症の発症は、6月以降はむ
しろ下がっており、心臓にトラブルを抱えた人の発症が「前倒しになった」
とも指摘されています。

さらに次の点も指摘されています。

「着目点の1つである沿岸部と内陸部の比較では、沿岸部の内陸部に対す
るオッズ比を調べたところ、肺炎で1.54(95%信頼区間:1.06-2.26)と
なり、沿岸部での肺炎の患者が有意に多いことも分かった(P=0.023)。」

これらから、記事ではこの演題へのコメンテーターの次のような指摘を掲
載して記事の締めくくりとしています。

「東日本大震災では地震に加え、津波の被害が甚大であったことから、被
災者のストレスは多大であったと推定される」と指摘。下川氏らの検討に
よって、「こうしたストレスは心不全の要因および増悪因子となりえるこ
とが示された。また肺炎が沿岸部で有意に多かった点については、津波後
の粉塵あるいは冬季であったことの寒冷も関連していると考えられ、この
ことが心不全増加に関与した可能性が高い」などと考察した。」

つまり、タイトルにあげられた心不全等々が有意に増加した原因を、津波
被害に求めているのですが、ここで示させている根拠は、沿岸部と内陸部
を比較した時、肺炎が有意に、沿岸部の方が多い(1.54倍)ことのみです。
心不全に関するこの点でのデータがないのが残念です。

さてこれらからどのようなことが導き出されるのでしょうか。一つには、
事実問題として、宮城県のデータとして、大震災の後の、心不全、急性心
筋梗塞、狭心症、脳卒中、心肺停止、肺炎の有意な増加があったというこ
とです。

その原因として、肺炎が沿岸部が内陸部に対して有意に多かったことから、
津波の影響が指摘されているわけですが、単純に考えても、寒い時期に
おこった津波による大被害が、被災者に大きなストレスを与えたことは想
像しやすく、これらがさまざまな症状の原因になっているという指摘は
うなづけるものです。

しかしそれだけだったのだろうか。宮城県南部にも大量の放射性物質が
降り注いだことを考えたときに、これらの数字は、放射能の影響によるも
のでもあるのではないかと考えると、津波被害と同じように、その可能性
も十分に考えられと僕は思います。バンダジェフスキー博士などが指摘して
いる、セシウムは心筋に集まりやすく、心臓の障害を引き起こしやすいとい
う事実と、心不全・心筋梗塞・狭心症・心肺停止の増加、とくに心不全が
増加したという事実が、ここで符号するからです。実際には、津波被害と
放射線障害が複合して、心臓のトラブルを発生させたことが多かったので
はないか。

しかし少なくとも記事から見る限り、分析者の側がこうした視点を持って
いなかったために、放射能の影響について、はっきりと、あった、なかっ
たと言いうるデータの取り方がされていないように思えます。ないしは
データはあっても、そうした分析が試みられていないのかもしれません。
(例えば宮城県内における放射性物質の降下が多かったところと少なかった
ところを比較するなど)


それらから、こうしたデータの処理・分析、東日本大震災における疾病状況
を解析するにあたっては、放射線障害の可能性を排除せず、それをデータ的
に検証する分析姿勢が求められます。そうした分析を進めれば、放射線障害
が初期から起こっていることが明らかになりうると僕は推論していますが、
あるいはその反対の結論が出てくることもありえます。それを含めて、
放射線のことを視野にいれた分析の必要性を強調したいと思います。

いずれにせよ、「にわかに健康に被害なない」という呪文を振り払い、実は
「にわかに健康に被害が出ていた」可能性を追求していく必要がある。
今回のデータは少なくともそのひとつの足がかりになると思います。

***********************

東日本大震災後に心不全が有意に増加、ACS、脳卒中も
日経メディカルオンライン 2012・3・20

東日本大震災では発災以降、心不全をはじめ、ACS、脳卒中などの循環器
疾患が有意に増加していた。特に心不全の増加は、過去の大震災疫学調査
では報告例がなく、東日本大震災の特徴の1つであることも浮かび上がった。
東北大学循環器内科学の下川宏明氏が、3月18日まで福岡で開催されていた
第76回日本循環器学会(JCS2012)のLate Breaking Clinical Trials
セッションで発表した。

下川氏らは、宮城県で救急車で搬送されたすべての患者記録を調査し、東
日本大震災の発災前後における循環器疾患の変動を明らかにした。加えて
東北大学循環器内科におけるデバイス植え込み患者および冠攣縮性狭心症
患者も対象に、震災の影響を検討した。

救急車搬送の調査は、2008年から2011年6月30日までを対象とした。対象
地域は宮城県全域だった。県医師会の全面的な協力が得られたこともあり、
宮城県内12消防本部すべてが協力に応じてくれたという。

調査期間中の救急車の出動件数は、合計で12万4152件だった(救急搬送例
の初診時診断率は56.2%)。この全例を対象に、心不全、ACS(急性心筋
梗塞と狭心症)、脳卒中(脳出血、脳梗塞)、心肺停止、肺炎の症例を調
べた。その上で、発災前後および同時期の過去3年間について、各疾患の
発生件数を比較検討した。

下川氏らはまた、今回の震災では津波による甚大な被害を受けた沿岸部と
津波の被害を免れた内陸部では事情が大きく違うと考え、沿岸部と内陸部
に分けた解析も行った。

解析ではまず、各年ごとに2月11日~3月10日と3月11日~4月7日の2期間で
各疾患の発生数を比較した。その結果、2011年だけが、3月11日~4月7日の
期間の方が2月11日~3月10日の期間より、心不全、ACS、脳卒中、心配停止、
肺炎のすべてが有意に多かった。例えば心不全は、2011年の2月11日~3月
10日では123件だったが、同年3月11日~4月7日には220件と有意に増加して
いた(P<0.001)。また、2008~2010年の各年の3月11日~4月7日の発生数
は、それぞれ101件、100件、126件であり、2011年の方が有意に高かった
(P<0.001)。

次に、2011年の2月11日以降、4週間ごとの週間平均発生数を追ったところ、
心不全は30.8件、55.0件、35.0件、31.0件、29.3件と推移していた。同様
にACSは8.25件、19.0件、9.25件、5.0件、10.0件、脳卒中は70.8件、96.5件、
82.0件、73.5件、62.5件、心配停止は49.0件、61.8件、46.0件、42.3件、
40.3件、肺炎は46.5件、89.3件、60.5件、45.5件、47.5件とそれそれ推移
していた。

過去3年間の週間平均発生数と比較すると、2011年3月11日~4月7日の発生数
は、調査した疾患すべてにおいて有意に多くなっていた。

なお、ACSにおいては、2011年5月6日~6月2日の発生件数が過去3年間の平均
週間発生数より有意に少ないことも判明。この点について下川氏は、「ACSの
予備軍が前倒しで発生した可能性がある」と指摘した。

着目点の1つである沿岸部と内陸部の比較では、沿岸部の内陸部に対する
オッズ比を調べたところ、肺炎で1.54(95%信頼区間:1.06-2.26)となり、
沿岸部での肺炎の患者が有意に多いことも分かった(P=0.023)。

このほか、デバイス植え込み患者および冠攣縮性狭心症患者を対象とした
検討では、不整脈(特に心室性)の増加が見られ、心臓再同期療法(CRT)
治療の効果の減弱や冠攣縮の増悪の可能性なども明らかになった。

この演題に対するコメンテーターとして登壇した秋田大学循環器内科の
伊藤宏氏は、「東日本大震災では地震に加え、津波の被害が甚大であった
ことから、被災者のストレスは多大であったと推定される」と指摘。
下川氏らの検討によって、「こうしたストレスは心不全の要因および増悪
因子となりえることが示された。また肺炎が沿岸部で有意に多かった点に
ついては、津波後の粉塵あるいは冬季であったことの寒冷も関連している
と考えられ、このことが心不全増加に関与した可能性が高い」などと考察
した。その上で、「今回の研究データは、災害時の循環器医療だけでなく、
災害を見据えた日常診療のあり方を考える上で重要な指標となりえる」と
評価し、コメントを締めくくった。
(日経メディカル別冊編集)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jcs2012/201203/524102.html
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