玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

これまでにわかったこと(2016.11/15) 

2016-11-01 01:40:15 | 生きもの調べ
11月15日に武蔵野美術大学で「玉川上水生きもの調査−これまでにわかったこと」と題して講義をしました。以下はその内容です。講義のあとに会場でよせられた質問はこちら、配布された用紙に書かれた感想・質問はこちら


講義をする高槻(棚橋早苗さん撮影)

今年の3月から玉川上水の生きもの調べをしてきました。これまでの調査では、プロジェクトリーダーである武蔵野美術大学の関野吉晴教授をはじめとする小口詩子先生ほかの先生方、「ちむくい」(ちいさな虫や草やいきものたちを支える会)のリー智子さんをはじめとするメンバーの皆さん、「チームぽんぽこ」の棚橋早苗さん(武蔵野美術大学非常勤講師)とそのメンバー、調査を快諾してくださった津田塾大学、小平市など多くの人々や機関にご理解、ご協力を頂きました。活動は今後も続きますので、ここまでのお礼を申し上げるとともに、今後ともよろしくお願いします。
 今日はこれまでにわかったことを報告します。内容は大きく、タヌキに関するものと玉川上水の特徴である細長いということに関するものに分かれます。

 私は玉川上水で動植物の調査をするにあたり、次のように考えました。よく「どこどこ山の動植物調査報告書」というのがあります。そこには動物や植物の専門家が調べて確認できたリストがあり、貴重なものが何種類あった、だから保護すべきだなどと書かれています。しかし、それらの生きものがどういう生き方をしているかに言及したものはごく限られています。これは、たとえてみれば小学校の先生が生徒の名前は覚えたが、子供ひとりひとりの性格や団体の中での言動などを知らないでわかったと言っているようなことです。そこで私はそうではなく、限られた動植物でよいからじっくりと調べることにし、その主人公としてタヌキをとりあげることにしました。
 そこでまず、細長い玉川上水に接してまとまった緑のある津田塾大学の狙いをつけて自動撮影カメラをおかせてもらいました。すると餌をおいたその日の夜にさっそくタヌキが現れた映像がとれ、あっけないほど簡単にこのことが明らかになりました。

自動撮影カメラ

撮影されたタヌキ

 次にタメフン場がみつかったので、そこにもカメラをおいたところ、糞をするタヌキも撮影されました。

 糞をするタヌキ

 そのフンを拾っては分析し、タヌキの食性の季節変化を調べています。


タヌキの糞と糞を洗浄したもの

 そうすると冬の終わりには哺乳類や鳥類が出てきますが、春になると一部の果実、葉などが増え、夏になると昆虫、秋になると果実という季節変化を示すことがわかってきました。この分析は現在も継続中です。


津田塾大学のタヌキの糞組成の月変化

 私はほかの場所でもタヌキのフンを集めて分析していますが、ときどき自分自身で「お前、なんだってこんなことをしてるんだ」というような思いが顔をのぞかせることがあります。そんな迷いもちらついていたときに、天皇陛下が皇居のタヌキについて、同じようにフンを拾って分析し、論文を公表されました。私はずいぶん勇気付けられました。それで次のような短歌を作りました。



 糞を分析すると、さまざまな果実が検出されます。そして、ケヤキ、ムクノキ、ギンナンはタメフンの周りからたくさん芽生えてきます。これはタヌキが種子散布をしているということです。このことからタヌキは果実を食べる、つまり自分のために栄養をとっているという現象を、植物からみると、果実を食べさせて実は種子を運んでもらっているとみることができることがわかります。重要なことは、このことでタヌキと植物がつながっていることの実体がわかったということです。このつながりを私は「リンク」と呼んでいます。


タメフン場に芽生えた実生(左はムクノキ、右はエノキ)


種子散布をタヌキの側と果実の側から見ると・・・

 ところで、タヌキが糞をすれば、それを利用する糞虫がよってきます。これもリンクです。これも糞虫からみれば栄養価の高い食物を食べるということですが、タヌキからみれば排泄したものを分解してもらっているということになります。これはタヌキにとってプラスということはいえないかもしれませんが、生息地の生態系の物質循環にとって重要であることは違いありません。
 そこで糞虫の生息を、馬糞と犬糞を使って糞虫トラップによって調べてみました。すると馬糞にはほとんどきませんでしたが、犬糞には確実に糞虫がきました。そのほとんどはコブマルエンマコガネという小型の糞虫でした。専門家によると、これは肉食獣の糞を好む糞虫だということです。


糞虫トラップ、トラップに入った糞虫

糞虫は実に魅力的な形をしています。

コブマルエンマコガネ、コブマルエンマコガネ(左)とクロマルエンマコガネ(右)のスケッチ

これによって玉川上水の生物多様性が確認できました。そこで、この糞虫の糞分解能力を調べたところ、5匹がピンポン玉ほどの馬糞を1日以内で完全にバラバラに分解しました。


コブマルエンマコガネによる糞の分解

このことを武蔵野美術大学の小口先生がすばらしい動画で記録されたので、会場ではその動画を紹介しました。

 糞虫については次の2点が課題となりました。
1) トラップあたり10匹ほどのコブマルエンマコガネがとれたが、この意味は?
 高尾のある山で同じ調査をしたところ、コブマルエンマコガネがやや多いだけでなく、センチコガネが数匹とれ、合計20匹ほどになりました。これから、玉川上水は高尾にくらべれば糞虫が少なく、しかもコブマルエンマコガネに偏っていることがわかりました。高尾の山にはイノシシやキツネ、サルなど玉川上水にはいない哺乳類がおり、質の違う糞を供給しています。糞虫の組成はそのことを反映しているものと思われます。


高尾と玉川上水での糞虫組成

なお、山梨県の上野原ではコブマルエンマコガネ、センチコガネのほか、その他のエンマコガネやツノコガネなどもいて、トラップあたり50匹もとれることがわかっています。


山梨県上野原を含めた比較

2)周囲の孤立緑地には糞虫はいないのではないか
 小平界隈には玉川上水のような連続緑地のほかに公園などの孤立緑地があります。孤立していれば生物多様性が小さいはずだから糞虫もいないと予想しました。しかし44箇所を調べたところ37カ所にはコブマルエンマコガネがおり、決して玉川上水が特別豊富とはいえないことがわかりました。


孤立緑地である公園の例。これよりは大きい公園もある。こんな公園にも糞虫がいた。


糞虫トラップで糞虫の生息を調べた地点(赤丸)


上野原、高尾、玉川上水と小平とその周辺での44箇所の糞虫組成

つまり糞虫は狭い緑地があれば生息しているということです。こういう緑地にはタヌキはほとんどいないので、イヌやネコの糞があるか、糞以外の動物の死体などを利用しているのかもしれません。また飛翔力もあるので、近所に林があればそこから飛来する可能性もあります。
 こうしてタヌキとタヌキに関連した生きものについて次の11のオリジナルな情報をとることができました。

津田塾大学には確実にいる。
タメフン場がある。
冬は哺乳類や鳥類、夏は昆虫、秋から冬は果実が主体。
種子散布に貢献している。
玉川上水には糞虫がいる。
糞虫の分解能力はすごい!
分解の段階で分解者が入れ替わるらしい(ここでは省略)
高尾に比べるとセンチコガネが少ない。
高尾も山梨に比べると豊富ではない。
玉川上水にはコブマルエンマコガネが生き残った可能性が大きい。
玉川上水は特別に糞虫が多いとはいえない。


糞虫について4月に講義をしたとき、聞いた人から次のような感想が寄せられました。
<4月の講義での糞虫についての感想>
- 虫嫌いの私が今日の糞虫の話でけっこう大丈夫になってきました。たしかに生きている以上、排泄と死体は存在し、分解の役割をになう小さな糞虫の仕事が生きもののつながりを維持しているんだなあ。カワイイではないか。
- 分解昆虫の分解のスピードなど、普通の観察では気づくことのできない内容だったので、興味ふかかった。機会があれば自分でも調査してみたい。


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