玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2018年9月の観察会

2018-09-16 21:31:54 | 観察会


 9月16日に観察会をしましたが、今回はいつもの鷹の台ではなく、小金井橋に集まりました。その訳を説明しておきましょう。玉川上水はいろいろな貌を持っていて、鷹の台界隈は良い林があるので、玉川上水は林のあるところという印象が強いですが、小金井は江戸時代から桜の名所ですから、サクラ以外の木は刈り取る管理をしています。そのため、明るい場所に生える植物が多いのです。その意味で、この観察会のメンバーが持つ「玉川上水観」のバランスを取るために、小金井を歩くのが良いと思ったのです。
 自宅から車で30分見ておけば良いと思っていたのですが、妙に信号が多く、小金井公園についたときは集合時間の10分前になっていました。ところが私の調べが不十分で駐車場から小金井橋までが距離があって5分ほど遅れてしまいました。大失敗でした。
 さっそく解説をすることにしました。例によって「出たとこ勝負」で、これはという植物があると、それを説明しましたが、記録としては少し順序を変えます。


歩く参加者

 一番多くの話をしたのはつる植物でした。つる植物としてはセンニンソウ、ヘクソカズラ、ヤマノイモ、アケビ、ノブドウ、ヤブカラシなどがありました。
「つる植物が多いのは玉川上水の1つの特徴です。それはなぜか。普通の植物は葉で光合成をし、生産物で自分を支える茎や幹に物質を配分して育ちます。だからできるだけ高くなろうとしますが、限界があります。その点、つる植物は自立しないで、すでにある他の植物などに絡まってスルスルと高くなり、光を受けられるところまで伸びます。十分な光が必要です。だから、林にはつる植物は少ない。一方、ススキ原のようなところは、明るくて光合成にはいいのですが、絡まるべき高い植物はない。その点、林縁は光もあり、木もあります。玉川上水は林と道路などが接している林縁がいたるところにある。これが、玉川上水につる植物が多い理由です。


森林、草原とつる植物の関係

 玉川上水は細長いので林縁ばかりと言って良い環境です。それが玉川上水につる植物が多いわけです。」

 「センニンソウはキンポウゲ科で、この科の花弁(実はがく)は普通5枚ですが、これは4枚です。純白でまとまって咲くので、私は玉川上水の冊子に<花嫁のブーケにしたらいい>と書きました。ヨーロッパ人はアブラナ科も4枚で、十字架をイメージするので好きだから、なおさら教会に似合う気がします。じつは、今日も何人か参加していますが、私たちは花マップという活動をしていて、玉川上水の主な花の分布記録を取っています。そのメンバーでオリジナルの秋の七草を選びました。秋の七草は平安時代の奈良の都で選ばれたので、同じものである必要はないわけです。そのトップがセンニンソウ でした。まだ早いですが、少し果実になりかけたのがあります。果実の先に冠毛があって、これが鳥の羽のようになって風に飛ばされるんです。これが白く輝くのが仙人の白髪のようだというので仙人草というわけです」
「ヤブカラシは空き地などにもよくあり、センニンソウ などと比べると人里的な性質が強いです。5枚の葉っぱがありますが、こういうのを複葉といい、小さい葉を小葉と言います。カエデの葉のギザギザの付け根に葉身がなくなって柄になっているということです」


ヤブカラシの複葉を説明する

 「ノブドウはまだ早いみたいですが、もうすぐすると水色や青や紫のいろいろな色の果実がなって、楽しい感じです。名前を知らなくても、なんとなく印象に残っている人がいるはずです」

 「これはエビヅルで、さっきのノブドウもそうだけど、ブドウの仲間で、ほら葉っぱもアダムとイブの葉っぱにそっくりでしょう。裏にビロードみたいな毛が生えています」
 「これにこの前、実がなっていたんですけど」
と、この辺りをよく歩いている安河内さん。実は少し先にあった株の間違いでした。それがあったので、
 「ほら、実もままごとのブドウみたいでしょう。中に入っているタネもブドウそっくりです」


エビヅルの果実

 「これ、わかる人いますかね?レースみたいで実に綺麗です。これは実はシダなんです。シダなのにつる植物がというのは珍しいことです。カニクサという名前もユニークです」


カニクサ

 「玉川上水ではよくフェンスにつる植物が絡まってます。この辺りはスッキリしていますが、刈り取りのときに地面の方で切ってしまったのだと思います。ほら、見ると枯れたものがあるでしょう。刈り取る前には絡まっていたんですね」


フェンスに絡まったつる植物

 「これを見てください。下にはツツジがありますが、それを覆ってヤブカラシ とヤマノイモとヤマブドウが、自分が上になろうと競い合っています」

 当日は系統的な説明はしませんでしたが、湿潤な気候の日本では植物にとって水は当然あるもので乾燥ちとは全く事情が違います。植物は十分に育つことができるので、問題は光の取合いということになります。つる植物はこういう環境でこそ出番があるわけです。光をめぐる熾烈なようすを垣間見る例がありました。
 「ここにツルボがあります。これも玉川上水の秋の七草に選ばれました。普通は高さがだいたい20センチメートルくらいですが、ここではこんなに(50センチメートルくらい)高くなっています。これは周りにアズマネザサが茂っているからで、この下では開花できません。それでこの花が持つ最大限の高さに背伸びして首を伸ばすように花をつけているわけです」
 ツルボのひたむきさを感じました。


「背伸び」するツルボ
 という具合につる植物の話題が多くなりましたが、その他の花が咲いているのがあると説明をしました。まずヒガンバナがありました。

 「ヒガンバナはまずこの真っ赤な花が印象的です。赤というのは太陽、火、血などを連想しますから、強烈な印象です。それが塊まって咲くからなおさらです。それに葉がない。だから、見ただけでこの花は何か特別だという直感を持ちます。しかもこれがお彼岸の頃に咲く。となると仏教的に特別なタイミングなわけです。<今年もあのおじいちゃんの供養をするときが来た>といった思いと、その時を知らせるように赤い花が咲くことで、特別な花という感じはさらに増幅されるわけです。


ヒガンバナ

 さっき紹介した花マップでは結果をまとめて冊子を作りました。内容は写真を組み合わせて解説を書き、データを取った分布をイラストで示し、そのページにスケッチと短いエッセーを描いてもらいました。その中にも子供の頃のお彼岸の思い出を書いた人が多いようでした。ただ関野先生のはちょっと違っていました。先生の方からちょっと紹介してください」と関野先生にふると、
 「ギアナ高地に行った時に、捻挫をして、処置が難しかったんだけど、ヒガンバナの球根をすって足の裏につけたら完全に治って、その後も再発していません」ということでした。


関野先生

 私は続けました。
 「じつはヒガンバナは目で見て園芸植物として優れていますが、昔の農家は飢饉の時の備えとして植えたんです。こういうのを<救荒作物>と言います。カキなどもそうだし、動物ではコイもそうです。ヒガンバナの球根はデンプンを含みますが、はそのままでは毒がありますから、水晒しをしてデンプンを食べたのです」


救荒作物の説明

「オリジナル秋の七草の話をしましたが、ヒガンバナは残念ながら8位でした。どうやら花マップのメンバーは強い印象の花よりも、楚々とした優しそうな花を好むみたいです(笑)」
 「オリジナル秋の七草では2位がススキでした。思えば不思議ですが、ふつうきれいな花といえば、華やかでカラフルな花を選ぶと思うんだけど、ススキは華やかさとは違います。こういうイネ科の花に美しさを見出すのが、貴族というのはわかるんですが、一般の農民がススキに美しさを感じて中秋の名月に愛でたという、日本人の美的感覚はすごいんじゃないかと思います」
 「ヤマハギがちょうど旬みたいです。奈良の秋の七草にも選ばれてますが、玉川上水の秋の七草でも選ばれました。他の6つは草本ですが、これだけ木本です」


ヤマハギの低木


ヤマハギで吸蜜するモンシロチョウ

『花札でハギと一緒に描かれている動物はなんですか?」
少し間があって
「イノシシ」
 「そう、イノシシです。イノシシは里山の動物だから刈り取りで維持されるススキ群落のような場所に出るハギとセットで描かれるのはとても生態学的にふさわしいんです。ではシカは何と一緒に描かれてますか?」
 「カエデ」
 「そうです。シカは奥山の動物だから森林にいるのがふさわしいわけで、カエデは落葉広葉樹の代表として描かれているわけです。花札はなかなか生態学的なんですね(笑)」
 「ナンテンハギがありました。この仲間はVicia属に属します。属というのは人の苗字みたいなもので、その中にいくつかの種があります。サクラはPrunus、スミレはViolaという具合です。植物の種の学名を覚えるのはとてもできませんが、有名はぞ属は知っておくと便利です。ヨーロッパ人は普通のおじさんでも族名を知っていることが多いので、会話をしていて属名を知っていると、<お前、植物好きだな>という感じで仲良くなれるんですよ。そのViciaですが、代表的なのはクサフジとかツルフジバカマなどで、花は爽やかな薄紫色で、葉は繊細な複葉で、小葉はごく遅い楕円形で、それが端正に並んでいます。全体として乗員な感じです。それに比べるとナンテンハギは花も葉もがっちりした感じで、葉は2枚しかありません。その形がナンテンの葉っぱに似ているからナンテンハギです。ハギというのはマメ科の総称です」


ナンテンハギ

 「ワレモコウがあります。これで花なんですね。しかもサクラなどと同じバラ科です。このつぶつぶの中に無数の花があって花弁は4枚なんですね。花もユニークだけど葉もユニーク、やはり複葉ですが、小葉は楕円形で荒いギザギザがあります。リーさんはこれをチンスコウに似ていると書きました。ワレモコウという名前も、なんだかおかしな響きで、一度聞いたわ忘れません。そして他に似たような名前がない。あれこれと個性的な花です」


ワレモコウの葉

 当日私は花の終わったツリガネニンジンしか見ませんでしたが、豊口さんは見つけていたようです。


ツリガネニンジン

 「今日も何人か参加しておられますが、私たちは花マップの活動をしています。玉川上水30キロを分担して橋と橋の間にこの花がないか探して、あれば撮影して記録をとっています。橋がおよそ100あって、選んだ<今月の花>も数十あるので、数千の区画に花が「あった、なかった」という情報が集まるわけです。それを冊子にしました。これは夏の花の号で、いまは秋の花を編集中です」

 秋の植物が咲いていると同時に果実もいくつか見られました。
 「あのねえ、観察会は解説をぼーっと聞くだけじゃダメですよ。今から配るので一人がひとつかじって見てください」
といってサンショウの実をかじってもらいました。


サンショウの果実

 「サンショは小粒でもピリッと辛い、というのはこのことです。ミカン科なので、ミカンの皮にあるように油滴を含んでいて、特異な匂いがします。もうすぐ立つと、中から黒い種子が出てきて、果実の赤とのツートンカラーになって目立ちます。葉っぱもこうやってたたくと、細胞が破れて、いい匂いがして、反射的にウナギが食べたくなるでしょ」

 「これはミズキ。枝が一ヵ所から出るのでテーブル状になります。この果実は今タヌキの糞からよく出てきます」


ミズキの果実

 「ということは地面に落ちるということですか?」
 「そうです。テンやハクビシンはよく木に登りますが、タヌキは登らず、落ちたものを食べます。取りにためてもらうイイギリとかピラカンサなどは冬までずっとついていますが、サルナシなどはボタボタと落ちます。イイギリなどは赤い色をしていて鳥が食べますが、サルナシなどは色は地味で甘い匂いがするので、哺乳類が食べます。ミズキはどちらも食べるけど、結構落ちるほうです」

 「これは玉川上水にもよくありますが、ヨウシュヤマゴボウ。外来種ですね。この黒く見える果実はお願いがあるのですがジューシーで水につけて潰すとびっくりするほど赤くなります」


ヨウシュヤマゴボウの果実

 「ケヤキの枝咲きについては私の友人がおもしろいことに気づいて論文にしました。枝先に果実がついていますが、これは一見、ただ落ちる果実と思いがちです。ところが黄葉しても葉は落ちず、この枝先が1つの単位として、その付け根が外れやすくなり、枝の先に葉がついて基部に果実があって風でくるくると回りながら遠くまで飛ぶ工夫をしてるんです。」


ケヤキの枝先

 「ヤマモミジがありました。これはよく知られていますね、果実には翼があって木から離れるとクルクルと回転して、風で遠くに飛ばされます」


ヤマモミジの果実

 歩いていたらアオギリがありました。アオギリについて、漢詩を思い出したのですが、うろ覚えだったのでスマホで確認して、ボードに書きました。


アオギリ

「少年老いやすく、学なりがたし。老いやすくの<やすい>は、食べやすいのやすいではないですよ。食べやすいは簡単にできるということですが、老いやすくの<やすい>は油断しているとすぐそうなるということです。一寸の光陰軽んずべからず。ちょっとの光陰、つまり時間は大切にしないといけない。ここまではよく知られていますが、後半がいいんです。池塘春草未だ夢さめず。昔の人は小さいものが成長して大きくなると信じていました。さざれ石が巖になるのもそうですし、草は低木になり最後は木になると思っていました。だからこれは、池のほとりに生えた春の草は、自分はこれから成長して何かやってやろうと夢を見ていたつもりなのに、ということです。階前の梧葉已に秋風。そうなのに、階前、つまり家の前の梧葉にはすでに秋風が吹いて色づき、落葉するときになってしまったということです。この梧というのがアオギリなんです。どうも私の話は横道に逸れてばかりいます」


少年老い易く学成り難しの詩を説明する

 小金井を散策したことの意味をまとめました。
 「今日は小金井を歩きましたが、小平とはかなり違うことがわかりました。玉川上水全体を見ると小平は林がよく発達していて、チゴユリとかアマナ、ヒトリシズカなどの森林の植物があります。小金井は桜の名所ですから、サクラ以外の木は間引きます。だから明るい場所に生える植物が多いわけです。この区画担当は植物に詳しい大石さん、カメラマンの加藤さん、まとめたりする能力抜群の安河内さんと強力なメンバーで、私などと違って見落としが少ないということもあるんですが、それにしても出現種が多いんです。それは草原の植物もあるけども森林の植物もあるんですね。実際、今日歩いて見てわかりましたが、柵の脇は強く刈り取られてます。刈り取りをしないと藪になり、やがて木本が優勢になります。だから草原の植物には刈り取りが必要なんですね。しかしここではフェンスの内側にある割と幅の広い平坦地は刈り取られていますが、上水に続く斜面があり、そこは刈り取りをしておらず、低木類や草本があり、つる植物も絡まっているという具合です。なので、ここには森林の植物も、草原の植物もあるのだと思います。
 桜の名所だから、桜を優先するというのは玉川上水に対する1つの価値観で、それはそれで良いかもしれませんが、玉川上水全体をそうすることには強く反対したいと思います。そういう明るい場所もあり、小平や井の頭のような暗い場所もあることが、玉川上水全体の多様性を高めているのだと思います」

最後に記念撮影をして解散しました。



写真は豊口信行さん、棚橋早苗さん、関野吉晴先生に提供いただきました。ありがとうございました。