玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2020年のマーカー調べ

2020-02-26 18:16:01 | ぽんぽこ便り
2020年のマーカー調べ

高槻成紀

 私が2016年くらいに津田塾大学でタヌキの調査を始めた頃、棚橋早苗さんが興味を持って「タヌキってどのくらい動くんですか」と聞いてきました。行動圏を調べるのは今では電波発信機というのが定石になっていますが、捕獲して機械を取り付けるのはかわいそうなので、ひと工夫しました。それは餌の中にプラスチックマーカーを潜ませて、タヌキのためふん場で回収するという方法です。タヌキは「ためふん」といってトイレを持っていますから、そこにいけば確実に糞が拾えます。餌の中に入れるマーカーの色や番号を決めておいて場所を特定すれば、そこからの距離がわかります。豊口さんの協力も得て、津田塾大学のタヌキはキャンパス内をかなり広く動き回っていることがわかりました。
 その後、タヌキが都市で生き延びるのはたいへんなことだなと思うようになり、私自身は町田市と相模原市で野生動物の交通事故を調べた経験があり、たくさんのタヌキが交通事故の犠牲になることを知りました。小平でも同じことは起きているかもしれないと思い、市役所に聞いてみましたが、そういう記録は取っていないということでした。ただ、交通事故が起きているのは確かなようです。
 そこでその証拠を取るためにマーカーを使えないかと思いました。津田塾大学の前には府中街道が走っていて、かなりの交通量があります。タヌキはここを横切っている可能性があります。府中街道をはさんだ雑木林にもタヌキはいそうな雰囲気で、探したらためふん場が見つかりました。そこで津田塾大学の外の玉川上水などにも餌を置いてみることにしました。
 しかしその餌はあまり食べられず、食べられてもマーカーが回収されることはほとんどありませんでした。それでもごく少数ですが回収され、府中街道を横切っている証拠を取ることができました。
 今回はその再挑戦として2020年2月17日に棚橋さんと豊口さんがマーカー入りの餌を置きました。今回は玉川上水の生き物を映像記録している水本さんも参加してくれました。


マーカーをソーセージに入れる棚橋さん(右)と撮影する水本さん


餌を木の根元に置く

 地図は以下の通りで、玉川上水の脇に新堀用水があり、府中街道が南北に走っています。津田塾大学はその東にあり、餌は7カ所に置きました。



2月19日に豊口さんがチェックしたら2カ所ではすべて食べられていたそうです。ただすべてがタヌキに食べられるとは限らず、この辺りにはネコもいてカメラを置くと写ります。それにタヌキはいくつかのためふん場を持っているので、必ずしも津田塾大に「裏口入学」してくれるわけではありません。
 
2月24日に日程調整をし、大学にも入構許可をいただいて、棚橋さん、豊口さん、関野先生、水本さん、高槻の5人でチェックすることにしました。
 津田塾大学の一番南にセンサーカメラをおいているのではじめにそれをチェックしに行きました。人が歩くショットが多かったのですが、タヌキが塀をくぐって入るところもちゃんと写っていました。


センサーカメラをチェックする

 キャンパス内にはためふん場は3カ所を確認していますが、ためふん2にはなく、ためふん1にはまずまずの量があったので、確保しました。
私が糞を拾っている時に、豊口さんの目が変わりました。何かを見つけたようです。豊口さんの手の先にはなんと1年前のマーカーがありました。
「よく見つけたね」
「よかったよかった」
「青の165番だ」
で、これは去年の4月にこの場所のすぐ南の玉川上水脇に置いたものでした。


ためふん1で見つかった青の165

それからためふん3に行きました。ここは最近、よく使われているところです。行くと十分な量がありました。


ためふん3を見る

 私は常備している「タヌキの糞回収キット」つまり割り箸を取り出してポリ袋に入れました。



タヌキの糞を回収する

 ふと見るとセンダンの種子がありました。新発見というわけではありませんが、珍しいといってよいと思います。タヌキが食べる種子としては大きめの方です。他にもカキノキとギンナンがありました。


センダンの種子

「<栴檀は双葉より芳し>って知ってる?」
「いや」
「そうか、知らないんだ。<トウが立つ>は?」
「それはなんとなく」
「うら若い女子学生に聞いて知らなかったので、説明するのがビミョーだったことがある」
(笑)
「センダンはね、大きくきれいな薄紫の花を咲かせ、葉っぱは良い香りがするので、名木とされているのね」
「へえ」
「その双葉、種子から生えた芽生えでも - 当たり前だけど - いい香りがするわけだ。だから立派な人になる人は子供の時からちょっと違うというわけだ」
「なあるほど」
などと雑談をしていると、棚橋さんがオレンジ色マーカーを見つけました。


見つかったオレンジの131番

そうしていたら豊口さんもまた見つけ、しかも3枚でした。マーカーはオレンジの131、青の137, 138, 147でした。


ためふん3で見つかった4枚のマーカー

 作業は終わったので、今後のことを少し相談したいと思いました。祝日なので食堂は空いていませんでしたが、テラスにテーブルがあったので、そこで話すことにしました。


津田塾大学の食堂のテラスで

 そこで解散としました。私は玉川上水で花の観察をすることにしましたが、棚橋さんと豊口さんは拾った糞を水洗してマーカーチェックをしたそうです。結構の量があったので、大変だったと思います。前の時は全く見つからず、ずっと時間が経ってから偶然見つかるような頻度でしかなかったので、あまり期待はしていなかったのですが、なんと1枚見つかったとのことで、棚橋さんから嬉しそうな連絡がありました。


タヌキの糞を水洗する


マーカー発見!


回収されたマーカー

まとめると
タメフン1
青165(2019.4津田塾大南の玉川上水。果実に入れた)

タメフン3
オレンジ131(2018.12/30津田塾大構内。ソーセージに入れた)
青147、青137、青138 (2018.12/30津田塾大南の玉川上水。ソーセージに入れた)
179緑(2020.2/17津田塾大南の新堀用水2つめの橋。ソーセージに入れた)
 だから、残念ながらこれらは府中街道を横切った証拠にはなりませんでした。

1週間ほど経ったらまた回収することにしました。

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高槻成紀(生態学者、麻布大学いのちの博物館)
関野吉晴(探検家、医師、文化人類学者)
水本博之(映画監督)
豊口信行(NPO自然環境アカデミー職員)
棚橋早苗(武蔵野美術大学非常勤講師、デザイナー)



2020年2月の観察会

2020-02-10 10:43:05 | 観察会
2月9日に観察会をしました。寒くはありましたが、明るくて青空の日でした。この季節は花には早い、果実には遅いで、植物が乏しいので鳥の観察をすることにして、鳥に詳しい大出水幹男さんを講師にお願いしました。


大出水さん(左)

 鷹野橋から上流にゆっくり歩きました。マユミやノイバラの果実が少しありましたが、マユミは種子はなくなっていました。


マユミ


ノイバラ

 鳥の所在は声で判断するそうで、大出水さんからはカラ類の混群の話がありました。今の季節にはシジュウカラ、エナガ、ヤマガラ、コゲラなどが群れを作るそうです。その意味については色々見解があるようです。エナガがいたので、双眼鏡で確認しました。羽の一部に紫色が見えてきれいでした。



 それからコゲラもいました。確かにキツツキで、木の幹をトントンと叩いていました。そのコゲラは4メートルほどの高さの木の枝にある薄茶色のものをしつこくつついていました。カマキリの卵かという声がありましたが、木の高さが高すぎると思いました。蛾の繭の可能性が大きいと思いました。





 ゆっくり進んでは解説を聞き、しばらく上を見るということを繰り返しました。






しばらく行くとカラスがいました。ハシブトガラスでした。カラスはあまり良いイメージがなくてどちらかといえば迷惑な鳥とされがちですが。大出水さんは大好きだそうです。
 私が東大にいた時、教授の樋口広芳先生と研究室を運営していました。先生は鳥の大学者で、カラスは研究対象の一つでした。私が仙台にいた頃、同じ大学宿舎の心理学の先生が、
カラスが信号のところにクルミを置いて、自動車に引かせて割れたクルミを食べるというおもしろう現象を発見していました。樋口先生は「鳥の遊び」に関心があり、一緒に共同研究をしていました。その時、私は金華山でカラスがおかしな遊びをするのを観察していました。調査で山から降りてきて足が疲れているので、神社で一休みしていた時です。芝生に横になっていたシカが慌てて立ち上がりました。どうしたんだろうと思ってみていたら、なんとカラスがシカの背中にシカの糞粒を載せるのです。どうするのかとそのままみていたら、今度はその背中に乗りました。そうしてその糞を改めてくちばしで挟んではなんとシカの耳に入れたのです。それで、またシカは嫌がって立ち上がりました。
 こんなことをしても、カラスにはなんと得もないし、シカが嫌がるだけです。人間的にいえば、カラスはシカが困ることをして楽しんでいるとしか思えませんでした。そのことを樋口先生は大変おもしろがってその写真をぜひ使わせてくれということでした。
 先日、2月20日に民放テレビでカラス特集をするので、そこで使わせて欲しいと連絡がありました。

 大出水さんは日本自然保護協会の自然観察指導員の資格をお持ちで、色々資料も持参してくださいました。玉川上水に多い鳥のトップ4はキジバト、ハシブトガラス、ヒヨドリ、シジュウカラだそうです。鳥の写真やこういうデータをファイルにして説明してもらったのでよくわかりました。
 そんな話をしていたら、大出水さんが何かを見つけたようでした。聞くと「アオゲラです」ということでした。そちらを見ると確かにいました。



アオゲラ

 私がBBCから津田塾大学のタヌキの取材を受けた時、キャンパスの木にアオゲラがいて、スタッフは大喜びでした。ヨーロッパにはいないのでそうです。Green woodpecker(緑のキツツキ)と呼んでいました。その時はメジロにも喜んでいました。こちらはそのままwhite-eyeでした。

 この観察会はいつもゆっくり歩くのですが、今日はまた格別でした。鳥がいるとそこでじっとして樹上を見上げて説明を聞くので、なかなか進みません。私は歩かないと寒くてかなわないと思い、少し先を歩きました。上水公園のところでUターンして今度は南側を歩くことにしました。キヅタの果実などがありましたが、ムラサキシキブなどはすっかりなくなっていました。イヌシデは葉の芽も花の芽も膨らんでいました。


キヅタ


イヌシデ

 またヤツデの花や果実がありましたが、いくつかのものは果実がなくなっており、ヒヨドリがよく食べるそうです。


ヤツデ

 大出水さんがこの数年で増えた鳥、減った鳥の話をデータとともに説明してくださいました。それによるとヤマガラは増えたそうです。私もエゴノキの果実を食べるのをみたことがあります。逆に減ったのはドバトとコゲラだそうです。その原因ははっきりしないものの、オオタカが増えて食べられるようになったのではないかということでした。オオタカといえば、少し前には食物連鎖の頂点にいる「頂点捕食者」として、オオタカがいれば開発工事などが許可されないので、環境アセスの大きなポイントになっていました。ところが最近は都市でもオオタカが増えたということを聞きます。理由の説明は諸説あるようですが、大出水さんによると都会で餌になる鳥がいることを学んだのではないかということでした。かつてオオタカがいた奥山に行ってもいないことがあるそうです。
 またオオタカやツミが鳥を攻撃して死体を出すので、それを使ってエナガが巣の材料に使うのだそうです。この辺り、自然の生き物のつながりというのは実に複雑だと思いました。



 長年観察して記録をとっていると鳥の時間的変化が分かるようです。森林は確実の育っています。下に生えるアオキやヤツデなどの常緑低木や、マユミ。エゴノキ、ムラサキシキブなどは藪を作っています。そういう変化は鳥に影響するはずです。武蔵野台地と狭山丘陵で森林の変化と鳥類の関係を調べた論文ががあります(こちら)。それによると雑木林の管理がされなくなって常緑樹が増えたため、ヤブサメやメジロのようなそういう環境を好む鳥類が増えたとされています。

 最後に鷹野橋に戻って解散としました。
「今日は普段見ない鳥のことが大出水さんの解説で勉強できました。特に珍しい鳥がいたわけではありませんが、こうして地道にデータを取ると、年変化も示すことができます。私たちは花マップを2年ほどかけて作りましたが、そこには今記録しておけば、例えば10年後に<えっ、ここにこんな花があったの?>とか<今たくさんあるのに、昔は少なかったんだ>とかいうことがわかるわけで、同じ考えだと思います。その意味で、改めてこういう地道な調査が大切だと思いました。大出水さん、ありがとうございました。」

写真の多くは豊口さんによるものです。特に鳥の写真が素晴らしいですね。