玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2019年2月10日の観察会

2019-02-10 22:51:33 | 観察会
2月10日の朝はこの冬で最も寒かったと思います。朝起きたらうっすらと雪が積もっていましたが、9時頃には溶けていました。昨日は北海道ではマイナス30度を下回ったと報じていました。
 しかし快晴で眩しいくらいの日差しでした。去年は雪の朝に津田塾大学で「発見」がありました。雪が降るとタヌキの足跡が残るので前の夜のタヌキの動きが確認できます。実際、うまくいきました。それと、柵をくぐってタヌキが出入りする場所も見つかりました。そのことを思い出して、いつもなら事前に了解をもらうのですが、津田塾大学に行って、一応入れないかを伺いましたが、入試が終わって採点をしているので遠慮願いたいということでした。
 そこで玉川上水に行って冬芽のスケッチをすることにしました。
「そもそも植物にとって冬は危険な季節です。地球が暖かった時代は植物は一年中葉をつけて光合成をしていました。しかし乾燥したり、寒い季節が生まれると、備えをしていない植物は死に絶えてしまいました。備えをした植物というのは草本として枯れてしまい、種子や地下茎で冬を乗り切りました。木本では葉をつけて寒さで枯れる危険を避けるために、葉を落とすものが現れました。それが落葉樹ですが、常緑樹は葉を落とさないかというと落とします。落とさないのではなく、秋に落として春に葉を出すということで、常緑樹は冬に葉をつけていても、春には落とすという意味では「落葉樹」と言えます。
 さて、その厳しい季節である冬を乗り越えるには翌年の若葉を守るために覆いをするものがあります。その覆いもいろいろありますが、玉川上水に多いコナラやクヌギは魚の鱗みたいな丈夫な芽で覆っていて、これを「芽鱗」といいます。


コナラの芽鱗


 それに対して、ここにあるムラサキシキブは覆いがなく、芽が露出しているので、「裸芽」と呼ばれます。びろうどのような微毛が生えていますから、それで防寒対策になるのかもしれません。


ムラサキシキブの裸芽


 この2つを比べながらスケッチしてみてください」
 寒いと思っていましたが、その頃になると太陽も高くなって寒さも和らいで来ました。

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 スケッチを進めてもらう中、カエデやクサギ、それにウグイスカグラなどにも気づいたので説明した。
「カエデは多分ヤマモモジですが、対生します。芽も枝も赤みががりますね。クサギは芽鱗痕と言って、芽が落ちた痕がが残るのですが、導管かな、その痕が人の目みたいで可愛いです。それと、ウグイスカグラはもう花が伸びていて、王すぐ咲きますね。目にも葉の芽と花の芽があるわけです」
ウグイスカグラは後で咲いているものにも気づきました。


カエデの1種


クサギの芽鱗痕


ウグイスカグラの花


 しばらくスケッチをしてもらいました。


おもいおもいにスケッチをする


スケッチするお東内さん


東内さんのスケッチ


スケッチする棚橋さん




棚橋さんのスケッチ


スケッチする中塚さん


スケッチする木村さん


木村さんのスケッチ


足達さんのスケッチ


スケッチする高槻


高槻のスケッチ


 寒かったのですが、この頃になるとポカポカと言っていいくらいになってきました。



 皆さん一通り描いたようだったので集まってもらいました。
「美大関係者や学生さんもいますのではばかられますが、私なりのスケッチの描き方をお話しします。私は子供の頃から絵が好きでよく描いていましたが、我流です。鉛筆で線画を描くだけでしたが、退職するときに学生が水彩色鉛筆をプレゼントしてくれたんですね。それで植物などを描くようになり、色をつけることの楽しさも感じながら自分なりに工夫しています。

 いくつかコツがあると思います。まず、すぐに描くのでなく、じっくり眺めてどこに特徴があるか、その特徴はどこから来ているのか、そしてそれをどう表現するかを決めてから描くようにしています。そして描くときに、どちらから光が当たっているかを意識することです。この場合、右から光が当たっているので、薄く、左側は影になるので強く、暗くします。そうすると立体感が出ます。それから枝のような細い平行線を描くときは注意が必要です。1本目はさっと引けばいいんですが、人間の目は平行であることを鋭く捉えますから、2本目が1ミリの何分の1でもずれるとおかしいと見抜きます。特に植物は先に行くほど細くなるので、先が太いと「ありえない」と感じてしまいます。だから、2本目は慎重に引く必要があります。それと、植物の持つ色というのは特に冬には鮮やかな原色というのはありません。茶色は赤や黄色や黒なども混じった色ですから、そのものの色は色鉛筆にはありません。だから、その色を表現するにはいくつかの色を重ねます。例えばムラサキシキブの裸芽は全体が灰色で、ベージュ色と薄い緑が混じっているように見えます。私の場合は、渋目の色を下に塗り、その上に鮮やかな色を重ねるようにしています。渋目の色を隠し味にするわけです。それから水彩色鉛筆の場合は、パレットの上で色を混ぜてから紙に載せることもあるし、紙の上で重ねてから筆で水を加えることもあります。
 今日のように、部分を描くときは、一つ一つのスケッチよりも、同じページにいくつか並べることで生まれる楽しさもあります。棚に並んでいるような楽しさがあるし、比較ができるという良さもありますね。今日は4つを並べてみました」



 専門家が聞けば検討外れかもしれませんが、私なりにスケッチで体験したことを話しました。このあともう少しスケッチをしてもらいましたが、中塚さんが描いたものを見たら、ちゃんと陰影がついていて見違えるようによくなっていて、驚きました。デジカメが普及してパッと撮影できる時代に、なんで昔ながらの時間もかかる非効率なスケッチを、と思う人がいそうですが、私はそうは思いません。スケッチをするためには対象物をよく見ます。カメラは便利ですが、便利なだけに、よく見なくなると思います。便利になってパシャパシャ撮影することで植物をよく見なくなるとしたら、それは退歩です。それこそ時間を無駄にすることだと思います。

「退職してから動物や植物のスケッチをするようになりましたが、最近カミさんが「あなたの絵ってわかるようになってきたわ。スタイルが出来てきたんじゃない」と言ってくれました。生物的には正確に描くようにしていますが、それと生き物に対して「ああ、頑張って生きているね」というレスペクトの気持ちを込めるような気持ちがありますが、それですかね」




説明をする

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「今日は冬芽のスケッチをしました。冬になると植物は何もしないでじっと耐えているように思いますが、そして、それはある程度正しいのですが、植物がいろいろ工夫をして冬を乗り越えようとしていることはわかるし、このくらいの時期になると、春の動きが始まっていて、植物は1日も休まないということがわかります。芽が膨らんで内側から押すと芽鱗がパラパラと落ちます。この枝先に芽が数個がついていて、その1個に多分n数十枚の芽鱗がついていますから、一枝で何千の芽鱗が落ちるはずです。1本の木にはこの芽が何万もあるのですから、天文学的な数の芽鱗が落ちることになります。そしてコナラの場合、新芽がビロード状の産毛を持っていますから、緑が銀色のような感じになりますが、その若葉が林全体を覆うので、全体に白っぽい緑になります」
「今日は樹木の話をしましたが、最近ドイツの森林官という人が書いた『樹木たちの知られざる生活』という本を読みました。冒頭でその人が書いていたのは、ブナ林に岩のようなものがあったけど、それは岩でなくブナの「死骸」なのだが、確かに生きているというんです。そして調べてわかったのは、ほかの木と根でつながっていたというんです。しかもブナはブナとつながっているということでした。ではなぜ木はつながってほかの木を助けるのかというと、木というのは1本では雨風を受けたりして大変だけど、一緒に生えていれば環境が緩和されて安全だというのですね。「なるほど」と思う話で、驚くようなことがたくさん書いてあります」
棚橋さんが
「キリンに食べられた木が周りの木に教えるというのを聞いたことがあります」
「そうですね。私はアラスカのカバノキがうサギに食べられると危険物質を発して、ほかの木に伝え、そうするとほかの木がウサギに食べられない物質を増やすという論文を読んだことがあります」
「それからドイツの林学では樹木に対して「教育」ということばがあって、若い木は暗い林で育つんだけど、その時に太くなれないので、一見成長は悪いんだけど、細胞が詰んでいて、大きくなっても折れにくいんだそうです。明るいところでぬくぬくと育って太くなってしまった木の方が弱いんだそうです。そういう面白い話がたくさん書いてあります」
まだ読み終わっていないのですが、お薦めの本なので紹介しました。

「これからも原則第2日曜日に観察会をします。来シーズンは少し内容を変えたいと思いますが、ささやかに続けたいと思いますので、興味あれば参加してください」



 いつもながら豊口さんが撮影をしてくださいました。ありがとうございました。