玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2018年7月の観察会

2018-07-08 20:44:10 | 観察会
西日本では記録的な豪雨で大災害になりました。天気を心配して訪花昆虫の調査は中止にし、津田塾大でタヌキの糞からマーカーを取り出すことに変更しました。ところが蓋を開けてみたら、良い天気になりました。
 例によって鷹の台に集まり、少し説明しました。

 津田塾大界隈にタヌキが住んでいるのは確認できています。府中街道は結構な交通量がありますが、ここをタヌキが横切っていることがマーカー調査で確認されました。マーカーというのは小さなプラスチックで、色の違うものを玉川上水沿いにおきました。もしタヌキが食べてキャンパス内のタメフン場で糞をすればマーカーが回収され、街道横断の証拠が得られます。


豊口さんが作ったマーカー地図


 こういう道路ではきっと交通事故の犠牲者もあるはずです。私たちはこのことを考えることを大切なことだと考えています。都市に生きるということはもともとそこに行きていた動植物に迷惑をかけることで、それは仕方のないことではあるけれども、だからと言って何をしてもよいということはないと思うんです。残されたタヌキのために活動をしたいと思っていますが、そのためには確かな事実を捉えて、それを市民や子供に知ってもらうことが必要だと思います。今日の作業はそれに繋がっています。

小平市中央体育館のところを東(下流)に歩いて津田塾大を目指しました。用水で男の子が魚とりでもしようとしたのででしょうか、網を持って水面を見ていました。



今は花の乏しい時期だったので、津田塾大学の久右衛門橋のところでノカンゾウが咲いていたので、少し説明しました。



 「さっき説明したヒメヤブラン もそうでしたが、ノカンゾウもユリ科に属します。ユリ科の花は基本数が3です。6枚に見える花ビラは、実は3枚の花弁と3枚の顎からできています。ユウスゲとかニッコウキスゲなどと同じ仲間です。あそこにヤブミョウガも咲いていますが、こういう明るい場所では、さっきまで歩いてきた林の下と違って光が当たるので、草がたくさん生えます。ここにヤマノイモが咲いていますが、これもこういう場所によくあります。玉川上水は林と明るい場所が繰り返すので、林の植物と草原の植物の両方があって、多様性が高くなっています」


ヒメヤブラン


ノカンゾウ


ヤブミョウガ


ヤマノイモとマメコガネ


 それから津田塾大の正門で入構の了解をもらいました。はじめに玉川上水側に置いたセンサーカメラのところに行きました。


センサーカメラ


 「1月下旬に東京に珍しく雪が降りました。雪が降ると動物の足跡がわかるので見にきたらこの辺りにタヌキの足跡がたくさんありました。その時はここにはなかったのですが、その他とで豊口さんがここの柵の下を動物が通り抜けているあとがあるのに気づきました。それでここにセンサーカメラを置いたらタヌキが写りました。それから時々カメラのチェックにきています。このくらいの隙間があれば動物は通り抜けられるんですね。タヌキは背中を仰け反らして、腹をするようにしてくぐり抜けています。」
鈴木さんが効きました「センサーカメラは研究用に作られたんですか?」
 「いや、アメリカのハンターがここにシカがいるかどうかを確認するためなんです。ハンターがたくさんいるから、需要があり、量産できるんです。日本の技術からすればもっといいものができるはずですが、需要がないんですね。だからアメリカのを買うことになる」
「センサーカメラは温かいものが動くことでセンサーが反応してシャッターが落ちるのですが、リスなどの小型で素早い動物の場合、センサーが感知してシャッターが落ちる間に逃げてしまってシャッターが落ちた時には動物はいないということがあります。これは感度がいいのでちょっと高いんです。今は防犯カメラが出ていて1万円以内でもあるみたいで、人やタヌキならそれでも大丈夫だと思いますが、やっぱり動物がいても写らないということが多いみたいです」
 ノートパソコンにデータを出してみると、タヌキとハクビシン、それに少しですがネコが写っており、参加者から歓声が上がっていました。


撮影されていたタヌキの写真を見る


タヌキ

ハクビシン

ネコ

 やはり自分がいるここにタヌキがいたんだという実感が感動を呼ぶのだと思います。

 それから東側にあるタメフン1に行きました。8月下旬に来た時は数個の新しい糞があって分析に使ったのですが、今回は残念ながら糞虫が分解したみたいで「まともな」糞はありませんでした。



 それでもなんとか2箇所でサンプリングしました。
 ポリ袋の結構大きいものがありました。


タメフン場にあったポリ袋

 「時々ポリ袋や輪ゴムが出て来ます。ただ、里山地帯に比べるとここは市街地に囲まれている割にはあまり出て来ません。食べ物は割合豊富だということだと思います」
棚橋さんが「これって、食べたものが出て来ているっていうことですけど、ウミガメなんかの死体の胃袋から出て来たりしますが、そういうことはないんですか」
「それはわからない。糞に出て来るからと行って胃袋にないとは言えない。ただし、町田の方で交通事故死体の異内容物を分析した時は出て来ました。それからシカの胃の場合は、大きな塊が絡み合って胃から腸に出るところに詰まるようになっていました。あれは体に悪かったと思います」
 あとで鈴木さんが言いました。
「ポリ袋ですけど、ちょっとショックですよね。子供にゴミを捨てるなと行っても街をきれいにするためというのでなく、タヌキにこういう悪い影響があるというように教えたらいいと思うんですけど」

 タメフンにはムクノキ やカキノキの実生が芽生えていました。これも先月よりは少なくなっていましたが、みなさん興味を持っていました。


カキの実生(左)とムクノキの実生


 「双子葉というのはソウシヨウと言いますが、ソウ(双)とシヨウ(子葉)で子葉が2枚あるということです。フタバですね。一つとって見ますね。これはムクノキの実生ですが、このウサギの耳みたいに2枚あるのがフタバで、上にあるのは本葉です。フタバは淵にギザギザなどがなく、本葉とは全く違うので、本葉がないとわかりません」
 そうだよね」
 「ところがね、林業関係の人でむちゃくちゃ木を知っている人にはフタバを見て名前がわかる人がいろんですよ。深い世界があるもんです」
ここにもセンサーカメラを置いているのでデータを見たところ、少しですが、タヌキが写っていました。だから、来て糞はしているが、糞は分解されてしまったということです。ではタメフン3に行きましょうか」

 林から出て待っていましたが、関野先生たちが実生の撮影をしているらしくしばらく出て来ません。待っていたところに梅の木があり、棚橋さんがその下にあったウメの種子を見つけました。
 「これもタヌキの糞から出て来ました。津田梅子のゆかりとしてお墓の横に梅を植えたようですが、その梅の実をタヌキが食べていると思うと、なんだか不思議な縁で梅子先生とタヌキがつながっているみたいでおかしい」
 そうこうするうちに関野先生たちが出て来ました。その時、ある参加者が
「これはクヌギのドングリですか」
 と小さなドングリを拾って言いました。
 「はい、これから大きくなろうとしているものですが、落ちたみたいです。このトゲトゲはナラの帽子とクリのイガの中間的なものという見方があります。シイのドングリの帽子は横筋があるだけで、ナラのものはうろこ状ですクヌギになるとこのくらい長くなりますが、触って痛いというものではありません。クリになると針になるわけです。
 ところで、こういう小さいドングリになりかけのものを植物学ではabortionと言います。abortionって知ってますか?」
 「・・・・」
 そこに関野先生が合流して
 「流産」
 「そう、いやなことばですが、ドングリにならないうちに母樹から落ちるのをabortionを言います。生まれる前に死ぬということですね」
 その後、林の下で前に確認していたマヤランを見いに行きました。花の時期は終わったみたいで、黒くなったものが多くなっていました。


マヤラン


 その後グランドを横切りました。



 「普通の日に来ると学生さんがラクロスとかテニスをしているので、恥ずかしくて向こうをぐっと回って来るんですが、今日は日曜日でいないので横切ります」
と言ったらみんなが笑いました。
 タメフン3に行ったら、タメフン1以上に糞がなく、完全に分解し、古い糞の毛がフワフワと塊になっていました。糞虫が分解したということもありますが、このところ続いた雨が洗い流したような感じでした。


タメフン場を確認する

 というわけで、想定していたマーカーの回収はもとより、糞そのものもまともに採集できずに終わりました。
 ま、こういうこともありです。

 グランドの脇にある流しでタメフン1の2つの糞を水洗したら、ミズキ、ムクノキの種子、哺乳類の毛、カニの甲羅、哺乳類の骨などが出て来ました。





 「この季節、裏高尾のタヌキの糞を送ってもらって分析していますが、キイチゴやヤマグワの種子がたくさん出て来ます。そういう意味では津田のタヌキは普通のタヌキが雑木林の低木果実を食べているのに比べると林が暗いからそういうものを食べないのが特徴の一つです。何と言っても秋のギンナンとカキで、夏のムクノキ とエノキの実も重要です。さっき、ミズキやムクノキの種子が出て来ましたが、あれは去年の秋のものです。落ちているのを探して食べるんですね。
 これはテンと大きく違います。高尾でタヌキとテンの食べ物を比較したんですが、テンはその実が旬の時しか食べません。カレンダーでいうと、この月にはこれという果実が次々と入れ替わって行きます。これに対してタヌキは少し遅れて食べ始め、冬までどころが次の春や夏までダラダラと食べ続けます」


津田塾大の中庭で記念撮影


 そのあと大学を出て、府中街道の向こうにある雑木林のタメフンの確認に行きました。ここは冬には利用されていましたが、このところ糞がないのであまり期待はしていませんが、確認のために行きました。やはりありませんでした。この林はアオキが密生し、普通の雑木林とは印象が違います。
 「よく雑木林の価値が見直されて、雑木林を守りましょうと言います。その時の<守流>というのは、ブナ林などのような自然度の高い林にはいいのですが、雑木林はつねに人が入って焚き付けの柴刈りをしたり、山菜をとったり、枯葉を拾ったりという集約的な管理をした、明るい林だったのです。だから、この暗い林は本来の雑木林ではあり得ないものです。下を見てください。ほとんど植物がありませんね。雑木林はこうではなく、スミレなどがたくさん生える明るい林です」



 林から出て
 「今日は期待していたタヌキの糞が見つかりませんでしたが、まあ自然相手ではよくあることです。ということでここで解散にします」

 入構の許可をいただいた津田塾大、写真を提供いただいた豊口信行さん、棚橋早苗さんに感謝します。

モグラのマッチョ

2018-07-03 04:20:27 | 生きもの調べ
「うちのネコがアズマモグラをとってきた」と言う死体を手に入れました。体重は74グラムありました。毛はビロード状ですばらしく滑らかです。



 皮を剥いで、驚くべきものを見ました。胸の筋肉の凄さです。まるでボディビルダー。ムキムキのマッチョです。この筋肉で前肢を動かす力を出しているわけです。モグラがいかに土を掘ることに特化したかよくわかりました。



 もう一つ印象的だったのは目の小さいことです。実は観察が足りなかったのですが、顔を見たとき、目の存在に気づきませんでした。



 皮を剥ぐと、ごく小さな黒い点が見えました。



 普通の眼球とは違い、レンズ、ガラス体、網膜などがあるとは思えず、視神経があるだけと言う感じです。トンネルの中で暮らすモグラにとって視覚がどれだけ必要かわかりません。ほとんど見えていないのではないでしょうか。