玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

知りたいから調べる

2017-02-10 04:26:38 | 生きもの調べ
  私は前の節で自分の調べたことがタヌキの保全に役立てばうれしいと書きました。それはまちがいないのですが、調査がそのためだというのなら、それはちょっと違います。確かに自然保護や生物多様性保全を実践する上では調査の成果はとても重要です。こうした活動はときに政治的なイデオロギーと直結することもあるし、市民運動としての側面があって保全そのものが目的になることもあります。あるいは環境教育という文脈で子供に自然を好きになってもらうよう導くことを目的とする流れもあります。私は調査がそういうことに役立つから大切であることを認めた上で、自分が行うのは少し違うと思っています。
 私は半世紀ものあいだ動植物を観察し、生物学を学びました。そうして感じることは、生き物というのはなんとよくできているのだという驚きです。そして、そのことを知ったときにはすばらしい感動があります。小さな葉一枚でも、昆虫の脚一本でも、細かく見ればさらにその中に微細な作りがあり、しかもそれがすべて意味をもっています。初めはその意味がわからなくても、調べてわかったときに深い感動があります。その感動こそが私が生き物を調べることの原動力になっています。好奇心といってもよいかもしれませんし、センス・オブ・ワンダーといってもよいでしょう。その生きもののすばらしさを、画家は絵で、音楽家は音楽で表現しますが、私はそれを自然科学的な手法で表現したいと思います。それが感動を伝える一番よい方法だと思えるからです。
「これはなんという草なのだろう?」
という疑問から始まり、誰かに名前を教わることがあるでしょうし、図鑑類で知ることもあるでしょう。それを繰り返していると、似た植物、違う植物がわかるようになります。そっくりなのに微妙に違うとか、違う場所に行って、見慣れているものとよく似ているものに出会って興味を持つこともあります。

 生き物への興味の持ち方と、そこからの展開について考えてみましょう。
「この花の仲間関係はどうなっているのだろう?」
という興味は分類学へ向かっているといえます。
 私たち日本人はサクラが好きで、春には花見を楽しみます。多くの人は
「きれいだな。サクラはいいな」
と感じ、大人になればサクラの下で酒宴を楽しみます。そういう人にとってサクラは酒を楽しむための背景ということになります。短命なサクラに、人生のはかなさを感じる人もいるでしょう。
 でも中にはサクラに植物学的な関心をもつ人もいるかもしれません。サクラにもいろいろあることは誰でも知っていますが、
「ウメはサクラと似ているな」
と気づき、それらがバラ科という共通のグループに属すことを知ったとき、
「バラ?あの庭にあるバラとこのサクラやウメはどこが共通しているんだろう?」
という興味につながります。
 一方、サクラの花だけでなく、葉や枝や幹に興味を広げる人もいるかもしれません。あるいはサクラの花に訪れる蝶やハチなどに注目する人もいるかもしれません。葉の作りはどうなっているのだろう。葉脈はどう流れているのか、サクラの葉には「腺」と呼ばれる構造がありますが、それに着目する人もいるかもしれません。
 一方、サクラの葉にはさまざまな昆虫がついて食べます。サクラといえば花が注目されますが、秋になれば紅葉し、それはそれで美しいものですが、紅葉や落葉という現象に興味をもつ人もいるでしょう。
 ここで私が言おうとしているのは、サクラの花という誰でも知っている植物ひとつをとりあげても、好奇心を持っていれば、次々に疑問や興味が湧いてくるということです。その好奇心は、子供たちはたっぷり持っているのに、大人になるにつれて別のことに興味を持つようになったり、日々の忙しさにかまけてしまうために忘れてしまいがちなものです。
 私は職業柄ということもありますが、子供のときの好奇心をずっと維持してきたように思います。その源泉はただ純粋に「生き物のことをもっと知りたい」ということであり、それが保全の役に立てばすばらしいことですが、そうでなくても知りたいという気持ちに変わりはありません。

つづく


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