以下は前章の続きである。
見出し以外の文中強調は私。
ぎっしりと書き込まれた中に、世界ウイグル会議総裁のドルクン・エイサ氏の母、アヤン・メメットさん(78歳)が、今年5月収容所で亡くなったことも記されていた。
エイサ氏が世界ウイグル会議の事務総長を務めていた2012年、私
はシンクタンク「国家基本問題研究所」の「アジアの自由と民主化のうねり 日本は何をなすべきか」と題した国際シンポジウムに、ウイグル、チベット、モンゴルの三民族の代表を招いた。
そのとき、世界ウイグル会議を代表して参加したのがエイサ氏だった。
氏は中国から逃れ、ドイツ国籍を取得して、現在ドイツに住んでいる。 息子が海外で中国政府を非難しているという理由で、78歳の母を中国は収容所に追いやるのである。
エイサ氏を罰するためであるのは明らかで、高齢のメメットさんは劣悪な環境の中で息絶えた。
他の多くの高齢者たち、幼い子供たち、病気を患っている人々も収容所で次々に命を落としていく。
年次報告書はそうした事例を生々しく書き連ねている。
メメットさんは人生の最後の段階でどれほどの苦しみを昧わったことだろうか。
エイサ氏の悲しみと怒りは如何ばかりか。
国際社会はこのような仕打ちを許さない。
ルビオ氏らは習近平政権によるウイグル人らイスラム教徒弾圧を、「人道に対する罪」ととらえて糾弾を続けている。
対中強硬策
ルビオ氏らが記者会見した同じ日に、米司法省も対中強硬策に踏み切った。
中国の情報機関である国家安全省の幹部、シユ・ヤンジユン氏を起訴したのだ。
彼は4月1日にベルギーで逮捕、収監されていたが、米国の要求で10月9日、米国に引き渡された。
日本ではあまり報じられなかったが、この事件は米中関係を大きく変えるものとして専門家の間で注目された。
産経新聞外信部次長で中国問題専門家の矢板明夫氏が語る。
「米国が第三国に中国人犯罪者の引き渡しを要求したのは、これが初めてです。米国が引き渡し条約を結んでいる国では、今後、中国は諜報活動ができなくなるわけです。中国は極めて深刻にとらえていると思います」
矢板氏の説明はざっと以下のとおりだ。
シユ氏は2013年12月頃からGEアビエーションなどに狙いを定め、技術者らを費用丸抱えで中国に招き、最新技術の窃盗につなげようとした。
GEアビエーションはGEの子会社だが、他にも航空産業最大手の企業など数社が工作対象にされていたという。
矢板氏はなぜシュ氏がベルギーに行き、逮捕されたかに注目する。
シュ氏を監視していたアメリカの情報工作員が、今年春、ベルギーでアメリカの技術者に会い情報を盗むという話を持ちかけ、シュ氏を呼び出すことに成功したのだという。
アメリカがシュ氏をおびき出したのだ。
それだけ積極的に攻めの手を打って、中国人スパイを摘発したのはなぜか。
現在進行中の米中貿易戦争では、アメリカは主に三つの要求を中国に突き付けている。
①為替操作の禁止、
②アメリカを含む諸外国の情報や技術の窃盗の禁止、
③労働者を安い賃金で働かせる奴隷労働の禁止である。
この稿続く。