文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

「モノが語る日本対外交易史 七-一六世紀」…日経新聞10月9日21面より

2011年10月11日 13時44分23秒 | 日記
シャルロッテ・フォン・ヴェアシュア著
▼著者は55年ドイツ生まれ。フランス国立東洋言語文化学院大学文学博士。仏高等研究院教授。専門は古代・中世日本の対外関係史、物質文化史。

形態から観念まで俯瞰し叙述  評・東京大学教授 村井章介

著者は、1955年ドイツに生まれ、現在フランス高等研究院歴史学部の教授で、古代・中世日本の対外関係や物質文化を研究している。日本語・中国語にも堪能で、ひんぱんに両国を訪れては現地調査や研究交流に励んでいる。国際派・行動派の女性歴史学者である。

原著は1988年にフランス語で刊行され、2006年に英訳が出た。それぞれの標題を拙訳すると『起源から一六世紀までの日本の対外貿易』、『荒海を越えて七~一六紀日本の対中国・朝鮮貿易』であり、日本語版とあわせて3つの標題から、おおよその内容をつかむことができよう。

本書は個人が1冊で1000年にわたる歴史を俯瞰的、総合的に叙述した意欲作で、研究が細分化された日本の歴史学界では類例がない。輸出入されたモノについて、従来の貿易史ではたんに名前を羅列するだけのことが多かったが、本書では形態、用途、さらにはそれにまつわる観念について、ある程度具体的な説明がある。

たとえば、不老不死の薬に使われた水銀を多量に産出したことが、日本についての仙境イメージを生みだしたという指摘など、蒙を啓かれた。しかも可能なかぎり数量を示しながら、時代や国家・地域の巨視的な比較が試みられている。巻頭の39点のカラー図版も有益である。

本書は英語版を訳出したものだが、日本古代外交史の専門家である河内春人氏が、著者と協議を重ねて訳しているうえに、原著刊行後の研究の進展をふまえて、日本語読者むけの加除・改稿や、五つのコラム・補注・参考文献の追加・増補が行われている。

とはいっても、基本部分は初版の1988年時点の研究水準に依拠しており、その後の研究で塗りかえられた部分が目につくのは、やむをえないところか。日本の土地制度や朝鮮の通交制度などについて、不正確な記述もいくつか見られる。

とくに14世紀以降、海洋アジアの交易に大活躍した琉球について、わずかな言及しかないのは残念である。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。