以下は高山正之の新刊からである。
日本国民で活字が読める人間は皆、最寄りの書店に購読に向かうべきだろう。
外国はみな「いい国」と書く朝日新聞記者の自虐史観
バングラデシュのテロで日本人が犠牲になっても「日本が悪かった」と
牛を撥ねただけで「殺される」
バングラデシュの海岸線を南に下るとこの国では唯一か所、白い砂浜と青い海が広がるところがある。
海岸の名は英統治時代のままホワイトビーチという。
訪れたとき、海岸で少女たちが波と戯れていた。
イスラムの教えは女が肌を哂すことを許さない。
彼女らはヘジャブを被り、足首まで覆うサリーを着たままだった。
濡れたサリーが肌にまとわりつき、かえってなまめいて見えた。
イスラムはまた夫以外の男と口を利くことを禁じているが、彼女らは濡れた衣装のままでいろいろと世間話をしてくれた。
ビキニの水着で泳ぎたいといってキャッキャ笑っていた。
珍しい体験をしてダッカに車で戻っていく途中、道路右側で草を食んでいた牛が急に飛び出してきた。
大きな牛だった。
避ける余裕もなく撥ねた。
バックミラーに牛が毬のように転がっていくのが見えた。
車を停めて、振り返ると牛がゆっくり起き上がるところだった。
よかったと思った次の瞬間、助手席にいたバングラ人ガイドが吠えた。
「急げ」「逃げろ」と真っ赤になっていう。
見ると、人影も見えなかった田園の景色のあちこちから人の群れが湧き出てきた。
それがこっちを目指して押し寄せてくる。
目の子で200人、いや、その倍はいただろうか。
いや撥ねたのはこっちだし、弁償もしなければ…。「なに御託を並べてるんだ。殺されるぞ」とガイド。
顔はホントに恐怖していた。
いわれるまま、発進させた。
幸いエンジンに牛とぶつかったダメージはないようだ。
加速した。
赤銅色の肌がいくつも行く先の道路の左右からよじ登ってくるのが見える。
こっちも恐怖しながら加速する。
ドイツ外交官を見舞った悲劇
ガンジス川のデルタに乗っかるこの国に石はない。
どこまで掘っても泥ばかり。
だから道はその泥を焼いた煉瓦を敷き詰めてつくる。
その上をコンクリートで固めるが、セメントに混ぜる小石や砕石がないから砕いた煉瓦を代用する。
でも、スコールが降るから道の下の泥の層が歪む。
道路もたわむ。
うねる波の上を走るようなもので車は飛び上がり跳ねまわる。
道を外れてどこかに突っ込めば彼らに追い付かれる。
死にもの狂いでともかく脱出はできた。
ダッカに戻って日本大使にこの話をしたら「逃げて正解」といって、ドイツ外交官の悲劇を話してくれた。
その悲劇はダッカの中心街で起きた。
ドイツ大使館に勤務する若い外交官夫妻と7歳の娘が乗った外交官ナンバーの車が子供を撥ねた。
この国は人口稠密だ。
車はあっという間に野次馬に取り巻かれた。
田舎でさえあれだけ人が湧いた。
街中なら想像するだけで怖い。
運転手はさっさと逃げた。
取り残された外交官夫妻と娘が車から引きずり出され、撥ねられた少女の報復で夫妻の娘が暴行され、殺された。
イスラム過激派の蛮行を免罪
日本のつもりであの田舎道に立って群衆が殺到するのを待ち、牛を撥ねました。
大きな怪我でないことを祈ります。
そのお詫びをしたいのですが、と一瞬でも考えていた自分の愚かしさに慄然とする思いだった。
そういう思いに至る背景には、ダッカ周辺を走っていて、少なくない人から日本語で声をかけられた経験があるからだ。
「日本で働きました。それを元手にいま、大きな仕事をしています」とか。
「日本の人はみないい人です」「また行きたいです」とか。
人懐こく話す。
彼らの言葉についほだされてバングラの人はいい人だと思ってしまう。
子供のころ見た映画『ベンガルの槍騎兵』ではゲーリー・クーパーの指の爪に木の串を打ち込む凶暴な人種に描かれていたが、あれはハリウッドの偏見とさえ思うようになっていた。
しかし、クーパーは正しかった。
そのバングラデシュで今年7月、イスラム過激派のテロがあって日本人7人を含む20人が殺された。
10代も含む実行犯6人は人質に拷問し、最後は蛮刀で首を切っていった。
彼らは笑っていたと目撃者は証言している。
個人的には「牛」事件のおかげでそれほどびっくりはしなかったが、新聞は違った。
朝日などはこの国は「親日国家でいい人」ばかりなのにと「驚き」で受け止める。
そんないい国がテロをやる。
しかも日本人を選んで殺したのは「もしかして日本が悪かったのではないか」と書く。
四倉幹木記者の「対テロ戦/日本も標的に」がそれだ。
日本はイスラム圈の人々を弾圧し、食い物にする欧米列強の一員に数えられているからじゃないか。
そう思わせた安倍外交がいけないのだという論調だ。
朝日の「この国はいい人」論はいまさら始まった手法ではない。
バングラの数倍は獰猛なアフガンも「いい人の国」にし、そこで井戸を掘る中村哲医師を友好の星に仕立てた。
外国は「いい国」が朝日の社是
しかし現実は「いい国」を信じて入国した広島の教師2人が国境を越えたところで殺され、井戸を掘っていたボランティアの一人も拉致殺害されている。
問題は朝日が危ないのを承知しながら記事では逆を書いていたことだ。
アフガンの事件でいえば教員が殺されたスピンバルダック村で、その直前、テレ朝のクルーが拉致され、大層な身代金を払って解放されたが、それを身内の朝日新聞は浸隠しにした。
ボランティア殺しの前後には前述の四倉自身がペシヤワルで銃撃され、青ざめて担ぎ込まれている。
朝日の信奉する自虐史観では、悪いのは日本だけだ。
「平和を愛する諸国民」が悪くては自虐史観の辻褄が合わない。
だから外国はみな「いい国」にしておく。
それが社是だからだ。
それに読者が騙されて殺されても、まあ仕方ないさと朝日は思っている。