彼は週刊新潮の掉尾を飾る名物コラムを書き続けている。
私が彼のコラムを読むために毎週週刊新潮を購読している事は既述の通り。
以下は、本日発売された今週号に掲載された彼の見事な論文である。
私は、この論文の英訳を高山正之に敬意を込めて捧げる。
ドルガバは正しい
ノルウェーの主要エアラインの一つブローテン航空がテレビCMを作った。
夕イトルは「日本人」。
北欧ではポピュラーなデザート菓子レフセをスチュワーデスが日本人乗客にサーブした。
バタークリームを挟んだ薄皮パンと思えばいい。
それを日本人乗客がお絞りと間違えパンを開いて顔を拭いた。
クリームが顔中にべったり。
周囲の乗客に冷笑が広がる。
同じ客がまたブローテン航空に搭乗する。
スチュワーデスがお絞りを差し出すと「お腹がいっぱい」のゼスチャーで断る。
まともに英語も話せない、菓子とお絞りの区別もつかない日本人を笑いものにする。
このCMがノルウェーで大受けし、カンヌで開かれた国際広告祭CM部門に出品された。
電通の田中さんら世界の大手広告代理店代表が審査し、このCMに一同大笑い。
全員一致、つまり田中さんも含めて金賞を与えた。
民族をステレオタイプ化し誹謗、あるいは笑いものにする裏には陰険な差別や偏見が常にある。
CMを作ったノルウェー人も心のどこかに白人の優越意識と黄色人蔑視を持つ。笑いには邪(よこしま)さがあった。田中さんはその辺を審査員に忠告すべきだった。
それに日本人がお絞りに疎いという設定も誤りだと指摘すべきだった。
なぜならお絞りは優れて日本の文化だ。
ノルウェー人がまだ手掴みでモノを食いテーブルクロスで手と囗を拭っていたころ、国際線にデビューした日本航空が初めてお絞りをサービスに取り入れた。
世界はその清涼感に驚愕し、どのエアラインも競って導入していった。辺境を飛ぶブローテン航空がお絞りを知るまでにはずいぶん時間がかかったと思う。
初めてそれに触れたときは衝撃だったに違いない。
だからこんなCMを思いついたのだろう。
ただ抜き難い人種差別意識がある。
「野蛮な日本人はまだお絞りを知らない」という設定を思いついた。
ノルウェー人はひたすら無知が過ぎ、同時に日本人への侮蔑が過ぎた。
しかし田中さんはそれを指摘しなかった。
この稿続く。