文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

もともと税金を払わない伝統の中国人社会で、減税してどれだけ消費が増えるのか疑問である。

2019年03月11日 13時48分24秒 | 日記

産経新聞特別記者田村秀男は財務省の受け売りに過ぎなかったり中国の代理人に等しいような経済評論家や経済部の記者達とは全く違う数少ない本物の経済評論家である。
朝日新聞を購読していた5年前の8月まで私が彼を全く知らなかったのは言うまでもない。
以下は月刊誌正論今月号に掲載された彼の連載コラムからである。
第4回、「米中休戦」でも中国は混迷
世界景気の足かせになっている中国の経済危機は、共産党支配型金融システムというエンジンの自壊が元凶だ。
現下の米中貿易戦争はその進行度合いを加減する変速機のようなもの。
「米中休戦」となっても中国の混迷は収まらないし、交渉決裂となれば、経済の全面崩壊を引き起こすに違いない。
中国経済は、党指導部が人為的に操作する国内総生産(GDP)データが実態を反映していない。
公表される実質経済成長率は6%台を維持していて、これは他の国では当然、絶好調の水準になるはずだが、大多数の海外のチャイナ・ウオッチャーの見方は極めてネガティブである。 
延べ30億人規模の「民族大移動」が起きる春節(中国の旧正月)はその点、絶好の経済観察機会である。
春節休暇は2月前半の1週間。
輸出産業が集中する広東省では、郷里から戻った出稼ぎ労働者が、勤め先の工場が閉鎖されていて途方に暮れている。
また、例年は一族郎党で飲み食いして盛り上がるのだが、今回は上海、北京など大都市での消費も控えめだったと現地メディアは伝えている。
つい1年前までは富裕層の投資マネ―を惹きつけ、隆盛を極めたインターネット関連の新興企業設立ブームも消え去った。
「投資家や起業家やメディアはそれを、中国インターネットの『凍てつく冬』と呼ぶ」(2月6日付け、米ウォールストリート・ジヤーナル=WSJ=電子版)。 
中国に大甘の日本メディアは「中国、景気対策40兆円超、減税やインフラに」(1月29日付け日本経済新聞朝刊)と、習近平政権による景気てこ入れ策の効果に目を向ける。
2008年9月のリーマン・ショック後の大型財政出動や金融緩和をイメージしているのだろうが、果たしてそうか。
景気対策の中身は、銀行融資の後押し、所得税減税、地方政府のインフラ投資用債券増発、農村部に限った車・家電購入補助だが、中国人民銀行が人民元を大量増発する従来の金融の量的拡大路線は除外されている。
リーマン後は、人民銀行がカネを大いに刷って、党中央が支配する国有商業銀行を通じて、党官僚が仕切る国有企業や地方政府に流し込み、インフラや不動産開発など固定資産投資をかさ上げすることで、二桁台の高度経済成長軌道に復帰したことになっているが、今回そんな気配はない。
日経記事とは対照的に、米WSJ紙は「中国経済の減速、対策に慎重な政府」(1月22日付け電子版)と報じ、2008、09年当時と違って人民銀行資金(「流動性」)供給を抑えていることを指摘している。
「中国指導層の姿勢が変化した背景には、刺激策に関する選択肢が以前よりも限られているとの認識がある。過去の信用緩和や政府の放漫財政は成長を駆り立てたが、地方政府や国有企業を中心とした債務急増も引き起こした」ときちんと説明している。
要するに、今回はカネを刷らない景気対策に取り組むということだ。 
勢い、所得税減税による消費刺激や地方政府のインフラ投資に重点が置かれるわけだが、もともと税金を払わない伝統の中国人社会で、減税してどれだけ消費が増えるのか疑問である。
そして地方政府と言えばリーマン後、「融資平台」と呼ぶ資金調達機関を子会社としてつくり、農民から土地を取り上げて大規模な「ニュータウン」を建設したものの、入居者は極めて少なくゴーストタウンと化した。
返済不能が相次いでいるのは当然のことだ。
刷りたくても刷れない 
とはいえ、習政権が債務バブルに懲りたから、カネを刷らないという解釈は正確ではない。
刷りたくても、刷れないのだ。
中国式金融モデルは、中国人民銀行が外貨を裏付けに人民元資金を発行する。
そして国有商業銀行などを通じて融資を行う。
それが生産面や不動産市場を拡人させ、景気を押し上げている間は、海外から資本が流入する。
その投資家の大半は香港に拠点を置く党幹部系の中国企業や投資機関だが、かれらは決して愛国者ではない。
不動産市況が悪くなり始めると今度は香港経由でカネをカリブ海などのタックスヘイブンに移し替える。
それが中国経済特有の資本逃避である。 
資本が流出するのは、外国為替市場で人民元が大量に売られ、元暴落の恐れが生じ、それを見た中国人投資家がますます外にカネを逃がそうとするためだ。
人民銀行は外貨を売って元を買い支えるので、外貨準備が減る。
外貨、即ちドル資産の裏付け無しに人民元を発行した結果、人民元の信用がなくなることを共産党政権は恐れる。
蒋介石の国民党政権が紙幣を乱発、悪性インフレを引き起こして国民から見放され、通貨規律を守った毛沢東の共産党勢力に敗れた歴史を踏まえているからだ。 
他方、元資金を供給しなければ、中国経済全体が金欠病になり、大不況に陥るので、やむなく元を発行する場合もあるが、限界がある。
かつて人民銀行による元資金の発行には100%のドル資産を伴っていたが、最近では6割を切っている。
これ以上の外貨資産抜きの金融量的拡大には逡巡せざるをえない。結局、国有銀行は習国家主席肝いりの国有大企業には優先して貸し出すが、民営の中小企業や新興企業には新規融資を打ち切る。
ノンバンクや地方政府にはカネを回さない。
その結果、中小企業の倒産が相次ぎ、不動産開発に血道を上げてきた地方政府は債務返済が困難になる。 
このグラフは中国式金融モデルの行き詰まりを端的に示すものだ。
銀行とノンバンクの新規融資年間合計額、外貨準備と対外借り入れ総額の前年比増減額をドル・ベースで統一し、比較している。
そこで瞠目させられるのは、これら3つの指標が密接に連動している点だ。
外準は2015年後半から急減したあと17年後半に持ち直したが、18年後半に再び減り出した。
上述したように、外準の減少は巨額の資本逃避が原因で、習政権は取り締まりに躍起となっている。
関与した党幹部や人気女優を逮捕または長期拘束し、大物投資家には海外資産の売却、回収を命じている。
最後の頼みは安倍政権 
それでも外準は減る。
人民銀行の外貨資産が減れば、人民元発行に支障をきたすので、窮余の一策が外貨の借り入れである。
グラフが示すように、対外借り入れは17年から急増を続けている。借り入れであっても流入する外貨は人民銀行が買い上げて外貨資産とするのが中国式だ。
よくみると、外貨借り入れは絶えず外準変動額を上回っている。
つまり、外部から借金しても、中国国内にはその一部しか残らず、多くは逃げてしまう。
それでも外国から借金して、それを買い上げて人民元を発行するのだが、外準は一向に増えないので、銀行などに回す元資金の増量には限度がある。
その結果、国内新規融資量はグラフが示すように17年後半から大きく減り、現在に至る。
総じて言えば、対外借金なくして中国はカネを発行できないという恐るべき状況にある。 
こうみると、中国の不況は一種の金融恐慌局面の中にある。
トランプ米政権はその窮状を知ってか知らずか、核心をついている。同政権の対中貿易制裁は年間で対中貿易赤字を2000億ドル減らす目標に基づくが、中国の国際収支黒字は年間1000億ドル前後に過ぎず、対米黒字が大幅に減れば、それだけで外準は減り、中国の金融は機能マヒに陥る。
対抗策として人民元を切り下げれば米国の制裁関税分を帳消しできるが、元安は資本逃避を招くので慎重にならざるをえない。 
対米貿易交渉がたとえ妥結となっても、外準が増えるわけではないのでカネは刷れない。
決裂すれば、資本逃避が加速するので、金融は死に体になるだろう。
習政権の最後の頼みは、カネ余りの日本。
安倍晋三政権には一層、強く秋波を送り続けてくるだろう。


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