文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

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「それでもイギリス人は犬が好き 女王陛下からならず者まで」飯田操〈著〉

2011年11月27日 18時07分26秒 | 日記
朝日新聞11月27日13面より

残虐な娯楽の反動で動物愛護  評・荒俣宏 作  家

非常にユニークな「犬の本」だ。冒頭で、2003年の暮れ、エリザベス女王の愛犬がアン王女に飼われていたブルテリアに咬まれて深手を負い、安楽死となった話が紹介される。以降、各単元の枕には犬への虐待行為や悲劇が語られ、犬好きで動物愛護の先進国とされたイギリスのイメージを根底から覆す。

実際、歴史を繙けば、イギリスは決して犬たちの楽園ではなかった。この国では17世紀ごろまで動物いじめを娯楽にする風俗があり、熊や牛に犬をけしかけて楽しむ「熊攻め」や「牛攻め」が行われていた。ブルドッグという品種が牛攻め用に改良されたというように。

また猟犬では、匂いでなく目視によって獲物を追いかける快速犬グレイハウンドやキツネ狩りに適したフォックスハウンドなども改良され、貴族は猟犬が獲物を攻める光景を馬上から見て楽しんだ。

本来はこれを「スポーツ」と呼んだのだ。さらに闘犬やレース犬も改良され、民間賭博の花形となった。
しかし、この残虐な習慣が存在したからこそ18世紀以降に倫理的な批判が盛り上がったというべきだろう。本書の読みどころもそこにある。

獲物が激減し狩猟が衰退するなかで猟犬のペット化が図られ、賭博に用いる犬の飼育も民間で大流行するのだが、19世紀にはいっても受難は続く。狂犬病が流行するからだ。咬みつく犬への恐怖が急激にひろまり、貧困層による犬の放し飼いが指弾される。

本書は、「それでも」イギリス人が犬を愛した理由を探る。飲酒や賭博で身を持ち崩す労働者を立ち直らせる手本として「忠実な犬」を描く文学が生まれ、『フランダースの犬』など名作が書かれ、ついに動物愛護法が誕生するまでの矛盾に満ちた経緯は、社会史としても興味深い。ついでに犬と人間のダークな関係が現在なお生き延びていることをも告発している。

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