以下は前章の続きである。
これ以上晩節を汚さないほうが
小泉氏といえば、首相在任当時の十五年十月の産経新聞のインタビューで、自身の政界引退時期について次のように語っていた。
「私自身は、六十五歳をめどにしている。その後はゆっくりとさせてほしいと思っている」
いつまでも地位や権力にしがみつこうとする政治家が目につく中で、潔いセリフだと感心したのが記憶に新しい。
そして五年後の二十年九月に次期衆院選には出馬しないことを表明し、翌二十一年の衆院選に伴い引退した。
六十六歳だった。
その小泉氏が好んで口にし、著書『決断のとき』でも引用しているのが明智光秀の娘で、自ら命を絶った細川ガラシヤの次の辞世の句である。
散りぬべき とき知りてこそ世の中の 花も花なれ 人も人なれ 小泉氏の美学に合致するのだろうと思っていたのだが、さて七十六歳となった最近の小泉氏の言動はどうだろうか。
今年三月のBSフジ番組では、学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改竄問題をめぐり、こんなことを口にしていた。
「(安倍)総理が『私や妻が森友学園に関係あったら、総理も国会議員も辞める』と言った。総理の答弁に合わせないといけないということで、この改竄が始まったと私は見ている。忖度したんだよ。関係あるような書類は全部変えないといけないと思ったんじゃないか。私はそう想像している」
安倍首相を自民党幹事長や官房長官に抜擢もした人物が、「想像」で相手を批判している。
極めて無責任だというほかない。
小泉氏はこの発言をした時点で把握していなかったのかもしれないが、そもそも財務省は27年6月にも森友関連のメモを削除していたことを明らかにしており、これは安倍首相の参院答弁の2年近く前のことなのである。
いかに小泉氏がいい加減かが分かる。
小泉氏は4月には、安倍首相の自民党総裁選三選の見通しについて水戸市で記者団にこう語った。
「まあ、難しいだろうな。信頼がなくなってきている。何を言っても言い逃れに取られてしまう」
確かに、この頃は安倍政権は最も苦しい時期に当たり、内閣支持率も低落傾向にあった。
だが、細田派、麻生派、二階派が安倍首相支持を打ち出し、さらに菅義偉官房長官ら無派閥の安倍首相クループもいる中で、三選が難しいという言葉に根拠はなかったろう。
小泉氏はもともと論理性よりも独特の政治勘で成功してきたタイプだが、今やその勘も衰えてきたのではないか。
これ以上、晩節を汚さない方がいい。