以下は前章の続きである。
彼の死刑はその年の11月7日、ロシア革命記念日に行われた。
共産主義に生きた者への心ばかりの気遣いだった。
記録によると午前7時の朝食後、妻宛ての葉書を認めて独房に戻ったところで執行を告げられた。
絶命は午前8時51分だった。
ゾルゲも少し遅れて同じ場所で執行された。
東京拘置所で先日、処刑された麻原彰晃も70年前の尾崎秀実と同じ手順だった。
朝食後に刑の執行を告げられている。
この「朝に通告し、即座に執行」について米CNNや仏紙レゼコーは「家族や弁護士にも通告せず、本人にも執行直前に初めて伝えた。本人にも家族にも精神的圧迫を与え、きわめて残忍」と批判する。
じゃあ米国はどんなやり方か。
通常は執行1か月前に通告し、死刑囚は処刑場に移送される。
以後、執行日まで毎日寝られない日を過ごす。
その間の呼び方は「デッドマン」。
こっちの方がよほど残酷に思える。
執行前日は家族との対面も許され、最後の晩餐には好物を注文できる。
前にサンクェンティンを取材したら「ステーキとかプライムリブを頼む者がいるけど誰も食べない。水だけやたら飲む」そうだ。
仏フィガロ紙は「日本人が死刑を肯定し、廃止論が起きていない」ことをやたら不思議がる。 それは昔スイス公使アンベールが言っていた。
東北地震で2万人が死に御嶽山の噴火で63人が死に豪雨の西日本で200人が死ぬ。
日本の子供は世の無常を詠ういろは歌で育つ。
罪びとが償いの場を与えられるのはむしろ好ましい終わり方と思っている。
だいたい革命とかいって60万人もギロチンで処刑して喜んだ国に偉そうに言われたくない。
38人同時処刑を喜ぶ米国も同じ。
死刑くらいで俄か文明国気取りはみっともない。