文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

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「しぶとく生きろ」野坂 昭如著…日経新聞12月18日20面より

2011年12月18日 16時06分42秒 | 日記
「しぶとく生きろ」野坂 昭如著

焼け跡からの視線で現在考察 文中黒字化は芥川。

小説「火垂るの墓」などで知られる焼跡・闇市派の作家が、脳梗塞からのリハビリ途上につづったここ4年半の新聞連載を集めたエッセー集。

3・11以降に書かれた文章が並ぶ巻頭の章をはじめ、その時々の問題に即応したそれぞれのエッセーには一本の柱かおる。ただいま現在の日本の繁栄がはらむ危うさを、戦中戦後の体験に立ち戻って考える一貫した姿勢である。

例えば、赤坂、青山、表参道付近を焼き尽くした1945年5月24、25日の東京・山の手の大空襲を取り上げた文章。「今、若者の集うあたり、賑やかできれいな街。すべて焼け野原だったといって過言ではない。人が折り重なって焼け死んだ。そのあとを生きて歩いているという事実を知っておくべきだろう」

養父の命を奪った神戸大空襲と、その後、飢餓状態に陥り幼い妹を死なせた14歳時の体験は、著者の原点であり、本書でも、あの夏に立ち戻っては痛恨の思いを吐露する。

この「焼け野原の死生観」からすれば、飢えを忘れて飽食に明け暮れ、死とまともに向き合うことを忘れた高度成長後の日本は、脆く危うい。

このたびの大震災についても著者は「がんばろう日本」というスローガンに違和感を募らせ、歴史を理解しないまま表面的に原発の是非を語ることを厳しく戒める。生身をさらした言葉だからこそ、立場の違いを超えて響く声がある。
(毎日新聞社・1400円)



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