以下は2018/7/27に発信した章である。
月刊誌HANADA今月号の巻頭に米露接近、どこが悪いと題して掲載されている九段靖之介の連載コラムからである。
見出し以外の文中強調は私。
米中関税戦争が激化しているなか、そもそもアメリカ主導で中国をWTO(世界貿易機関)に入れたのが間違いだったという議論がいまごろ出てきている。
たとえば、米通商代表部(USTR)は、中国のWTO規則の順守状況に関する年次報告書で、「中国で開かれた、市場志向型の貿易体制の導入が進んでいない点において、米国が中国のWTO加盟を支持したことは明らかに誤りだった」と指摘した。
いまごろ何を言っているのか、馬鹿げた話だ。
中国はWTOの規則なんぞハナから屁とも思っていない。
そんなことは、わかりきっていることではないか。
技術提供は強要する、知的財産は盗む、外国の投資は制限する、自国の企業に補助金を出して保護する……やりたい放題だ。
中国に進出した日本企業は、利潤は中国に還元せよとする定めで持ち出せない。
ために香港の銀行を経由するなど、ややこしい細工をして持ち出す。
保護主義の権化のような中国が、いまや自由貿易の旗手よろしく、グロ-バル経済を唱えて、トランプの保護主義は世界経済を危うくするとして反対の旗を振る。
手前勝手の厚顔もいいところだ。
とはいえ、トランプの対中攻撃が始まって以来、中国経済は凋落の一途を辿り、大手企業の数社にデフォルト(債務不履行)の危機が迫っている。
たとえば、この七月初旬、パリで一人の中国人が不審死した。
王健という名の中国人で、死因は転落死とされる。
この人物は中国最大手の民間航空会社HNA(海航集団)のボスで、HNAは巨額の負債を抱えていた。
その額は一説に六千億元(十兆一千億円)と目される。
トランプが言うように、中国はアメリカを散々カモにしてきた。
それがトランプ登場でダメになると知るや、中国はEU(ヨーロッパ連合)、とりわけドイツに急接近している。
ちなみにメルケルは中国を十数回訪れている。
いまやドイツ経済と中国経済は一蓮托生の関係にある。
さきごろ李克強首相はドイツにメルケルを訪ねた。
ドイツ銀行の経営不振は早くから取り沙汰されてきた。
ちなみに右のHNAはドイツ銀行の筆頭株主だ。
ドイツ銀行の経営不振は推して知るべし。
おそらくメルケルと李克強は、HNAが保有するドイツ銀行の株式の処分について協議したに違いない。
メルケルは先の選挙に敗れ、少数連立を余儀なくされ、その政権は累卵の危うきにある。
危ういといえば、イギリスのメイ首相も連立政権で、おまけにBrexit(EU離脱)をめぐって閣内不統一、二人の閣僚が辞任した。
政権の前途に暗雲が垂れ込めている。
フランスのマクロンも支持率低下に苦しむ。
フランスはサッカーW杯の優勝で国を挙げてのお祭り騒ぎ。
これで少しは支持率回復も見込めるが、登場したおりの支持率80%の勢いはいまや跡形もない。
この三人―メルケル、メイ、マクロンらが習近平を加えてスクラムを組んでトランプに対抗する。
さきごろEU大統領ツゥスクとユンケル委員長が北京に習近平を訪ねた。
なにしろトランプは「EUは敵だ」と言い放ち、ヘルシンキでプーチンと四時間の会談をしたからだ。
この米露首脳会談について、アメリカでは与野党の議員らから、「(トランプの発言は)国家に対する裏切り行為だ。これほど永年の同盟国を蔑ろにし、これほど敵の暴君にへりくだる大統領は初めてだ。これからEUは一切アメリカを信用しないだろう」などと批判の合唱が沸き起っている。
だが、実は日本にとって米露の接近は悪いことばかりではない。
なぜなら中露の関係に楔を打ち込むことになるからだ。
日米の当面の主敵は中国だ。
安倍にしてもトランプにしても、「本丸」は中国だ。
かつて吉田茂は中国滞在20年の経験から、「中国人とロシア人は絶対に上手くいかない」と言った。
両国は4,000キロの国境で接している。
中国人はその国境を越えてシベリアに押し出す動きがある。
これをプーチンは快く思っていない。
プーチンの望みは、クリミア併合を理由にした経済制裁の解除だ。
トランプはクリミア併合について、今回の会談で問題にしていない。むしろ選挙中はそれを容認するような発言をしている。
経済制裁の解除をテコに、米露関係が修復すれば、対中包囲網の一角を成すことになる。
嫌がるのは中国だ。
もっとも米国議会はロシア制裁を維持する議論のほうが優勢だから、米露関係の修復はこれまた今後の展開次第だろう。
一寸先は闇、日本も様々な対応を考えておくべきだ。