以下は前章の続きである。
しかし、ソ連における「戦犯」裁判に公正な取調べも公正な裁判もなかったことはとうに明らかなのだ。
この番組には共産主義独裁国家の司法制度に対する理解がまったく欠けているといわざるをえない。
まず日本兵のシベリア抑留が国際法(ジュネーヴ条約)とポツダム宣言の「日本兵は速やかに帰国させるべし」との規定に違反する不法な長期抑留であった。
加えて、「戦犯」裁判は、弁護士の接見など容疑者の正当な権利などかけらもない密室での強要、拷問などを伴う長期の尋問によってでっちあげられた尋問調書を証拠として、まともな審理も弁護もないままあらかじめ決めた判決を言い渡すだけの形骸化した裁判だった。
私はかねて日本人「戦犯」受刑者は無実の囚人だと論証してきた。
その「戦犯」裁判のひとつであるハバロフスク裁判も後述するようにフェイク(偽)裁判、もしくは暗黒裁判である。
それゆえ、この裁判での被告の供述と証人の証言は、たとえ当人の肉声テープであっても真実を証明する証拠と認めることはできない。言い換えれば、このテープには裁判での証拠能力がない。
念のために申せば、音声テープの証言内容がすべて嘘だといっているわけではない。
ハバロフスク裁判の虚妄性を踏まえた上で、個々の証言が真実なのか真実でないのか、厳密かつ公正に検証すべきなのである。
まずNHKは大好きな日本国憲法の第38条第2項をよく噛みしめてみるべきだろう。
《強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない》
これは近代法の大原則である。
国内の冤罪裁判には過敏なほど反応をするNHKなのだからこの条項の重要性はもとより承知のはずだ。
仮に強制、拷問、脅迫はなかったと仮定しても、ソ連で4年の長きにわたって抑留・拘禁されたなかでの供述というだけで法廷での証拠能力は否定されるであろう。
この稿続く。