下記の本を購読している人たちは、何度か大笑いというか思わず吹き出してしまった箇所が幾つかあるはずである。
私は以下の箇所を、とあるレストランで読んでいたのだが、思わず吹き出してしまった…それほどに古田博司は素晴らしいのである。
古田
私は若い頃から研究のためにずっと北朝鮮の映画ばかり観てきて、今、後悔しています。
もっと有意義に人生を過ごせたのではないか、と(笑)。
藤井
話がそれるけれど、カンボジアで首相、国家元首、国王を務めたシアヌークは映画制作が趣味でした。
彼が北朝鮮にいたとき、兵隊も使っていいから自由に作れと言われて、自分が日本人の将校を演じる映画を作った。
シアヌークは脚本も自分、主演も自分なんです。
これは日本帝国陸軍を賛美するような内容だったのですが、金日成・金正日が観て、「なかなかいい映画だ」と言ったらしい(笑)。
加瀬英明先生から聞いた話です。
古田
金正日の処女作は『映画芸術論』という本です。
宣伝扇動部を率いて、北朝鮮の芸術を刷新しました。
映画のフィルムを白黒からカラーにしたのも彼です。
藤井
韓国の有名な映画監督(申相玉)とその妻の女優(崔銀姫)を拉致した事件もありました。
二人は、その経緯(拉致・脱北)について『闇からの谺―北朝鮮の内幕』(文春文庫)という本も書いています。
古田
けれども、そのおかげで、北朝鮮の映画の質がよくなった(笑)。
でも、近代合理性が分からないので、ヘンなシーンがたくさん出てきます。
悪役が一瞬で善人に変わったり(『淇吉童』1986年)、急に上役が家の中に現れて忠告したりします(『試練を超えて』1983年)。
ドアノックしませんね。
そういえば、北のホテルに泊まった時に、ドアのノブにかける“Don’t disturb”の札が“Don’t knock”になっていました。
外国のことよく知らないんですね。ほほえましい(笑)。
見方を変えれば、近代合理性を欠く、外国のこともよく知らない国が、核もっているのですから、恐ろしい話です。
でも、どうでもいい北朝鮮の映画ばかり観てきて、段ボール箱五つぐらいありました。
でも見ないとね、労働新聞を列車に運んで駅で降ろすとか、人民学校の運動会に日本の買い物競走の伝統が残っているとか、「ひえ-ツ」と驚くような北の日常の動態が分かりません。
水力発電所や製鉄所も出てきますから社会科学として重要なんです。
定年前で、もういいだろうということですべてラヂオプレスの弟子にあげたら喜んで「毎日観ます」と言う。
後日、「日曜日に何をしているの?」と尋ねたら、「北朝鮮の映画を観ています」と嬉しそうに言っていました。
専門性を伝達するにはオタクが最適です(笑)。
藤井
そういう一種の北オタクが日本にいても悪くはないでしょう。
古田
でも、はじめは善悪がよく分からない。
だから、「悪いこと言わないから、北は悪いと覚えておきなさい。そうでないと、君は社会に出て誰からもよく思われないよ」と、教えなければなりません。
オタクは生きていくのが大変なんです。
日曜日にも北朝鮮の映画見ているから結婚も難しい(笑)。
注1 プルガサリー1985年に北朝鮮が制作した怪獣映画。
監督は拉致された申相玉。
時代劇の中に怪獣が登場する特撮映画作品で、「ゴジラシリーズ」を手がけた東宝特撮チームが招かれ、特殊技術を担当した。