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「昭和の読書」 荒川洋治著/「私を宇宙に連れてって」メアリー・ローチ著

2011年11月25日 17時24分53秒 | 日記
日経新聞11月20日20面より

「昭和の読書」

今の文学の欠落を浮き彫りに


文学書が読まれなくなったなどと言っても、書店に行けば、小説の新刊書がたくさん並び、発行部数10万部を超える単行本も出ている。何かどう変わったのか。本書は、ここ20~30年で失われていった書物に焦点を当てながら、現在の文学をめぐる欠落を浮き彫りにしたエッセー集だ。

6本の書き下ろしのエッセーを軸に著者が詳しく論じるのは、1950年代後半から70年代初めまで盛んに刊行された文学全集、文学の風土記・文学散歩、それに、何人もの作家を論じた「作家論」や、文学の流れを追った文学史、詩の全集・アンソロジーといった本である。

文学の歴史と風土、作家相互の位置付け。それを知らず知らずのうちに授けてくれる。そんな形態の書物が盛んに出版され、読まれた時代があった。

今はどうか。「作家たちの話題作はいつも出て、読書界、文学の世界をにぎわすが、すべて単発。騒ぎは、点で終わる。線にならない」。その結果、文学は「書く人だけがいて、歴史どころか景色すらない世界になってしまった」。

文学全体のイメージが描けず、文学史への通路が閉ざされた時代という。その分、丹羽文雄、小野十三郎、耕治人、小山清といった忘れられた大作家・詩人、埋もれた書き手を紹介する著者の筆は熱い。70年代までを知る読書人なら、この虚空の叫びに、耳を傾けずにはおられまい。
(幻戯書房・2400円)

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「私を宇宙に連れてって」

有人宇宙飛行の人間的な裏面史


下ネタ満載。脱力系の宇宙開発物語である。
火星に探査機を送り込むことなど米航空宇宙局(NASA)にとって今やそれほど冒険的な試みとは言えない。しかし人間を送って無事に地球に戻すとなると話は違う。

人間は飲み食いと排せつが不可欠でけんかもすれば恋もする。この手のかかる有機生命体を、いかにして水も空気も得られない閉鎖空間で何年も健康な状態で生き延びさせられるか。難問である。

厄介者の宇宙旅行のため、宇宙食から無重力用便器まで様々な新技術が開発されてきた。科学ジャーナリストの著者はNASAの技術開発部門などに取材し、有人宇宙飛行のすこぶる人間的な「裏面史」を掘り出して紹介する。

月周回軌道にいるアポロ10号宇宙船の乗組員と地球の管制センターとの間で、船内に浮遊させてしまった大便の処置を相談していたなどと当時はだれも口外しなかった。

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の閉鎖環境訓練の様子も登場する。様々な爆笑エピソードから、重力のない環境は人間の生理や生活習慣に反するものだとつくづく知らされる。宇宙飛行士の笑顔の裏側には人に言えない、見せられない苦労があるのだと知る。

そんな思いをしてまで人はなぜ宇宙に行くのか。それが本書の大まじめな問いかけだ。池田真紀子訳。
(NHK出版・2000円)
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