朝日新聞の購読停止を決定したら、新聞を読む気が戻って来た。
昨日の日経新聞には、読むべき記事が幾つか掲載されていた。
見出し以外の文中強調は私。
世界低成長短期か長期か
緩やかな回復が続く世界経済。
だが経済の本当の実力を示す潜在成長率(3面きょうのことば)はいっこうに上がらず、日本や米国も景気拡大局面の割に成長の勢いが鈍い。
金融危機後に企業が設備投資などを絞り込んだ後遺症だ。
こうした短期のダメージに加え、世界のデジタル経済化という劇的な構造変化が長期間、潜在成長率の頭を押さえ続けるとの見方も広がってきた。
260兆円分消える
フランスかインドの経済規模に匹敵する約260兆円分の名目国内総生産(GDP)が失われた―。
三菱UFJモルガンースタンレー証券の宮崎浩氏はリーマン危機後に潜在成長率が急降下した影響をこう試算する。
2016年の経済協力開発機構(OECD)加盟国合計のGDPは53.6兆ドル。
潜在成長率が07年時点の2.1%のままなら16年のGDPは55.9
兆ドルになった可能性があり、2.3兆ドル(Iドル=113円換算で259兆円)下押しした。
世界全体のGDPの3%相当だ。
17年のOECD加盟国平均の潜在成長率は1.5%。
07年の2.1%からリーマン危機後に急低下し底ばいが続く。
日本は最近5年間で女性や高齢者の就労が増えたため0.2ポイント上がったが、それでも17年は0.7%。主要7カ国(G7)では最低レベルだ。
潜在成長率が低下した最大の要因は設備(資本)投資の急減だ。
リーマン危機直後の09年にOECD加盟国の設備投資は8.6兆ドルと前の年から約10%減少。
12年にはリーマン前の水準を回復したものの伸びは緩やかだ。
03~07年の年平均の伸びは7.5%だったのに対し、15年までの4 年間は4.2%に鈍った。
危機の影響もあってイノベ―ションが滞り、日本企業の稼ぐ力も弱まった。
日本の製造業について研究費と営業利益の関係を見ると金融危機前 の05~07年度の営業利益は累計で61.8兆円。
直前02~04年度の合計の研究費(30.5兆円)の2倍の果実となって 帰ってきた。
ところが14~16 年度の営業利益は累計で51兆1千億円と、11~13年度の合計研究費(32兆7千億円)の1.5倍にとどまる。
国際通貨基金(IMF)は、先進国の投資の落ち込みで技術進歩などに左右される全要素生産性の伸びが年0.2%分鈍くなったと分析した。
雇用も大きい。
企業が採用を絞って若者失業者が急増したり雇用の非正規化か進んだりした。
日米などは失業率が歴史的低水準とはいえ、世界全体でみれば直近16年の失業率は6.3%と危機前より高い。
日本生産性本部によるとOECD加盟国平均の時間当たりのもうけ(労働生産性)の伸びは10~15年に年2.2%だった。
比較可能な1970年以降では最低だ。
急激な景気後退や雇用調整が負の影響を及ぼし続けることを経済学で「履歴効果」と呼び、この後遺症で潜在成長率が恒久的に押し下げられたと分析する声が広がっている。
こうして短期に刻まれた危機の爪痕だけでなく、より長期間、潜在成長率を抑えそうな要因がある。
急速なデジタル経済化だ。
アップルやライドシェア(相乗り)最大手のウーバーテクノロジーズなどのようなIT(情報技術)企業はそもそも自前の工場をもたない。
旧来の製造業のように設備投資による資本蓄積を必要としないため、潜在成長率を押し上げる力が弱まる。
トヨタの17年3月期の設備投資はグループ連結で1.2兆円なのに対し、アマソン・ドットコムの17年はおよそ半分の50億ドル(約5500億円)。
米グーグルの持ち株会社アルファベットの投資額も約1兆円だ。
前出の宮崎氏が産業連関表を分析したところ、自動車など輸送用機械の設備投資は16年度に2.7兆円にのぼり、関連する裾野を含め5.6兆円の波及効果を生んだ。
一方、ITを含む情報サービスの設備投資は0.8兆円にすぎない。
自動車も電気自動車への移行で1台あたりの部品点数が減ると恩恵を受ける産業の裾野は狭まる。
雇用失う小売り
雇用も圧迫する。
インターネット通販の急拡大で米国では玩具販売大手トイザラスが経営破綻。
アマゾンが年末商戦へ12万人を臨時に雇う計画を立てる一方、小売業は店舗閉鎖などで多くの雇用を失いつつある。
米労働省によると17年9月の衣料品系流通業の雇用者数は約132万人と、07年のピーク時より1割超少ない。
省人化で人的資本の蓄積が鈍る可能性を示している。
小峰隆夫・大正大学教授は「デジタル化でサービスが安くなって付加価値が低くなる分、成長率が高まりにくい」と説明する。
デジタル化で設備投資の伸びが鈍化する結果、世界的な企業のカネ余り現象がさらに顕著になる恐れがある。
問われるのは潤沢な手元資金をどのように次の成長につなげていくかだ。
税制を含め、経済政策も常識にとらわれない発想で見直す時に来ているのかもしれない。
(川手伊織)